クラウド勤怠管理システムの選び方
勤怠管理システムと人事・給与システムを連携させる際の意外な落とし穴
クラウド勤怠管理システムを導入するなら、人事・給与システムと連携させるのが自然だ。連携時には企業ごとの勤怠管理業務ルールの違いに注意する必要がある。自社に合った仕様を正しく見極めるヒントを紹介する。
クラウド勤怠管理システムを活用する上で、連携の必要なシステムが幾つかある。代表的なのは、集計済みの勤怠データを渡して給与計算をする「給与システム」や、働く人の名前や所属といった人事データを管理する「人事システム」などだ。本稿はこの代表的な2つのシステムとクラウド勤怠管理システムを連携させる際に、つまずきがちなポイントについて考察する。新たにクラウド勤怠管理システムとの連携が進むシステムなど、近年の技術動向と今後の可能性も紹介する。
勤怠データ(集計結果)の連携
クラウドかどうかにかかわらず、勤怠管理システムの重要なアウトプットは、給与計算のための勤怠データだ。これを基に従業員の勤務実績を正しく収集し、ルールに基づいて集計することが、勤怠管理システムの基本的な役割となる。勤怠データを働き方改革の推進や、コンプライアンス強化のためのリアルタイム管理に活用する動きも広がっているが、基本的な役割は変わらない。
企業は勤怠管理システムで集計した勤怠データに基づいて、給与システムで給与支払額を確定し、給与を計算する。このため「勤怠管理システム」とうたっているクラウドサービスであれば、間違いなく勤怠データによる給与システムとの連携機能を持っていると考えていいだろう。
勤怠データによる連携については、クラウド勤怠管理システム導入を検討する打ち合わせの際に「決まったタイミングで給与システムへ勤怠データを自動的に渡す自動連携機能は必要か」と、検討中の企業から質問を受けることがある。より便利にシステムを使いたいと考えるならば気になって当然ではあるが、実際に勤怠管理システムと給与システムを自動連携させている事例はあまり多くない。例えば110社20万人以上が利用しているクラウド勤怠管理システム「バイバイ タイムカード」の場合、給与システムと自動連携させている事例は、原稿執筆時点では2社にとどまる。
勤怠データの自動連係が行われない理由
自動連携がされない理由は、主に3つあると筆者は考えている。
1つ目の理由は、タイミングだ。勤怠管理システムから給与システムへの連携は、締め日がはっきりしていて、毎月定期的に発生する処理だ。ただしそれは必ずしも「毎月の決まったタイミングで、自動的に勤務実績を締めてデータを渡すだけ」でよいわけではない。
勤務実績の締め業務は、打刻忘れやシフト変更漏れなどを現場マネジャーが確認、修正してから、その月の勤務実績を承認して、初めて完了する。この業務完了を見極めて、給与計算をスタートさせるのには、どうしても人が介在する。現場マネジャーによる承認が遅れ、勤怠実績の締め業務が完了していないにもかかわらず、自動的に給与計算が始まってしまってはまずいわけだ。こうした「人間が受け渡しタイミングを判断しなければならない」点が、自動化できない理由の一つだと考えられる。
2つ目の理由は、勤怠締め業務をスピードアップさせたいというニーズの高まりだ。これは前述した連携タイミングの難しさとも密接な関係がある。勤怠実績の締めから自動連携までのスケジュールに余裕があれば、タイミングの難しさも問題にならない。ただし近年は、スピーディーな経営判断をしたいというニーズが高まっている。人件費を迅速に把握するためには、毎月最短で給与計算をする必要があり、その作業には人の確認と判断が必要となる。
3つ目の理由は、コストパフォーマンスの悪さだ。勤怠管理システムと給与システムの連携は、月にたった一度だけ、データを渡せば終わってしまう。たとえ数万人の給与支払対象者がいる企業であっても、その作業は一度で終わる。勤怠データを自動連携するためにかかる手間やコストと、それによって得られるメリットのバランスが悪いのだ。
こうした3つの理由から、勤怠データの連携は、あまり積極的に自動化されておらず、CSVなど一般的な形式のファイルを使った連携が一般的となっている。クラウド勤怠管理システムの多くは、さまざまな給与システムや給与計算ソフトウェアと勤怠データのファイル連携実績を持っているので、各社Webサイトなどで確認してほしい。
汎用データによる連携時には「時間の表現」と「割増計算」に注意
正式なサポート対象にはしていないとしても、特定の給与システム向けではない、汎用(はんよう)データフォーマットを出力する機能を持った勤怠管理システムは少なくない。こうした汎用の勤怠データを利用して自社の給与システムと接続する際、勤怠管理業務に特有の注意すべきポイントがある。
一つは、時間の表現だ。給与システムの中には、時間のデータを10進数で受け取るものと、60進数で受け取るものがある。
もう一つは、残業代や深夜割増賃金の計算方法だ。特に時間給で働く人の給与計算をする場合、残業代を通常の時間給の125%として集計するケースと、25%で集計するケースがある。例えば、ある従業員について「その月の総労働時間が188時間、そのうち残業が20時間」だったとすると、勤怠管理システムに求められるアウトプットは、前者の場合は「通常勤務時間168時間と残業時間20時間」、後者の場合は「勤務時間188時間、割り増し対象20時間」という勤怠データになる。
こうした勤怠管理特有の注意点も押さえながら、勤怠データの連携を進めてほしい。
従業員マスターの連携
勤怠管理システムを動かす上で最も重要なマスターデータ(事業活動の根幹となるデータ)は「従業員マスター」だ。この従業員マスターの管理方法は、企業によって異なる。専用の人事システムで管理している企業もあれば、「Microsoft Excel」などの表計算ソフトウェアで管理している企業もある。従業員マスターを給与システムで管理している企業も少なくない。
一言で従業員マスターといっても、勤怠管理システムと給与システムでは、必要になる情報と、必要となるタイミングが違うことに注意していただきたい(表1)。
| 勤怠管理システム | 給与システム | |
|---|---|---|
| 必要な情報 | 従業員名 | 従業員名 |
| 従業員コード | 従業員コード | |
| 種別(従業員、アルバイトなど) | 種別(従業員、アルバイトなど) | |
| 所属(部署や店舗) | 所属(部署や店舗) | |
| ― | 給与単価 | |
| 振込口座 | ||
| 通勤手当 | ||
| 控除情報 | ||
| 住民税 | ||
| 必要なタイミング | 勤務開始前 | 最初の給与支払タイミング |
勤怠管理システムで必要となる従業員マスターの項目は、極めて少ない。これに対して給与システムで必要となる従業員マスターの項目は、単に項目数が多いだけでなく、給与単価や口座情報などの機微情報も扱うこととなる。
それぞれのデータが必要となるタイミングにも違いがある。勤怠管理システムの従業員マスターは、その従業員が着任して勤務を開始するよりも前に登録を済ませておく必要がある。打刻用のICカードやQRコードなどの本人認証手段を発行したり、シフトを作成したりするためだ。これに対して、給与システムで従業員マスターをそろえるべき期限は、最初の給与支払のタイミングまでとなる。例えば残業代の支払いが月末締め翌月末払いの企業の場合、勤怠管理システムと給与システムには、従業員マスターが必要となるタイミングに2カ月以上のタイムラグが開く可能性があるのだ。
勤怠管理システム導入プロジェクトを進める際、同じ従業員マスターを扱う給与システムとの間に、必要な情報量と必要となるタイミングの違いがあることを理解することで、より円滑で現場に即した運用設計ができるはずだ。
システム連携の新たな動き
新たなニーズや技術の台頭とともに、クラウド勤怠管理システムと連携させるさまざまなサービス、システムが登場している。近年新たに見られるようになった、クラウド勤怠管理システムのシステム間連携の動向について幾つか紹介する。
1つ目は、ビジネスインテリジェンス(BI)システムとの連携だ。クラウド勤怠管理システムは給与計算のための集計に加えて、働き方改革の促進や、コンプライアンス強化のための情報収集などにも活用されるようになってきた。企業の間では、クラウド勤怠管理システムで収集した情報だけでなく、POS(販売時点情報管理)システムやプロジェクト管理システムのデータなど、さまざまなデータを多面的に分析する動きがある。残業の原因や人の適正配置など、人に関わるさまざまな分析をしたいというニーズの表れだと言える。
2つ目は、IoT(モノのインターネット)機器との連携だ。例えばPhotosynthの「Akerun入退室管理システム」は、既設のドアに貼り付けるだけで電子錠による入退室管理が始められる製品。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を公開しているため、一部のクラウド勤怠管理システムと連携可能だ。他にも運送業や物流業などで、車両管理のために自動車へ搭載して運行情報を記録するデジタルタコグラフと、クラウド勤怠管理システムを連携させたいというニーズも出てきている。
関係する全てのシステムが自動連携すれば、理想的で快適な環境になるだろう。ただし業務の流れや現場のニーズによっては、自動化することが合理的でなかったり、手間とコストをかけて連携させる価値が認められなかったりする場合もある。勤怠管理にまつわる業務をよく観察し、運用設計とともに最適なシステム間連携を検討してもらえれば幸いだ。
クラウド勤怠管理システムをBIやIoT機器と連携させるといった、従来とは違った新しい価値を提供する取り組みも始まっている。コンプライアンス強化などの堅いニーズに応えることばかりでなく、使う人、つまり働く人もワクワクするようなクラウド勤怠管理システムの活用シーンがもっと増えていくことを願っている。
駒井拓央(こまい・たくお)
ネオレックス取締役社長。ASP・SaaS・IoT クラウド コンソーシアム(ASPIC)理事。MIJS(Made In Japan Software & Service)コンソーシアム 人材育成委員会副委員長。ネオレックスはクラウド勤怠管理システム「バイバイ タイムカード」を提供する名古屋のITベンチャー企業であり、2017年に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の審査委員会特別賞を受賞した。
このコラムについて
パート、アルバイト、正社員など、社内で働く全てのメンバーが利用する勤怠管理システムは、一度導入したら他のシステムに変更するのはなかなか大変だ。だからこそ、できるだけ多くの方が、自社にぴったりの勤怠管理システムに出会えるよう、サービス選びのポイントを紹介する。
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クラウド勤怠管理システムの選び方
パート、アルバイト、正社員など、社内で働く全てのメンバーが利用する勤怠管理システムは、一度導入したら他のシステムに変更するのはなかなか大変だ。だからこそ、できるだけ多くの方が、自社にぴったりの勤怠管理システムに出会えるよう、この連載を進めていきたい。
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