「ローカル5G」活用の可能性を探る【中編】
「ローカル5G」の導入障壁は「5G」の“RANオープン化”で下がるのか?
「ローカル5G」は一般的な企業にはまだなじみのないIT領域だ。ただし基地局を構成するインタフェースのオープン化によって、ローカル5G導入がより身近になってくる可能性がある。
「無線アクセスネットワーク」(RAN)のオープン化を目指す業界団体O-RAN ALLIANCEによる取り組みは、「5G」(第5世代移動通信システム)をプライベートなネットワークとして運用する「ローカル5G」とも無関係ではない。RAN仕様の標準化が進めば、ユーザー企業はローカル5G導入を検討する際、より自社の要件に適した構成で基地局を設計し、汎用(はんよう)のハードウェアを用いることでコストを抑制できる可能性が高まるからだ。
従来、基本的に移動通信のインフラを運用する事業者は電気通信事業者であり、電気通信事業者向けに機器を納品するのは特定のベンダーに限られていた。一般的な企業とはほとんどつながりのない分野だったと言っていい。
5Gへの期待感が世界的に高まると同時に、こうした状況が変わる兆候が出ている。無線通信分野に詳しい情報通信総合研究所(ICR)の上席主任研究員、岸田重行氏は「過去に通信事業者向けの事業に本格的に取り組んでこなかったベンダーも、『O-RAN』の流れに乗ってチャンスだと捉え、ソフトウェアや機器の開発に注力している」と語る。O-RANは業界団体O-RAN ALLIANCEが策定するRANを構成するコンポーネント間の標準インタフェース仕様や、その普及に向けた取り組みを指す。
5GのRANオープン化
O-RAN ALLIANCEのWebサイトに同団体のメンバーシップの説明がある。これによれば、基本的にメンバーシップは「オペレーター」と「コントリビューター」に分かれる。主に移動通信事業者が対象になるオペレーターのカテゴリーでは、国内の事業者としてNTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、海外ではAT&TやVerizon Communications、China Mobile(中国移動通信)などの主要な通信事業者が参画している。
一方のコントリビューターとしては、主要なサーバベンダーやネットワーク機器ベンダーの他、GPU(グラフィックス処理ユニット)ベンダーのNVIDIAや仮想化ソフトウェアベンダーのVMwareなど、さまざまな事業者が参画している。2021年6月時点で、コントリビューターとして260事業者以上のロゴがO-RAN ALLIANCEのWebサイトに掲載されている。コントリビューターはベンダーや研究機関、移動通信事業者以外のネットワーク事業者など、特に制限なく参加できる。こうして5Gのエコシステム(事業者間の協力や関係)が広がれば、より低コストのハードウェアやソフトウェアをRANに採用することや、特定用途のニーズを満たすRANを構築することが実現しやすくなる。
過去の移動通信と5Gの違い
O-RAN ALLIANCEが策定する、“オープン”な5Gを目指したRANとはどのようなものなのだろうか。
まず「4G」(第4世代移動通信システム)と比較して、5Gの基地局が変わったポイントから見ると分かりやすい。移動通信の基地局の変遷について岸田氏は「より効率的に通信を処理するために、世代を経るごとに機能が細かく分離してきた」と説明する。5Gでも基地局の構成がより細かくなった。
標準化団体の3GPPが定める5GにおけるRANの分割方法には複数のパターンがある。そのうち移動通信のネットワーク全体を制御するコアネットワークも含めて、4Gの設備を使用せず5Gの設備だけで構成するSA(スタンドアロン)方式の仕様の一つ「Option 7」では、RANは以下の3つに分かれる。
- RU(Radio Unit:無線装置、リモートアンテナユニットとも)
- CU(Central Unit:集約ノード)
- DU(Distribution Unit:分散ノード)
これらの3つの機能は、4Gでは無線信号の送受信処理を担う「RRH」(Remote Radio Head)と、コアネットワークとのデータの送受信処理を担う「BBU」(ベースバンド装置)の2つが担っていた。5Gで機能を分割した意図は、帯域幅をより効率的に利用できるようにすることや通信遅延を減らすこと、RANの拡張性を高めることなどにある。さらに岸田氏は「さまざまな組み方が可能になったことも特徴だ」と指摘する。
O-RANはこのOption 7の構成を基にして、RANを構成するコンポーネント間の標準的なインタフェース仕様を定めている。過去の移動通信のRANは、基本的には特定ベンダーの専用機器で構成されていた。異なるベンダーの機器同士でRANを構成すると、想定通りに動作しないことがほとんどだったからだ。標準的なO-RANのインタフェースを取り入れることで、異なるベンダー同士の機器を併用するマルチベンダー構成が可能になる。さらにCUやDUの機能を専用機器ではなく、仮想化技術を使って汎用のサーバで構築することも可能になる。これはRANの拡張性の向上やコスト抑制につながる。
こうした話は、通信事業者が提供する5Gサービスのインフラに関してだけではなく、ローカル5Gにおいても重要だ。工場やビル、教育機関の構内、商業施設、医療分野などさまざまな用途での利用を前提にすると、接続する端末数、遅延やデータ伝送速度などの通信性能に対する要件は個々に異なると考えられる。用途に適した設計を、適度なコストで採用できるようになるかどうかは、5Gのエコシステムがどれだけ広がるかに懸かっていると言える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ローカル5G」活用の可能性を探る
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー