エイチ・ツー・オー リテイリングの決断
「年1回の外部診断」が限界に 大手小売が脆弱性管理を内製化・一元化した方法
インフラが複雑化する中、年1回の外部委託による脆弱性診断だけでは脅威を防ぎ切れない。膨大な内部資産に潜む死角をふさぐために、脆弱性管理を内製化したエイチ・ツー・オー リテイリングの事例を紹介する。
オンプレミスサーバからマルチクラウドまで、企業のITインフラはますます複雑化している。それに伴って、外部公開用のシステムだけではなく、社内システムを含めた全てのIT資産のセキュリティリスクをいかにリアルタイムで把握するかが、情報システム部門の課題となっている。
従来のように「主に外部向けのシステムを対象に、年1回の脆弱(ぜいじゃく)性診断を専門業者に委託する」運用は、脅威が急速に変化する現代では限界が見え始めた。大量のIPアドレスを抱える内部システムの診断も外部に委託すれば、膨大な費用と手間がかかってしまうからだ。
関西を代表する小売グループであるエイチ・ツー・オー リテイリングは、この課題に直面した際にある決断を下した。外部アタックサーフェス(攻撃対象領域)の管理からクラウドインフラのセキュリティ構成評価までの脆弱性管理プロセス全体を内製化し、単一のシステムで一元管理することだった。
脆弱性管理を「内製化」する決断
阪急阪神百貨店やイズミヤなどを傘下に持つエイチ・ツー・オー リテイリングは、年1回、外部に委託していた脆弱性の診断を内製化し、Tenableのサイバーエクスポージャー管理ツール「Tenable One」で、IT資産とセキュリティリスクを一元的に可視化している。グループ全体への可視化対象の拡大も進めている。評価の開始から本格稼働まで、約6カ月かかった。2026年10月19日、Tenableが発表した。
エイチ・ツー・オー リテイリングは、阪急阪神百貨店を中核に、イズミヤ、阪急オアシス、関西スーパーなどの食品小売ブランドから、商業施設の運営までを手掛ける、関西を代表する小売グループだ。DXを進め、顧客体験の向上と、ITインフラの近代化に注力する。情報セキュリティ推進部長の熊坂祐二氏は、「お客さまの信頼を保護し、最も重要なデータを守りながら、DXによるサービスの変革を、安全に支えるインフラの構築」を使命に掲げる。
課題は、オンプレミスからマルチクラウドまで、グループ全体でIT資産が多様化し、インフラ全体のリアルタイムな把握が難しくなったことだった。従来は、主に外部向けのシステムを対象に、脆弱性の評価を毎年外部に委託していた。脅威が高まり、内部のシステムを含む、全ての資産で脆弱性を管理する必要性が生じた。内部システムには膨大な数のIPアドレスがあり、従来のやり方では費用がかかる。包括的な可視化と費用の最適化を両立するため、脆弱性管理を内製化して、プロセスを自動化することにした。
要件は攻撃対象領域の管理、Webアプリケーションのセキュリティテスト、インフラの評価、IaaS(Infrastructure as a Service)のセキュリティ構成の評価を、別々のツールではなく、単一の統合ツールで管理することだった。Tenable Oneを選んだ決め手は、ハイブリッドなマルチクラウド全体で、統一された可視性を提供できる点だ。エイチ・ツー・オー リテイリングのインフラには、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Oracle Cloud Ingrastructure(OCI)の他、オンプレミスのシステムもあり、それらを1つのツールで可視化できる。管理のサイロ化を防げることは大きな利点で、緊急対応チームの意思決定を速め、ガバナンス全体を強められる。Tenableが、外部アナリストから高い評価を得ていた点も、品質への確信につながった。
初期は、検出された大量の情報の整理が課題だったが、スコアリング機能を使って、優先順位の高い問題から対処する運用ルールを定め、運用チームの負担を抑えながら展開を進めた。以前は、検出された脆弱性全てに、画一的に対処していた。Tenable One導入後は、脆弱性優先度の格付け(VPR)などのAI機能で、システムで悪用される可能性が高い脆弱性を客観的に評価し、本当に注意が必要な分野に人手を集中できるようになった。時点ごとの評価に頼らず、経年の変化を追跡できる継続的なモニタリングも整えた。
熊坂氏によると、脆弱性の特定と修正の速度は、大きく向上した。脆弱性管理の内製化で、外部委託に使っていた費用を最適化でき、手作業のデータ収集に使っていた時間を、実際の修正に充てられる。経営層には、セキュリティのリスクを客観的なスコアで報告でき、リスクの報告の透明性が高まった。各事業部門が、スコアで自らリスクを把握して、監視できる仕組みづくりも進めて、課されるものとしてのセキュリティから、自律的に管理するセキュリティへの転換を目指す。
今後は、開発の早い段階でセキュリティを確保する「シフトレフト」の戦略を進め、導入したツールを十分に生かせるよう、チームの専門性を高めることにも投資する。日本のユーザーコミュニティーの成長と、日本語のレポート機能の強化にも期待する。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「エイチ・ツー・オー リテイリング、脆弱性管理を内製化 Tenable Oneで一元管理」(2026年10月20日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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