Barclays Bankが試験導入
「IBM Q System One」が切り開く量子コンピュータの未来(1/2 ページ)
いつの日か、量子コンピューティングは宇宙の謎を解き明かすかもしれない。量子コンピューティングを早期導入したBarclays Bankの前に今立ちはだかる最大の壁は、量子コンピュータで実行できる程度に問題をシンプルにすることだ。
量子コンピューティングは1982年、物理学者の故リチャード・ファインマン氏によって初めて提唱された。それ以降、理論研究者は、最新コンピュータの核をなす論理ビットを量子コンピューティングに置き換えるアイデアに手直しを加え続けている。理論上、量子コンピュータは、はるかに小さな要素での処理を可能にし、従来のコンピュータ回路より格段に効率が高いと思われる新しい種類の処理を実現する。ムーアの法則が本当に壁に突き当たるのであれば、この目標はなおさら早急に達成されなければならない。
とはいえ、量子力学の法則を活用して汎用の商用量子コンピュータを開発するのは、想像よりも困難であることが分かっている。ファインマン氏が優れたアイデアを提案してから37年になるが、ITビジネス界でいわれているように、いまだ量子コンピューティングは解決策を求めるテクノロジーのまま変わっていない。
だが、明るい展望が見えないとしても、この分野の熱は大きく高まっている。
2019年のCESにおいて、IBMは「IBM Q System One」を発表した。これは2.7メートルのガラス製ケースで密閉された光沢のある立方体で、同社CEOのジニー・ロメッティ氏は世界初の商用量子コンピュータと称している。IBM Q System Oneは、工業デザイナーが巧妙に作り上げた印象深いコンピュータだ。だが、従来型コンピュータに比べて、実行できるアプリケーションの種類とパフォーマンスに制限がある。これは同社が進んで受け入れている現実だ。
IBM ResearchでIBM Q戦略およびエコシステム担当のバイスプレジデントを務めるボブ・ストール氏は次のように語る。「量子コンピューティングはまだ初期段階だ。例えるなら、現在使われている従来型コンピュータの1950年代の姿だろう。だが当時と違うのは、企業も個人もIBM Qのプロトタイプにアクセスでき、基礎知識の習得という点で量子への準備を進めている点だ。さらに、量子コンピュータが従来型コンピュータの機能に勝ることを示す実用的なアプリケーションが開発されている」
併せて読みたいお薦め記事
量子コンピュータの現在
量子コンピュータの課題に挑む
IBMの量子コンピュータに夢中になるBarclays
量子を積極的に取り入れようとしている企業の1つがBarclays Bankだ。
2018年12月、同行はIBM Q Networkに参加した。IBM Q Networkは、量子コンピューティングに関心のあるフォーチュン500企業、新興企業、リサーチラボ、大学から成るコミュニティーだ。このコミュニティーへの参加によって、同行はIBMの量子コンピューティングにアクセスできるようになり、量子コンピューティングソフトウェアでIBMの技術エキスパートや研究者とつながることができる。
「当行は、従来型プロセッサで実行される量子シミュレーターだけを使うのではなく、実際の量子プロセッサで実験を行って量子コンピューティングを経験したいと強く望んでいる」と話すのは、Barclaysの投資銀行でCTOを務めるリー・ブレイン氏だ。
コンピュータサイエンス博士号取得者であり、ブロックチェーンやスマートコントラクトなどの新興テクノロジーを中心に研究しているブレイン氏は、Barclaysの量子コンピューティングプログラムを運営している。同氏によると、現在の量子コンピューティングで実行している作業の大半は、量子コンピュータの論理面に特化しているという。アルゴリズムは(ビットコインなどのブロックチェーンを支える暗号を解読するような)驚異的なことを行うために設計されている。だが現在に至るまで、研究者はこのようなアルゴリズムをシミュレーターでしか実行できていない。
IBMの量子コンピュータとコミュニティーは出発点だ。「当行は、この複雑な分野を深く学ぶため、既存の量子コンピューティングの専門家と協力する必要がある」(ブレイン氏)
Barclaysの順を追ったアプローチ
Barclaysの量子実験担当者が最初に取り掛かったのは、量子コンピューティングに適する課題を幾つか具体的に特定することだ。そのため、今日の銀行業に存在する最適化の問題を幾つか調査した。まず、最適化問題をそれぞれ単純かつ抽象的な表現に置き換え、アルゴリズムにできる問題の性質を分類した。例えば検索、並べ替え、因数分解、一次方程式の解を求めるアルゴリズムなどだ。
その後、その種の問題を解くための量子アルゴリズムが既に公開されているかどうかを確認した。米国立標準技術研究所(NIST)は既知の量子アルゴリズムの包括的なリストを所有している。このリストは、より複雑な演算の基盤を構築する可能性がある便利なアルゴリズムを特定するのに役立つ。
次に、量子プロセッサで実行できそうな各問題について、シンプルにしたバージョンの構築を試みた。これにより、特定の課題2つに集中することが可能になった。1つは、資産管理のポートフォリオ最適化に関連する課題、もう1つは資本市場における取引完了プロセス強化に関連する課題、つまり清算効率だ。Barclaysは、実験を拡大するターゲットを清算効率に決め、実験結果に関する簡単なレポートの公開を2019年内に予定している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社kickflow] 2社の事例に学ぶワークフロー改革:属人化解消や年数万件の申請書類削減のコツ -
製品資料
[NTTPCコミュニケーションズ株式会社] 「回線速度不足」だけが原因ではない? Web会議の遅延を解決する方法とは -
製品資料
[東京エレクトロン デバイス株式会社] 工場の可用性向上に重要な「7つの領域」と対策 OTセキュリティ強化の基礎知識 -
製品資料
[リコージャパン株式会社] 問い合わせ対応で本来の業務が進まない、総務や情シスの負担をどう減らす? -
製品資料
[リコージャパン株式会社] 自社データから高精度な回答を生成、簡単に生成AIチャットボットを構築する方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
全社標準Copilotに絶望? MS Copilotで問い合わせ6割減できた企業は何が違った
-
2
ITエンジニア1265人調査 生成AIを使い込むほど「人の確認」が重い理由
-
3
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
4
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
5
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
6
「Microsoft一択」で本当にいいのか 知らぬ間にライセンス費用が膨らむ真相
-
7
AI活用か新たな脅威か OpenAI自律エージェントがRubyGemsを急襲
-
8
機械学習について、正しく説明している文章はどれ?
-
9
APIキー奪取から3時間でクラウド掌握 Anthropicが暴いた「バイブハッキング」の現実的な防御策
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
6
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
7
「スクラム」と「カンバン」の違いとは? アジャイル型開発手法を徹底比較
-
8
AI時代に成功するための「ナレッジマネジメント」ベストプラクティス
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー