ITコンサルやSEと何が違う? 急浮上「FDE」にAWSが10億ドル投じる理由AIエージェントの本番導入を支援

AWSは、顧客企業の現場でAIエージェントを共同開発するFDE部門の設立を発表した。10億ドルを投じ、試作から本番導入、自社運用への移行までを支援する。

2026年07月20日 05時00分 公開
[Stephen WithersTechTarget]

 生成AIを使った試作には成功したものの、既存システムや業務プロセスに組み込めず、本番運用に進めない――。AIエージェントの導入が広がる中、こうした壁に直面する企業は少なくない。

 Amazon Web Services(AWS)は、顧客企業の現場に技術者を派遣し、AIシステムを共同開発する「フォワードデプロイドエンジニアリング」(FDE)部門を新設した。投資額は10億ドルに上る。

 AWSはなぜ、クラウドサービスを提供するだけでなく、技術者を顧客企業に送り込むのか。AIエージェントを本番環境に組み込み、顧客企業が自力で開発、運用できる状態にするまでを支援する狙いを紹介する。

そもそも「FDE」とは何か

 FDEは「Forward Deployed Engineering」の略称だ。「Forward Deployed」は本来、部隊や人員を活動の最前線に配置することを意味する。IT分野では、エンジニアが自社内で製品を開発して顧客に引き渡すのではなく、顧客の業務現場に深く入り込み、顧客と一緒に課題の発見からシステムの設計、開発、本番導入までを進める手法を指す。

 FDEという呼び方を広めた企業の1つが、データ分析ソフトウェアを提供するPalantir Technologiesだ。同社は、顧客企業に直接入り込んで自社のソフトウェアを設定し、顧客固有の問題を解決する技術者を「Forward Deployed Software Engineer」と呼んでいる。

 近年は生成AI企業も同様の職種を設けている。OpenAIのFDEは、顧客企業の技術部門や業務部門と協力し、課題の把握、技術要件の整理、システム設計、開発、本番展開までを一貫して担う。単なる製品導入支援ではなく、顧客固有の環境で実際に稼働するシステムを完成させることが役割となる。

 AWSのFDEも同様に、顧客企業が実際に抱える制約の下で、AIエージェントを共同開発する。科学、エンジニアリング、戦略、セキュリティの専門家を組み合わせ、実際のデータとガバナンス要件に対応した本番システムを構築する。AWSは、顧客が支援を受け続ける状態をつくるのではなく、完成後に自力で運用や改善を続けられることを重視している。

 つまり、技術者を顧客の「最前線」に配置し、顧客と同じ成果に責任を持ちながら、事業課題の把握から本番運用までを進める開発体制がFDEだ。

FDEとITコンサルタント、SEは何が違うのか

 FDEの仕事には、ITコンサルタントやシステムエンジニア(SE)と重なる部分がある。いずれも顧客の課題を把握し、技術を使って解決する仕事だからだ。明確な業界共通の線引きがあるわけではなく、企業や案件によって担当範囲は異なる。それでも、一般的な役割を基にすると、次のような違いがある。

 ITコンサルタントは、経営課題や業務課題を分析し、どのようなIT戦略やシステムが必要かを整理する役割を担う。業務改革の構想、製品選定、投資対効果の検討、ロードマップの策定など、開発を始める前の判断を支援することが多い。

 SEは、決められた要件を基にシステムの仕様や構成を設計し、開発、テスト、導入を進める。日本では顧客へのヒアリングやプロジェクト管理を含めて「SE」と呼ぶ場合もあるが、基本的にはシステムを技術的に実現することが中心となる。

 これに対してFDEは、課題の発見とシステムの実装を分離しない。顧客の現場で業務を理解しながら、仮説を立て、短期間で試作品を作り、利用者の反応を基に修正し、そのまま本番導入まで進める。OpenAIはFDEについて、課題の発見から技術要件の整理、システム設計、構築、本番展開までを一貫して担当する職種と説明している。

 例えば、ITコンサルタントが「法人融資の審査にAIを活用すべきだ」と提案し、SEが要件定義書を基に審査支援システムを構築するとする。FDEは、融資担当者の仕事を現場で観察し、どこに時間がかかっているかを調べ、AIエージェントの試作品を作る。担当者に使ってもらいながら機能を修正し、データ連携やアクセス制御、監視機能を実装して本番運用につなげる。

 もう1つの違いは、FDEが自社製品の開発部門に近い立場を持つ点だ。顧客の現場で得た知見を自社へ持ち帰り、製品の機能改善や、他の顧客にも再利用できる仕組みの開発につなげる。Palantirは、顧客に配置された技術者が現場で得た傾向や知見を製品開発チームへ伝える役割も担うとしている。

 FDEは、ITコンサルタントとSEを単純に組み合わせた職種というより、事業課題の発見、ソフトウェア開発、本番導入、利用定着を1つのチームで連続的に進めるための役割といえる。特に正解や要件が固まっていない生成AI分野では、最初に仕様を確定してから開発する従来型の進め方が難しい。顧客と技術者が試行錯誤を繰り返すFDEは、こうしたAI導入に適した手法として注目されている。

AWS、AIエージェントの共同開発に10億ドルを投資

 AWSは2026年6月30日(米国時間)、米国で開催した「AWS Summit」で、FDE部門の設立を発表した。10億ドルを投じ、顧客企業の現場に専門チームを配置して、自律的に処理を進めるAIエージェントの開発と導入を支援する。

 AWSで生成AIイノベーションセンターのマネージングディレクターを務めるタイムール・ラシッド氏によると、今回の取り組みは2017年に設立した「Amazon Machine Learning Solutions Lab」にさかのぼる。

 当時、企業の間では商品推薦や不正検知などに機械学習を活用する動きが広がり始めていた。AWSも機械学習サービス「Amazon SageMaker」を提供していたが、顧客企業が新しい技術を実際の事業価値につなげるには、製品を提供するだけでは不十分だった。

 そこで同ラボは、科学者やデータサイエンティストを顧客企業に配置した。担当者は顧客の事業を学び、ユースケースを把握した上で、プロトタイプや実際に動作するシステムを構築した。

生成AIの試作から本番導入へ、支援内容を拡大

 生成AIへの関心が急速に高まった2023年、AWSは同ラボを「Generative AI Innovation Center」(生成AIイノベーションセンター)に改称し、1億ドルを投資した。

 生成AIは、単一のシステムや業務だけでなく、企業の戦略や組織、業務プロセスに幅広く影響する。そのためAWSは、科学者だけでなく、AI活用戦略を立案する担当者も顧客企業に派遣する体制を整えた。

 同センターは、プロアメリカンフットボールリーグNFL(National Football League)や男子プロゴルフツアーのPGA TOUR、電子機器製造受託大手Jabil、自動車大手BMWなどを支援した。AIのプロトタイプを構築し、顧客企業が価値を得るまでの時間を短縮したという。

 一方、プロトタイプの数が増えるにつれ、顧客からは「本番環境への導入も支援してほしい」「自社の従業員に開発や運用の知識を移してほしい」といった要望が寄せられるようになった。

 AWSは2025年ごろ、生成AIイノベーションセンターにさらに1億ドルを投じ、AIエージェントの開発支援を強化した。その結果、自動車関連サービスを提供するCox Automotive、金融大手State Street、ブラジルの金融機関Itau Unibanco、大手クレジットカードブランド会社Visaなどが、社内外の業務でAIエージェントを本番運用するようになった。

AIエージェント導入を阻む「エンジニアリングの壁」

 AI活用を支援する過程で、AWSは新たな課題に気付いたという。

 AI活用の戦略を立案する担当者や、モデルを開発する科学者だけでは、AIエージェントを企業の既存システムや業務に組み込めないという問題だ。

 ラシッド氏は「戦略担当者や科学者に加えて、現在はエンジニアも必要になっている」と説明する。

 AIエージェントを本番環境で稼働させるには、社内システムとの連携や認証、データ管理、セキュリティ、監視、障害対応などを設計しなければならない。既存の業務プロセスにAIを組み込み、従業員が実際に使える状態にする作業も必要だ。

 今回設立したFDE部門では、科学、エンジニアリング、戦略、セキュリティの専門家で構成する部門横断型のチームを顧客企業に配置する。AIモデルやプロトタイプを作るだけでなく、既存システムや業務プロセスへの組み込みまでを支援する。

「AWSに依存させない」こともFDEの役割

 FDEチームの役割は、顧客企業に代わってAIシステムを作り続けることではない。プロジェクトを進めながら技術や開発手法を顧客企業に移し、自社でAIシステムを開発、運用できる状態にすることも重視する。

 AWSは、従来のソフトウェア開発ライフサイクルをAIによって変革する「AI-driven Development Lifecycle」(AI-DLC)の導入も支援する。

 AI-DLCでは、要件定義や設計、コーディング、テスト、運用などの各工程でAIを活用する。単にAIツールを導入するのではなく、チームの役割や仕事の進め方そのものを見直す。

 ラシッド氏は「重要なのは技術を採用することではなく、AIの採用によってチームの運営方法がどう変わるかだ」と述べる。

 FDEチームはプロジェクトの成果に責任を持つと同時に、顧客企業の担当者に開発方法を教える。顧客企業がAWSの支援なしでも継続的にAIを活用できる「自立性」を確保することが狙いだ。

FDEは従来の販売方法の限界を補えるか

 調査会社Omdiaでグローバルシステムインテグレーター部門を率いるピーター・ブライアント氏は、AWSがFDEに投資する背景には、従来の市場開拓や販売方法だけでは、顧客企業が明確な価値を得るまで支援できていなかったという課題があると指摘する。

 FDEによって顧客企業は、AWSの高度な技術者から直接支援を受け、どのように技術を使うべきかを学べる。

 ただし、FDEの成否は、担当するエンジニアが技術だけでなく、顧客企業がAIに投資する理由や、期待する事業効果を理解できるかどうかに左右されるという。

 ブライアント氏は、長期的にはシステムインテグレーターやコンサルティング企業などのパートナーも重要になるとみる。顧客企業の多くは、クラウド事業者から直接購入するのではなく、既存の取引先を通じて技術やサービスを導入するためだ。

 FDEが構築した手法や知識をパートナーへ広げ、継続的に顧客企業を支援できる体制を築けるかどうかが、AI導入の成功と失敗を分ける可能性がある。

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