2つの鍵交換方式【前編】
鍵交換の2大アルゴリズム「Diffie-Hellman」「RSA」 何が違い、どちらが安全?
暗号化通信に欠かせない鍵交換。主な方式として「Diffie-Hellman方式」(DH法)と「RSA方式」の2つがある。それぞれどのように違い、どちらがより安全なのか。
暗号化通信では、情報の送信者と受信者が暗号化および復号に用いる鍵を共有する必要がある。その鍵を安全に交換するための技術が「鍵交換アルゴリズム」だ。代表的な鍵交換アルゴリズムである「Diffie-Hellman方式」(DH法)と「RSA方式」(Rivest-Shamir-Adleman)の違いを説明しよう。
どのような鍵交換方式なのか
DH法は、セキュリティを確保できていない通信経路において、2者間で公開鍵を共有できるようにする。暗号化と復号で異なる鍵(非対称鍵)を用いる。暗号化と復合の際は1つの公開鍵と1つの秘密鍵を使用する。
暗号化と復号で共通の鍵(対称鍵)を用いる暗号方式と比べ、非対称鍵を用いる場合は計算量が多く処理が低速になる。そのため、一度に大量の通信を暗号化することには向かない。DH法は、「AES」(Advanced Encryption Standard)などの対称鍵暗号方式において、鍵を安全に交換するために用いられることがある。
RSA方式も非対称鍵を用いる。これは現在広く利用されている鍵交換アルゴリズムだ。
DH法とRSA方式には幾つか違いがある。特に大きな違いは、RSA方式が対称鍵暗号方式だけでなくデジタル署名にも使える鍵交換アルゴリズムだという点だ。
どちらがより安全なのか
DH法とRSA方式は、どちらも解を求めるのが難しいと考えられる数学的問題、具体的には桁数の大きな数の素因数分解が難しい、といった問題を安全性の根拠としている。鍵の長さは一般的に1024bit、2048bitなどが採用される。
2つの鍵交換方式はどちらも数学者や暗号学者が精査したものであるため、実装に問題がない限りは安全性においてどちらかが大幅に劣ることはない。それぞれに存在する脆弱(ぜいじゃく)性は以下の通りだ。
DH法は送信者と受信者が正当かどうかを精査しない。その性質上、攻撃者がデータの送信者と受信者の間に割り込む「中間者攻撃」を受けやすい。中間者攻撃で攻撃者は、正当な送信者あるいは受信者になりすまし、鍵を作成して通信を偽装する。これによって攻撃者は2者がやりとりする通信内容を復号できるようになる。中間者攻撃を防ぐには送信者と受信者が相互に認証する手段が必要だ。これには「Digital Signature Algorithm」(DSA)などのデジタル署名の手法が利用できる。
RSA方式の脆弱性は複数見つかっているが、その多くはアルゴリズム自体ではなく、実装方法に起因する。例えば2017年に見つかった「Return of Coppersmith's Attack」(ROCA)という脆弱性を悪用した攻撃は、特定メーカーのプロセッサに存在するプログラムコードと、鍵生成の実装方法が原因だった。同じく2017年に見つかった攻撃「Return of Bleichenbacher's Oracle Threat」(ROBOT)は、1998年に発見された通信プロトコル「TLS」(Transport Layer Security)の脆弱性「Bleichenbacher」を悪用したものだ。ROBOTは、暗号鍵に関する標準仕様を定めた規格群「Public Key Cryptography Standards」(PKCS)のうち、古いバージョンに従って実装されたTLSサーバに起因していた。どちらの攻撃も、鍵交換アルゴリズムを適切かつ最新の状態で使っていれば防げていた可能性がある。
暗号化によく使われる鍵の長さは、つい最近まで十分安全だと考えられていた1024bitだ。だが米国立標準技術研究所(NIST)は2048bit以上の長さを持つ鍵を推奨している。ただしネットワークセキュリティベンダーRSA Security(2006年にEMCが買収し、2016年にEMCをDell Technologiesが買収)によれば、鍵の長さとして2048bitが安全なのは2030年までで、2030年以降に安全な鍵にするには3072bitが必要になるという。
「秘密鍵と暗号化通信の両方が漏えいしても通信内容を保護する」という性質「前方秘匿性」(Perfect Forward Secrecy:PFS)が、RSA方式では保証されないがDH法では保証できるという点にも注意すべきだ。PFSはセッション(通信の開始から終わりまでの単位)ごとに一意なセッション鍵を作成することで実現する。つまりあるセッションが傍受されても、過去に発生した、あるいは未来に発生するセッションを含め、他のセッションを安全な状態に保つことができる。
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