仕事を奪われないための備え
AIに仕事を奪われる人、奪われない人 分かれ目となる「4つの能力」とは
Google Xで最高事業責任者を務めたモー・ガウダット氏は、今後2~3年で雇用市場が大きく変化すると予測し、AI時代に個人と企業が身に付けるべき4つの能力を示した。
AIの進化によって、企業の採用や人員配置、従業員に求める能力が変化しつつある。Googleの親会社Alphabet傘下の研究開発部門「Google X」で最高事業責任者を務めたモー・ガウダット氏は、今後2~3年で雇用市場に大きな変化が生じるとの見方を示す。
AIに仕事を奪われないためには、自分のどのような能力をどのように高めればいいのか。本稿は、ガウダット氏が提案する「AI時代に個人や企業が身に付けるべき4つの能力」を紹介する。
AI時代を生き抜く4つの能力
従来、起業家や経営者に求められた能力の1つは、まだ他の人が気付いていない将来の変化を予測し、競合より早く準備することだった。ガウダット氏は、こうした経営を、相手の動きを読みながら何手も先を考えるチェスに例える。
しかし、AI関連技術の変化が速くなったことで、数年先を見通して1つの戦略を実行し続ける方法は通用しにくくなった。同氏は、AI時代の経営を、壁から高速で跳ね返ってくるボールに即座に反応するスカッシュに例える。
企業は市場や技術の変化を日々確認し、必要に応じて製品や事業の方向性を変えなければならない。かつては創業初期に1、2回だった事業転換が、今後は毎週のように発生する可能性もあるという。
ガウダット氏が共同創業したAIスタートアップでは、最初の4週間に4回の事業転換を実施した。同氏によると、同社のサービスは少人数のエンジニアと複数のAIを使い、約6週間で開発した。2022年当時の技術で同等のものを作るなら、数百人のエンジニアと約4年が必要だったとの見方を示している。
AIによって試作品の開発や検証に必要なコストが下がれば、企業は失敗を恐れて計画を固めるより、小さく試して結果を基に修正する方が有利になる。
能力1.AIを競争相手ではなく「能力の拡張手段」にする
ガウダット氏が最初に挙げるのは、AIを使いこなす能力だ。AIを自分の仕事を奪う競争相手と捉えるのではなく、自分の知識や処理能力を補う道具として利用する必要があるという。
例えば、文章を書く仕事では、AIは情報収集や文法の修正、大量の資料の比較を短時間で実行できる。一方、書き手自身の経験や価値観、読者との関係まで置き換えられるとは限らない。
同氏は著書の執筆にAIを利用し、調査や競合分析、参考資料の収集などをAIに任せている。ただし、AIに「この考えは正しいか」と判断を委ねるのではなく、自分の仮説に賛成する材料と反対する材料の両方を探させ、その結果を自分で検討する。
重要なのは、思考そのものをAIに外注しないことだ。大量の情報を検索したり整理したりする作業をAIに任せ、空いた時間を検証や意思決定に使う。AIに答えを出させるのではなく、人間がより深く考えるために使うことが求められる。
能力2.素早く学び、方向転換する
2つ目は、変化に対応する俊敏性だ。現在有効なAIツールや業務手法が、数カ月後も最適であるとは限らない。従って、AIの知識を一度学んで終わりにするのではなく、継続的に更新する必要がある。
ガウダット氏は、全ての人が少なくとも週に1時間程度、担当する業務に関連するAIの動向を確認すべきだと提案する。技術者だけでなく、営業、法務、人事、経理などの担当者も、自分の仕事にAIがどのような影響を与えるかを把握する必要がある。
企業側には、従業員が新しいツールを安全に試せる環境を整えることが求められる。AIを利用するたびに長期間の承認手続きが必要であれば、市場や競合の変化に追い付けなくなる。
ただし、無秩序にAIを導入すればよいわけではない。利用できるデータやツール、検証方法、最終的な責任者を明確にした上で、小規模な試行と改善を繰り返す仕組みが必要になる。
能力3.「何を作るか」を倫理的に判断する
AIを使う技術だけでなく、何のために使うかを判断する力も重要になる。ガウダット氏は、AIそのものに善悪があるのではなく、利用者が与える目的や価値観によって結果が変わると説明する。
AIは、医療や教育、環境問題などの解決に使うこともできれば、監視や偽情報の生成、兵器に利用することもできる。能力が高いAIほど、利用目的を誤った場合の影響も大きくなる。
企業がAIサービスを開発、導入する際は、効率化や収益だけで判断してはならない。誰にどのような影響を与えるのか、誤った出力が発生した場合に誰が責任を負うのか、利用者が異議を申し立てられるのかといった点を事前に検討する必要がある。
AIガバナンスを法務部門や情報システム部門だけの仕事にせず、経営者や事業部門、開発部門を含めて判断することが重要だ。AIを導入する目的と、実施してはならない利用方法を組織として明文化することも欠かせない。
能力4.AIの回答をうのみにしない
4つ目は、情報を疑い、検証する力だ。生成AIは、誤った回答でも自然で説得力のある文章として提示する場合がある。画像や音声、動画の生成技術が進歩すれば、人間が作った情報とAIが作った情報を見分けることも難しくなる。
ガウダット氏は、1つのAIの回答だけを信用せず、複数のAIに異なる観点から検証させているという。あるAIが作った回答を別のAIに渡し、「欠けている視点は何か」「反対意見には何があるか」と尋ねる。その結果を再び人間が確認する。
この使い方は、AIの回答を正解として受け取るのではなく、議論の材料として扱う方法だ。生成AIを検索エンジンの代わりに使う場合でも、出典を確認し、重要な判断に使う情報は一次資料と照合する必要がある。
企業では、従業員にAIの操作方法だけを教えても不十分だ。回答の根拠を確認する方法や、複数の情報源を比較する方法、AIを使ってはならない業務などを含めた教育が必要になる。
AI導入で問われるのは「人を減らせるか」だけではない
AIの導入を、人件費を削減するための施策として捉える企業もある。しかし、定型業務をAIに置き換えるだけでは、長期的な競争力につながるとは限らない。
若手従業員が担当してきた調査や資料作成などをAIが担うようになれば、企業は人材を育成する機会を失う可能性がある。若手の採用を減らし続ければ、将来、組織を率いる中堅層や管理職が不足する懸念もある。
AIによる効率化で生まれた時間を、顧客理解や新規事業、人材育成、意思決定の質向上にどう振り向けるかが重要になる。単に従来の仕事を自動化するのではなく、AIを前提に業務や組織の役割を再設計する必要がある。
AI時代に価値を持つのは、特定のツールの操作方法だけではない。AIを使って能力を広げ、変化に合わせて素早く行動し、倫理的な目的を選び、提示された答えを検証する力である。
AIがどの時点で人間の能力を上回るかについては、さまざまな予測がある。ただし、正確な時期を当てることよりも、既に起きている変化を認識し、仕事や組織の在り方を見直すことの方が重要だ。
本稿は、AI Engineerが2026年3月31日に公開した動画「Ex-Google Exec:How to Position Yourself Now Before the Next AI Phase(2026-2027)| Mo Gawdat」を基に作成しました。
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