IBMが語る「量子コンピュータ」実用化への道筋【前編】
量子コンピュータの実用性を測る新指標「量子ボリューム」とは
IBMは量子コンピュータの取り組みを進めている。量子コンピュータの開発状況と新指標「量子ボリューム」について、同社の量子コンピュータ戦略責任者が語る。
2019年9月末、IBMは量子コンピューティング戦略を前進させ、同社初の53物理量子ビットのモデルを含む新しいシステムを発表するとともに、米ニューヨーク州北部に「IBM量子コンピュテーション・センター」(IBM Q Quantum Computation Center)を開設した。
IBMは新システムと合わせて、新指標「量子ボリューム」(Quantum Volume)も発表した。これは量子コンピューティングシステムの全体的な性能を、速度やパフォーマンスの枠を超えてより正確に判断するための指標だ。この指標は、「量子優位性」(Quantum Advantage)の実現に向けた進捗状況を示す役割を果たす。量子優位性とは、特定の問題を解決するときに、量子コンピュータが古典システムの性能を上回ることを指す。
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ボブ・ストール氏は、IBM基礎研究所で、量子コンピュータの戦略とエコシステム部門のバイスプレジデントを務める。本稿では同氏に、量子計算科学の進化や、新指標の量子ボリュームについて話を聞いた。
―― 53物理量子ビットシステムの登場は量子開発者にとってどのような意味があるのでしょう。
ボブ・ストール氏(以下、ストール氏) 量子コンピュータの性能を計る方法は幾つかある。アプリケーションを開発するときに、重要になるのが量子ビット数だ。単純に多くの量子ビット数を必要とする問題もある。だが実際に必要なのは、問題を処理するために過不足のない量子ビット数と性能を持った量子コンピュータだ。そこで役立つのが当社の「量子ボリューム」という考え方だ。量子ボリュームは対象の量子コンピュータが持つ全ての特性を評価基準にすることで、その処理能力について正確に表現する。
―― 例えば100物理量子ビットを持つシステムに意義はありますか。
ストール氏 20物理量子ビットシステムを実行できるシミュレーターは、スマートフォンでも動作する。だが50物理量子ビットに近づくと、シミュレーターの実行に必要なメモリ量はペタバイト単位になる。50物理量子ビットを超えると、量子コンピュータのシミュレーションをする手段はない。その段階からは、実物の量子コンピュータが必要になる。
―― では、開発者がIBM量子コンピュータ向けに有意義なアプリケーションを作成できるようになるまでどの程度の時間がかかるでしょうか。
ストール氏 1論理量子ビットを表現するのに約1000物理量子ビットが必要になる。結局アプリケーション開発が可能になるのは、このような論理量子ビットがあってこそだ。一方で当社が現状で用意できるのは、53物理量子ビットだ。
現在の物理量子ビット数で開発者ができることも幾つかあるが、中には500か1000の論理量子ビットが必要になるアプリケーションもある。それは今後10年以内に実現する可能性がある。量子優位性が起こるのはそのときだ。当社は、量子ボリュームの数値を毎年倍増する予定だ。
―― 短期的に見て、古典システムよりもIBMの量子コンピュータを使った方が上手くいくことにはどのようなものがあるでしょうか。
ストール氏 金融サービスのリスク分析のような分野だろう。株式や債券への投資や、新しい工場の建設場所を検討する場合、そこには多種多様な要因が絡む。労働力の質や原材料のコスト、相互関係を持つその他の要因など、正確なリスク計算のために含めるべき項目は多数存在する。通常のコンピュータ(古典コンピュータ)で計算を可能にするために、こうした要因を大幅に単純化することは少なくないが、それと引き換えに計算結果の正確性は失われる。量子コンピューティングなら、計算に含めるべき要因が指数関数的に増えても対応できる。
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IBMが語る「量子コンピュータ」実用化への道筋
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