機械学習が、量子コンピュータの重要な用途になるかもしれない。研究者や開発者が、量子コンピュータを使った、より「人間的な」AI(人工知能)の実現の鍵を探しているからだ。課題とメリットは何だろうか。
研究者は長年、コンピュータが量子レベルでデータを処理できるアルゴリズムを研究してきた。そして現在、量子コンピュータの物理的な機能が、この理論にようやく追い付き始めている。これを機に、量子コンピュータを利用したAI(人工知能)「量子AI」を使って、少ないデータで機械学習アルゴリズムを作成できるようになる可能性がある。
ただし、それにはまだ時間がかかる。既存の量子コンピュータは、量子データの符号化、誤り訂正、計算時間について、技術的な制限に直面しているからだ。しかし、より人間的なAIエンジンを実現しようとしている研究者は、これらの課題を乗り越える必要がありそうだ。ニューラルネットワークを中心とした人間の知能の根底には、量子学的な現象があることを示唆する研究成果も登場している。
いずれにしてもAI研究者は当面、量子AIを構築する新たなアプローチを学ぶことになるだろう。
「量子コンピュータで動作するアルゴリズム(量子アルゴリズム)は、タスクの種類にかかわらず、従来型コンピュータで動作するように設計されたアルゴリズムとはかなり違う」。IBMの調査部門IBM Researchで量子コンピューティング分野のバイスプレジデントを務めるボブ・スーター氏はそう語る。
スーター氏は、今日の量子コンピューティングシステムの制約下におけるAIアルゴリズム開発について、やるべきことがまだたくさん残っていると認識している。それでも、量子情報の最小単位「量子ビット」5つ分の商用量子コンピュータ「IBM Q Experience」で動作する、人工ニューラルネットワークに関する初期研究事例もある。この研究事例はパビア大学のチームが公開したものだ。
短期的には、量子アルゴリズムの研究が、従来型コンピュータで動作するAIエンジンの改良のヒントになる可能性もある。
「科学者が量子アルゴリズムに関する研究成果を活用し、従来型コンピュータでの機械学習における問題を、より効率的に解決する方法を発見した例がある」とスーター氏は言う。例えばワシントン大学の博士課程の学生であるユーイン・タン氏は、量子AIの研究を経て、優れたレコメンデーションシステムを開発した。
既存の量子コンピュータに関する初期研究が、従来型コンピュータでうまく機能しそうなAIアルゴリズムの発見につながったケースもある。例としてIBMは、2017年にIT分野の研究開発企業Raytheonの研究開発センター、Raytheon BBN Technologiesと共同で研究を実施した。その結果、量子コンピュータに関する研究の結果を応用し、特定の機械学習タスクをより効率良く実行することに成功した。
その他にも、研究者は量子コンピューティングにヒントを得て、機械学習アルゴリズムを改良できるだろう。より少ないデータでモデルを学習させたり、データ構造の検出や分類の精度を高めたりできる可能性もある。量子コンピューティング企業D-Waveは、こうしたアルゴリズムの活用を支援する機械学習事業部門Quadrantを立ち上げた。
「量子アルゴリズム自体の改良や、それを応用した研究にはさまざまな方向性がある」と、ヘリオット・ワット大学で工学・物理学部フォトニクスおよび量子科学研究所准教授を務めるマーケル・ハートマン氏は語る。例えば、機械学習アルゴリズムの個別の計算ステップを高速化する方法に注目する研究がある。量子アルゴリズムについて、より低い抽象化レベルで動作する仕組みを探る研究もある。
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