“採算度外視”のAI投資の終わり
生成AIバブルが崩壊する“これだけの理由” 崩壊を乗り越えるには
AI市場は2026年以降、停滞する可能性がある。これに伴い、AIベンダーの再編やAI投資の縮小が起きることが予測される。“AIバブル”が崩壊する中で、ユーザー企業はどのようにAI戦略を立てるべきなのか。
AI(人工知能)技術のバブルの終焉が迫っている。生成AI技術は急速な技術進化で消費者と投資家の注目を集め、その結果市場にはAIツールがあふれるようになった。
しかし技術の進化が進むにもかかわらず、開発段階を超えたプロジェクトは少ない。システム開発会社Globantのデータサイエンス責任者を務めるフアン・ホセ・ロペス・マーフィー氏は、この原因を次のように説明する。「各AIツールはそれぞればらばらなAI技術やインフラを基に構築され、実際のユーザー企業のビジネスのニーズから離れすぎているためだ」
“期待外れのAI”はユーザー企業と市場にどのような影響をもたらすのか
AI技術の停滞は一部のユーザー企業を不安にさせている。「ユーザー企業は、AIモデルが多い一方で戦略が不足しているからくる疲労感を抱えている」とマーフィー氏は語る。「経営者は完全にAI技術の投資をやめたわけではない。投資額の大小よりも、実際に得られる価値を重視するという方針転換が始まっている」(同氏)
非現実的な期待が、生成AIへの過剰投資を招いている。マサチューセッツ工科大学の調査レポート「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」(生成AIの格差:2025年のビジネスにおけるAIの現状)によると、95%のユーザー組織が「生成AIに投資したにもかかわらずリターンを得ていない」と回答している。投資額が価値を上回っているのだ。
ITコンサルティング会社aiRESULTSのCEOであるマット・ハサン氏は次のように述べる。「AI技術への投資資金は、データセンターやチップ、AIスタートアップに、実際のAI活用の進度よりも早く流れ込んでいる。過熱した期待が実際にビジネスで得られる価値を超えている」
ITコンサルティング会社Dimensional AnalyticsのCEOのジョナサン・ビットナー氏によれば、このAIバブルには大きな特徴が3つある。それは以下の通りだ。
- 循環的な資金調達
- AI業界の主要プレイヤーが互いに投資し合い、“幻の経済活動”を作り出している。ビットナー氏は「半導体ベンダーのNVIDIAがAIモデルの開発を手掛けるOpenAIに1000億ドルを投資し、OpenAIがNVIDIAのチップを購入し、OracleがOpenAI関連サービスの提供のためにNVIDIAのチップを購入する」という例を挙げている。
- 収益性の計画不足
- 一般的に、多くのスタートアップは最初は赤字だが、黒字化のための計画を持っている。OpenAIは四半期ごとに120億ドルの損失を出し、2029年までにさらに440億ドルの損失を見込んでいるとビットナー氏は言う。「彼らは1ドルを稼ぐために2.25ドルを使っている。そのような利益率で生き残ったIT企業は存在しない」
- 政府との契約
- AI企業は国家の防衛関連の契約に深く入り込みつつある。その結果、将来的に救済(ベイルアウト)を政府に要請する事態につながる可能性がある。
市場調査会社Forrester Researchは、2026年にAI市場の停滞が起こると予測している。これは、ベンダーの誇大広告と実際に提供される価値の間の差が広がる中で、ユーザー企業がその差を埋めるために苦慮するためだ。同社の最高研究責任者であるシャリン・リーバー氏は次のように報告する。「2026年にはAI技術の誇大広告の時期が終わる。ユーザー企業の中では、AI戦略から実際に測定可能な結果を出さなければならないという圧力が高まる。技術とセキュリティのリーダーは、より厳しい財務や法務の監視を受けながらAIの投資戦略を再評価し、ますます複雑化する地政学的および経済的リスクを乗り越えることが求められる」
ビットナー氏はAIバブル崩壊の予兆としてまず、電力不足によるボトルネックを挙げる。「バージニア州のデータセンター密集地であるアッシュバーンの新しいデータセンターは、電力供給が追い付く日がないため、天然ガス発電機で稼働している」と同氏は言う。次に同氏は世論の変化を挙げる。「AI技術は当初期待されたROI(投資利益率)を示していない。世論は非常に重要だ。期待が成果を上回ると、人々はAI技術が本当に仕事や生活を改善しているかどうかを疑問視し始める。その疑念は、AI技術に対する人々の関心を薄れさせる」(同氏)
AIバブルの崩壊を乗り越えるには
AIバブルの崩壊がビジネスに与える影響について、ハサン氏はAI技術そのものではなく、それに対する非現実的な期待が打撃を受けると考えている。同氏は、実際の問題解決に焦点を当てたAIベンダーやユーザー企業がより成長すると考えている。
ビットナー氏はAIバブルの崩壊が、次の3つの波で企業に影響を与えると述べている。
- 第一波
- スタートアップ企業を含むAIベンダーでレイオフ(一時解雇)が発生する。「エンジニアが数万人規模で、突然市場に出ることになる」とビットナー氏は予想する。
- 第二波
- 「CFO(最高財務責任者)が成果を要求すれば、企業のAI部門全体が削減されるだろう」とビットナー氏は言う。
- 第三波
- 真のイノベーションが加速する。一部のAIベンダーやユーザー企業はAIバブルの崩壊を乗り越え、適切な技術を用いて現実の問題の解決に着手する。ビットナー氏は、ドットコムバブル崩壊後に、確固たるビジネスモデルを持っていたことで台頭したGoogleやAmazon、PayPalといった企業を例に挙げ、AIでも同じことが起こると確信している。
ロペス・マーフィー氏は、「AIバブルの崩壊は、AIのより健康的なイノベーションサイクルの始まりを示す可能性がある。企業は複数のプロジェクトの予算を統合したり、仮説的なプロジェクトを遅らせたりするかもしれない」と予想する。こうした動きは、AI分野の技術革新が完全に停止するのではなく、プロジェクトの優先順位付けの手法が成熟することを示しているという。同氏は、長期的に持続可能なAIプロジェクトの構築に重点が移ると信じている。
AIバブルの崩壊の脅威が近づく中、ITリーダーはAIに関する誇大広告を見抜き、具体的なビジネス問題を解決する技術に焦点を当てる必要がある。ハサン氏は、ITリーダーに対し、AIの活用を現実的な結果に結び付け、そのコストやROIを追跡すべきだと助言する。「企業が冷静さを保ち、実際の影響に焦点を当て続ければ、AI技術への投資の軌道修正は災害にはならない」と同氏は述べている。
ビットナー氏はITリーダーに対し、次のように提案する。
- 測定可能なROIをAIベンダーに要求する。
- AIベンダーが90日以内に作業時間の削減効果やエラー防止効果、収益の創出を示せない場合は、契約を破棄すべきだ。
- 汎用AIよりも、特定の分野に特化して焦点を絞ったソリューションを優先する
- 「単一のタスクをうまく処理するAIツールは、全てが下手な汎用ツールよりも優れている」とビットナー氏は述べる。
- 最先端のモデルが必要だと思い込まない
- 「多くの組織が無駄に資金を投入しているのはまさにこの点だ」とビットナー氏は言う。エッジで実行できる小規模なAIモデルでも、企業の課題を問題なく解決できる場合がある。
- 利益を上げているAIベンダーに目を向ける
- 「四半期ごとに数十億ドルの損失を出しているAIベンダーは、持続可能な技術を構築しているとは言えない」とビットナー氏は言う。ユーザー企業は、現実的なビジネスモデルを持ったAIベンダーと提携した方がよい。
- AI投資を監査する
- AIへの投資額の大半を、実際に成果につながらない実験に費やしているユーザー企業もある。AIへの投資を見直し、効果的なAIプロジェクトに予算を割くようにする。
ハサン氏とビットナー氏はAIバブルの崩壊を、企業をAI技術への投資に対するより効率的なアプローチに向かわせるものだと捉えている。「バブルの崩壊は災害ではなく、リセットだ」とビットナー氏は言う。
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