生成AIツールの導入や運用を具体化するに当たって、CIOが知っておくべき取り組みにはどのようなものがあるのか。3つ紹介する。
企業が人工知能(AI)ツールを導入し、その成果を評価する動きが加速している。AIツールは導入すれば終わりではなく、運用する上で注意すべき点がある。前編に続き、CIO(最高情報責任者)が取り組むべき点を3つ紹介する。
サイバーセキュリティはCIOやCISO(最高情報セキュリティ責任者)にとって重要な課題だ。生成AIはそうした課題を複雑化させているという見方がある。コンサルティング企業RHR InternationalのCIO、ブライアン・グリーンバーグ氏は「サイバーセキュリティのリスクは生成AIによって増大している」と指摘する。
グリーンバーグ氏によると、生成AIとサイバーセキュリティの関連は企業内部と外部それぞれの視点から説明できる。企業内部では、従業員が生成AIを安全に使用できるよう取り組む必要がある。一方、外部の攻撃者は、企業のセキュリティ対策をすり抜けるために生成AIツールを使用している。
企業は生成AIの利用拡大をどのように管理するかという課題にも直面している。クラウド監視ツール「PagerDuty」を手掛けるPagerDutyのCIO、エリック・ジョンソン氏によると、企業のセキュリティ、リスク、コンプライアンスに関する部門は、生成AIの発展に伴って増大するリスクに対処するため、継続的な努力を強いられている。「サイバーセキュリティ部門は、生成AIを利用する従業員の挙動を監視するため、ポリシーやツールを常に進化させる必要に迫られている」(ジョンソン氏)
一方、基本的なセキュリティ対策に苦心している企業も存在するとグリーンバーグ氏は指摘する。コンプライアンスを「やるべきことリスト」のチェックボックスを埋めるようなものだと捉える企業や、サイバーセキュリティの基本を適切に理解していない企業も依然として存在すると、同氏は警鐘を鳴らす。
2025年も引き続き、データガバナンスがCIOにとって重要な課題だと指摘する声がある。
法律事務所Mayer BrownのグローバルCIO、エベット・パストリザ・クリフト氏は、データガバナンスを重視しているという。「当社は数十年にわたって収集してきた膨大なデータを有している。2025年はデータを充実させるだけではなく、データの品質を管理するチームを構築することに注力する」(クリフト氏)
具体的には、システム間のデータ連携、分類方法の整理の他、データを意思決定や高度な分析に利用するためのデータクレンジング(データの重複やエラーを修正すること)を実施する。高品質なデータがあれば、生成AIツールの導入にも役立つとクリフト氏は説明する。
「豊富で利用しやすいデータは、生成AIツールを開発したり活用したりするための基盤となる」(クリフト氏)
一方、その重要性を経営層に説明し、理解を得ることに苦労するCIOがいるとクリフト氏は指摘する。「地道なデータ管理は生成AIの有効な活用につながる。その理解を得るためには、経営層とのコミュニケーションが重要であり、それがCIOの責務だといえる」(クリフト氏)
ジョンソン氏も、生成AIの運用を支える良質なデータの重要性と、企業がデータの品質向上に取り組むことの難しさを指摘する。ジョンソン氏によると、同様の問題は企業がERPを導入し始めた頃から続いているという。同氏は「データ品質の重要性は常に存在しているが、企業は軽視しがちだ」と指摘する。
生成AIやAIエージェント(自律的な意思決定やタスクの実行をするシステム)といった技術の活用には、適切なデータ基盤が必要だとジョンソン氏は強調する。「データを適切に管理できれば、データを活用する機会は増える」と同氏は付け加える。
生成AIの活用やAIエージェントによる業務の自動化が企業の中で拡大するにつれて、CIOによるチェンジマネジメント(組織の変革を成功させるためのマネジメント手法)の重要性は高まる。
「チェンジマネジメントは、技術の導入よりも難しい」とクリフト氏は指摘する。「魅力的なツールを導入すること自体はできるが、従業員がそれらに適応する意欲がなければ、状況は進展しない」(クリフト氏)
Mayer Brownは、規制の監視、事業開発、M&Aを実施する前のデューデリジェンスで生成AIを活用している。具体的には、報告書や財務データを要約したり、重要なポイントを抽出したりする。
従来の方法で成果を上げてきた従業員に新しい技術を受け入れてもらうには、チェンジマネジメントだけではなく、感情的知性(EQ:Emotional Intelligence Quotient)も必要だとクリフト氏は指摘する。「どのように対話を進め、従業員に変化の価値を理解してもらうかを考えることが重要な課題だ」
次回も引き続き、CIOが取り組むべき課題を紹介する。
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