1000万円のAPI連携外注費を月額費用のみに
「SaaS入れました」でIT予算崩壊の危機? 近鉄百貨店の“泥沼API連携”回避策
事業部門が次々に導入するSaaSとオンプレミスの基幹システムをAPIで連携させることは容易ではなく、外注すれば期間も費用もかかる。この「連携破産」の危機を、近鉄百貨店はどう乗り越えたのか。
事業部門による「良かれと思ったSaaS(Software as a Service)導入」は、往々にして情報システム部門への「むちゃ振り」に化ける。
特に厄介なのが、オンプレミスの基幹システムとのデータ連携だ。従来、オンプレミスシステム同士の連携であれば、定番のミドルウェアを使ったファイル転送やバッチ処理で済んでいた。しかし、モダンなSaaSはAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)経由での接続が前提だ。オンプレミスシステムとSaaSという形態が異なるシステムを安全につなぐためには、セキュアなAPIサーバの新規構築、認証とセキュリティの緻密な設計といった技術的障壁が立ちはだかる。
これらの作業を外部のベンダーに丸投げすれば、1つのシステムを連携させるだけで「数カ月の開発期間」と「1000万円規模の費用」が見積もりに並ぶことになる。全社的なクラウド移行やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の中、システム連携のたびにこれほどの予算と時間を費やすことになれば、IT予算はすぐに底をつきかねない。
この「SaaS連携のわな」に直面したのが、ビジネスの多角化に向けてITインフラのクラウド移行を急ピッチで進めている近鉄百貨店だ。同社の経理部門が新たに導入した経費精算SaaS「TOKIUMインボイス」と、「Amazon Web Services」(AWS)に構築した自社の基幹システムをいかにして連携させたのか。外部にシステムを公開せずにセキュアな通信経路を確保するサービスの活用など、わずかな人員だけでデータ連携システムを構築した手法に迫る。
近鉄百貨店が挑んだ「連携内製化」の裏側
近鉄百貨店は、オンプレミスの基幹システムと新規導入したSaaSとのデータ連携を目的に、セゾンテクノロジーのクラウド型データ連携プラットフォーム(iPaaS)「HULFT Square」を採用した。2026年6月3日、セゾンテクノロジーが発表した。データ連携業務の内製化によって、従来は数カ月を要していた開発期間を数週間に短縮した他、1000万円規模の費用削減を達成した。
近鉄グループの中核企業として関西圏を中心に百貨店を展開する近鉄百貨店は、近年、フランチャイズ事業の拡大や農業事業への参入など、ビジネスの多角化と収益構造の改革を推し進めている。こうした変化に迅速に順応するためにITインフラのクラウド移行を進めており、かつて数カ月かかっていたサーバ構築などを自社でスピーディーに遂行できる体制の整備に注力していた。
この先進的な取り組みの過程で、経理部門が導入を決めたSaaSの経費精算システム「TOKIUMインボイス」と、オンプレミスで運用する基幹システムとのデータ連携において課題に直面した。従来はファイル連携ミドルウェア「HULFT」によるファイル転送でシステム間を連携していたが、新たなSaaSとの接続にはAPIを用いる必要があった。接続方式の異なるシステムを連携させるには、APIサーバの新規構築や認証、セキュリティの設計など、複数の技術的な障壁を越える必要があり、限られた人員で対処するには時間とコストの負担が大きいことが懸念されていた。
選定に当たっては、すでに別システムでHULFTを用いたファイル連携の実績と経験があった安心感を評価した。基幹システムが置かれているAWSインフラとHULFT Squareを接続する際、外部に環境を公開せずセキュアな通信経路を確保できる「AWS PrivateLink」を活用できる点も決め手になった。本格稼働に向けた実証実験で、短期間での本稼働のめどが立ったことから導入を決めた。
導入プロジェクトは約6カ月間のスケジュールで進められたが、データ連携システムそのものの構築は極めて短期間で完了した。開発は、自社の担当者1人とパートナー企業のメンバー1人という極めて少数のチーム体制で、スクリプト作成から実装までを内製で完結させた。
新システムでは、TOKIUMインボイスに入力された仕訳データがAPI経由でHULFT Squareへ送られてデータ変換され、基幹システムへ自動で連携される。逆に、基幹システムのマスターデータもHULFT Squareを通じて経費精算システムに自動登録、更新される仕組みを構築し、経費精算業務の完全デジタル化を実現した(図)。APIサーバを外部へ発注した場合に想定された1000万円規模の開発費や数カ月に及ぶ開発期間を抑え、月額費用のみの最小限の出費で迅速に連携体制を確立できた。
今後は、構築したデータ連携システムを活用し、さらなる業務内製化を推進する方針だ。すでにクラウド型データウェアハウス「BigQuery」に蓄積されたグループ全体の購買データなどの抽出・分析への活用や、人事システムからオフィススイート「Google Workspace」への組織・従業員異動情報の自動反映など、さまざまな社内システムとの自動連携の拡大を視野に入れている。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「近鉄百貨店、iPaaSで基幹とSaaSをセキュアに連携 開発期間を大幅短縮」(2026年6月4日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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