“指示待ち”をやめたAI AnthropicのSlack常駐エージェント「Claude Tag」とはAIは“呼び出す道具”からチームメイトへ

Anthropicは2026年6月23日、Slackで利用できる新機能「Claude Tag」を発表した。AIが共有チャンネルに常駐し、会話の流れを踏まえて業務を支援する。導入における注意点は何か。

2026年07月06日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 Anthropicは2026年6月23日(米国時間)、「Slack」で利用できる新機能「Claude Tag」を発表した。「Claude Code」の開発者ボリス・チェルニー氏と、製品責任者を務めるキャット・ウー氏によると、Claude Tagは“個人の作業支援者”というAIの従来の概念を変え、業務遂行や人間の働き方に変化をもたらす存在だ。

 本稿は、Anthropicが2026年7月3日に公開した動画から、Claude Tagの特徴や、企業での導入における注意点を紹介する。

情シスが知っておきたいClaude Tagの特徴や注意点は

 両氏によると、AIと人間の関係はわずか数年で大きく変わった。日常のワークフローにAIが組み込まれた当初は、エンジニア向けにコードの予測入力ができる程度だった。

 その後、Claude CodeのようなAIコーディング支援ツールの登場により、AIは関数単位、ファイル単位、さらには機能単位のコード生成を担うようになった。1人のエンジニアが複数のClaudeを使い、複数の機能開発を並行して進めるような働き方も現実味を帯びてきた。

 Claude Tagは、その先を進むものだ。Slackの共有チャンネルに参加し、会話やタスクの流れを踏まえて、自ら「今、助けに入るべきか」を判断する。人間のユーザーが毎回呼び出すアシスタントではなく、チームの中に常駐する同僚に近い存在だ。システム開発であれば、AIが機能開発全体、エンドツーエンドの実験、データ分析、バグ修正などを自律的に進める。この変化を両氏は、「1人がAIを使う段階」から「チーム全体がAIとやりとりする段階」への移行として説明する。AIはもはや個人の作業補助にとどまらず、チームの業務プロセスそのものに組み込まれ始めている。

Claude Tagの4つの革新的特徴

 従来のAIツールは、基本的に受動的だった。利用者がClaude ChatやClaude Codeを開き、「これを調べて」「このコードを書いて」と指示を出す。AIはその依頼に応じて作業する。つまり、AIを使うかどうか、いつ使うかは人間が決めていた。

 Claude Tagはこの前提を変えるものだ。Slackの共有チャンネルにClaude Tagを追加すると、AIエージェントが会話の流れを見ながら、「今、自分が助けに入るべきタイミング」を判断して自発的に仕事に参加する。例えば、バグ報告が投稿されたら修正に着手する。データに関する質問が出れば一次回答を作る。フィードバックチャンネルで改善要望が出れば、修正案やプルリクエストを作成するといった具合だ。

 重要なのは、AIが「何でも勝手に発言する」訳ではない点だ。チェルニー氏によると、Claude Tagは必要なときに入る感覚や、不要なときに振る舞いも控える挙動を重視して設計されている。「発言が多過ぎる」「発言が少な過ぎる」と課題を持った場合は、人間のユーザーが「もっと控えて」「もっと積極的に反応して」と指示できる。この指示は、その後の挙動にも反映される。

長時間の自律駆動が「継続業務」を変える

 Claude Tagを特徴付けるもう1つの要素が、長時間にわたる自律駆動だ。最新モデルは16時間規模のタスクに取り組めるようになったという。単発の質問に答えるだけではなく、数日、数週間、数カ月にわたる長期の実験を自らスケジュールし、毎日のデータチェックやバグ修正を自律的に実施することも可能だ。

 これは、ビジネス現場にとって大きな意味を持つ。実際の仕事には、1回の指示で終わらない業務が多い。データの定点観測、施策の効果検証、問い合わせの継続対応、障害の経過確認、バグ修正後の再確認などは、時間をまたいで進む。従来のAIチャットbotでは、人間のユーザーが都度思い出して指示する必要があった。

 Claude TagのようなAIエージェントが自らタスクを継続し、必要に応じて報告や修正を実行できるようになれば、AIが「その場の回答者」から「継続業務の担当者」に近づく存在となる。これは業務効率化というより、業務の進め方そのものを変える可能性がある。

永続的な記憶力

 Claude Tagの実用性を支える要素として、メモリ機能にも注目したい。Claude Tagは、チャンネル内で与えられた指示やチーム固有の運用ルールを記憶する。例えば「このチャンネルでは、この種類の問題だけを監視してほしい」「このカテゴリは対象外にしてほしい」と伝えると、そのルールを次回以降も反映する。

 これは、AI活用における大きな課題の1つを解消する。従来は、依頼のたびに前提条件や社内ルール、望ましい出力形式を説明する必要があった。しかし、チャンネルごとの文脈や好みを記憶できるのであれば、毎回の説明コストは下がる。

 業務部門や情シス部門にとっては、AIに「チーム固有の作法」を覚えさせられる点が重要だ。報告の粒度、確認すべきデータ、避けるべき表現、承認が必要な作業範囲などをチャンネル単位で定義できれば、AIはより現場に即した働き方をするようになる。

1対1のAIから、チームで使うAIへ

 Claude Tagの特徴は、個人とAIエージェントの1対1ではなく、公開チャンネルで複数人がAIエージェントと協働する「マルチプレイヤー」型である点にもある。従来のAI利用では、個人がAIとやりとりし、その結果をチームにコピーして共有することが多かった。Claude Tagでは、AIエージェントがチームの会話空間に入り、複数のメンバーが同じ作業を見ながら指示や修正を加えられる。

 この仕組みは、AI活用の社内浸透にも効果がある。熟練ユーザーがClaude Tagをどのように使っているかを他のメンバーが観察し、その使い方を別のプロジェクトに持ち込むことで、ベストプラクティスが自然に広がっている事例もある。

 AI活用は、ツールを配布するだけでは広がらない。どのような業務をAIに任せるのか、どの粒度で依頼するのか、どのタイミングで人間が介入するのかを、現場が学ぶ必要がある。Claude Tagのように公開チャンネルでAIエージェントが動けば、AIの使い方そのものがチーム内で可視化される。これは、AI活用を個人スキルから組織知へ移すための仕組みともいえる。

具体的なユースケースや成果は?

 両氏によると、すでにAnthropic社内や一部の顧客でClaude Tagの導入は進んでおり、業務生産性を爆発的に向上させているという。特に、開発現場でのインパクトは大きい。Anthropicのあるプロダクト組織では、Claude Tagが書いたプルリクエスト(PR)の割合が約65%に達しており、その割合はさらに上昇している。

 Claude Tagは、バグ報告を受けて修正作業に着手し、PRを作成するだけでなく、検証結果を動画としてSlackに投稿するという動き方が可能だ。人間のユーザーは、ターミナルや開発環境を開かなくても、チャンネル上で状況を確認し、必要に応じて追加指示を出せる。

 この変化は、エンジニアの生産性を高めるだけではない。プロダクトマネジャーやデザイナーなど、これまでGitやローカル開発環境の操作が障壁になっていたメンバーも、チャンネル上でClaude Tagに依頼することでコードベースへの貢献に関われる可能性がある。開発に参加できるユーザーが拡大するのは、組織運営上の大きな変化だ。

社内Q&Aやオンボーディングにも応用できる

 Claude Tagの用途は開発に限らない。データに関する問い合わせ用のチャンネルで、Claude Tagが一次回答を担う例もある。

 新入社員のオンボーディングでの活用も可能だ。例えば、従業員が人事制度や福利厚生、法務確認に関する疑問を持ったとき、担当部門に直接問い合わせる代わりにClaude Tagへ質問する。Claude Tagが社内の信頼できる情報源に接続されていれば、時間帯にかかわらず素早く回答する。

 これは、情シス部門や管理部門にとっても重要な示唆がある。問い合わせ対応の負荷を下げるには、単にFAQを整備するだけでは不十分な場合がある。利用者がどこで困り、どの文脈で質問しているかを踏まえて回答できる仕組みが必要だ。Claude Tagのような常駐型AIは、チームの会話空間に入り込むことで、質問と回答の距離を縮める。

ただし「信頼できる情報源」と統制設計が不可欠

 一方で、Claude TagのようなAIエージェントを業務に組み込むには前提条件がある。AIエージェントが参照する社内情報が古かったり、正確でなかったりすれば、誤った回答を高速に広げる危険がある。人事、法務、セキュリティ、顧客対応などの領域では、回答の根拠となる情報源を明確にし、更新責任を定める必要がある。

 また、AIにどこまで操作を許可するかも重要だ。PR作成やデータ分析であれば、人間のレビューを前提にしやすい。しかし、本番環境への変更、顧客データへのアクセス、契約や法務判断に関わる回答では、AIの自律性と人間の承認をどう組み合わせるかを慎重に設計しなければならない。

 情シス部門に求められるのは、AIエージェントを禁止することでも、無条件に任せることでもない。利用できるチャンネル、参照できるデータ、実行できる操作、人間のユーザー側での承認が必要な範囲、ログの保存方法を整理し、現場が安全に使える土台を作ることだ。

SlackからTeamsへ AIは仕事場そのものに入り込む

 Claude Tagは今後、Microsoft Teamsなど、他のコラボレーションプラットフォームにも拡大する方針だ。

 この動きは、AIが特定のアプリケーションではなく、仕事場そのものに入り込む流れを示している。多くの企業にとって、SlackやTeamsは単なるチャットツールではない。プロジェクトの進捗(しんちょく)、意思決定、問い合わせ、障害対応、ナレッジ共有が流れる業務基盤である。そこにAIエージェントが常駐すれば、AI活用は個人の生産性向上から、組織全体の働き方改革へ広がる。

 Claude Tagが示しているのは、AIエージェントの次の姿だ。従来のAIは、人間が毎回呼び出すアシスタントだった。これからのAIは、チームのチャンネルに常駐し、必要なときに仕事を引き受け、進捗を報告し、次回に向けて学習するチームメイトへ近づいていく。

 その可能性を生かすには、現場任せでは不十分だ。情シス部門や業務部門は、AIが安全に働ける環境を整え、社内情報を信頼できる形で接続し、人間がどこで判断するかを設計する必要がある。Claude Tagの革新性は、AIの性能そのものだけではない。AIを「個人の道具」から「チームの一員」へ変える点にある。

本稿は、Anthropicが2026年7月3日に公開した動画「The future of work with @Claude」を基に作成しました。

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