21時間で移行プロジェクトを完遂
20TBのデータを24時間以内に移行せよ アスクルが選んだSAP S/4HANA刷新の極意
システム移行に伴う長期停止はビジネスに大きな影響を与える。「SAP ECC」のサポート終了が迫る中、24時間稼働のECサイトを展開するアスクルは、巨大システム移行をどのようにして21時間で終わらせたのか。
「SAP ERP Central Component 6.0」(SAP ECC 6.0)のサポート終了期限が2027年に迫る中、企業のIT部門は重い決断を迫られている。蓄積されたデータと複雑な業務プロセスを持つ基幹システムの移行は、一歩間違えれば全社の業務を長期間停止させかねないリスクを伴う。
24時間365日稼働するECサイトをビジネスの核とする企業にとって、移行に伴うダウンタイムは直ちに売り上げ機会の損失や顧客からの信頼失墜に直結する。B2B向け「ASKUL」やB2C向け「LOHACO」といったECサイトを運営するアスクルも、まさにこの壁に直面していた。同社の基幹システムは2009年の導入から15年近く稼働を続け、国内屈指の規模に膨れ上がっていた。
社名の由来でもある「明日届ける」という“顧客との約束”を守るため、ビジネスを止めることはできない。この条件をクリアするため、アスクルは移行プロジェクトにおけるダウンタイムを「24時間以内」というシビアな目標に設定した。
当初20TBを超えていた膨大なデータを持つ既存システムを、インフラのクラウド化と併せ、いかにして短時間でクラウド型ERP(統合基幹業務システム)の「SAP S/4HANA」へと移行させたのか。わずか21時間で完遂させた裏には、業務プロセスを一切変えずに既存システムをそのまま移す「ストレートコンバージョン」への割り切りと、本番環境を見据えた入念な検証プロセスが存在した。
「明日届ける」約束を守るための極限ミッション
併せて読みたいお薦め記事
SAP S/4HANAへの移行をどう進めるか
アスクルは、基幹システムをSAP ECC 6.0からSAP S/4HANAへと刷新した。インフラには「Amazon Web Services」(AWS)を採用している。2026年5月11日、移行パートナーを務めたBeeXが発表した。24時間365日稼働するECサイトを停止することなく、国内屈指の規模を誇る基幹システムを21時間という短時間のダウンタイムで移行完了させた。これによって、組織全体の業務最適化やデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のための強固なシステムを確立した。
アスクルはB2B向けのASKULやB2C向けのLOHACOを運営する国内最大級のEコマース企業だ。2009年の基幹システム導入から15年近く経過し、既存システムのサポート終了が迫るなか、ビジネスの根幹であるシステムの近代化を決断した。刷新に当たっては、自社の強みであるビッグデータの活用や、経済産業省の「DX銘柄」に選定されるなど積極的に推進してきたDXをさらに加速させることが課題となっていた。
パートナーに選定されたBeeXは、2018年から同社のSAP製ERPの運用に携わり、環境を熟知している点や、インフラおよびBASIS領域における技術力と適応力が評価された。
プロジェクトにおける最大の困難は、社名の由来でもある「明日届ける」という顧客との約束を守るため、ビジネスを止めることなく最小限のダウンタイムで移行を完了させることにあった。この難題に対し、同社とBeeXは移行データ量の削減を徹底。不要データの削除などによって、当初20TBを超えていたデータ量を移行直後には5TBまで圧縮した。停止点までのデータ移行を事前に実施する2回の差分移行を実施した他、本番相当の環境をAWSに構築して5回のリハーサルを重ね、手順やパフォーマンスを綿密に検証した。
移行後は安定した運用が続いており、今後はアドオンの削減による「クリーンコア化」を推進する。具体的には、大量のアドオンをSAPの開発・拡張サービス「SAP BTP」に移行することで、SAP S/4HANA本体をクリーンな状態に維持し、最新機能を最大限に活用できる環境を整える。併せて、蓄積された大量のデータをリアルタイムに収集・分析できるシステムの整備も進め、迅速な意思決定につなげる。
アスクル テクノロジー本部統括部長の小林悟氏は、「今回の刷新によってDXのためのインフラが整った」と述べた上で、次のように展望を語る。「今後はSAP BTPを効果的に活用しつつ、業務にAI技術を取り入れていきたい。AI技術を活用することで、サービスレベルを変えることなく、半分の負荷で現状の業務が回せるようにしたい」
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「アスクル、基幹システムをSAP S/4HANAに刷新 21時間の短時間移行でDX基盤確立」(2026年5月12日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 取引先のセキュリティをどう管理する? 「SCS評価制度」対応の勘所を解説 -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] SCS評価制度「★4」取得のカギ 最大の壁を突破する方法とは? -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 2026年度末から運用開始 「SCS評価制度」に備えて製造業がやるべきことは? -
事例
[ネットワンパートナーズ株式会社, アイビーシー株式会社] ハイブリッド環境の一元管理と快適な無線LAN環境、三井ホームはどう実現した? -
市場調査・トレンド
[TD SYNNEX株式会社] 調査で学ぶセキュリティ運用の実態 人を増やさず品質を維持する方法とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
3
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
4
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
5
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
6
2027年電子帳簿保存法のさらなる改正 安易なシステム導入の落とし穴
-
7
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
8
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
9
AIインフラの理想形? 「5層のケーキ」を垂直統合するための近道とは
-
10
年収700万超エンジニアに共通するスキルと「もっと勉強すべきだった分野」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
9
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー