高額投資でもAIが定着しない 4社に3社が抱える「信頼の欠如」導入はゴールではなくスタートライン

高額なAIツールを導入しても、なぜ現場に浸透しないのか。Deloitteの調査では実戦投入が進む企業は25%にとどまる。形骸化を防ぎ、生産性を引き出す業務再設計と「信頼されるガバナンス」の要点を解き明かす。

2026年07月22日 05時00分 公開
[Liz HughesTechTarget]

 大半の企業はAIの試験的な導入段階を終え、法人向けのAIアシスタントやCopilot、その他の生成AIツールに投資している。しかし、ビジネスリーダーたちは、従業員にAIを定着させることに難しさを感じている。

 多額の投資にもかかわらず、企業は依然として社内でのAI普及に苦心している。Deloitteが発表したレポート「2026 State of AI in the Enterprise」によると、AI施策を実運用に移行できた企業はわずか25%にとどまった。これは、組織全体でAIをスケールさせることの難しさに直面していることを浮き彫りにしている。

 Ciscoのコラボレーション担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー、スノーレ・ケスブ氏は「AI導入はゴールではなく、スタートラインだ」と指摘する。「それ以外の捉え方をしている企業は、なぜ物事が進まないのかと頭を抱えることになる」

 AIをうまく定着させるために必要な組織変革を過小評価している企業は多いとケスブ氏は言う。最初の課題は、組織そのものの再設計だ。「組織構造や役割、意思決定の速さなど、全てを進化させる必要がある。この要求は決して小さくないが、ほとんどの企業は対応が追い付いていない」

 AIの普及を成功させている企業は、強力なエグゼクティブのリーダーシップと、現場からのボトムアップの勢いを組み合わせているとケスブ氏は説明する。リーダーが明確なビジョンを示す一方で、従業員にもAI技術が業務をどう改善できるかを探る機会が必要だ。この組み合わせにより、AIの活用は単なる「上意下達のIT施策」ではなく、組織内に有機的に広がっていくという。

 高い普及率を維持している企業は、ワークフローの再設計とガバナンスに投資し、従業員が安心してAIを使える環境を整えている。

ワークフローの再設計と前向きな姿勢が普及を促す

 従業員がAIの活用にちゅうちょする理由は企業によってさまざまだが、共通するのは既存のワークフローへの統合の難しさだ。設計の不備や使い勝手の悪さ、用途の不明確さは、従業員にAIの利用をためらわせるか、管理外の外部ツールを探し始めるといった事態を招く。

 Informa TechTarget傘下の調査会社Omdiaのチーフアナリスト、リエン・ジェ・スー氏は、従業員は単に「新しいツールを使ってほしい」といわれるよりも、既存の業務課題を解決できるときにAIを受け入れる傾向がはるかに高いと指摘する。企業が普及の課題に対処するには、強固なデータ基盤の構築や、AIの能力に合わせたワークフローの再設計が必要だ。さらに、チェンジマネジメントやトレーニング、継続的なフィードバックを通じて、時間をかけて定着させていくべきだ。

 ヘルスケア企業Solera Healthの法務顧問兼CISO(最高情報セキュリティ責任者)、マイク・レヴィン氏は、代替手段を探すよりも、承認済みのAIツールを使う方が簡単であるようにワークフローを設計すべきだと提言する。

 「不適切な回避策よりも、承認されたルートの方が早いと感じるようにすべきである。問題が起きてからではなく事前にトレーニングを行い、従業員がすでに抱えている悩みから出発することだ。従業員はツールを導入するのではない。自分の時間を奪っていた問題への解決策を導入するのだ」

 米調査会社Gartnerのバイスプレジデントアナリスト、ロブ・オドノヒュー氏は、AIに対する従業員の姿勢も、企業が認識している以上に普及に大きな役割を果たすと述べる。単にAIを使うだけでは生産性は向上しない。義務感から使っている人よりも、AIに前向きな感情を持っている従業員の方が高い生産性を発揮する可能性が高いという。

 スー氏は、AIに対する従業員の関心が低い場合、ビジネスリーダーは組織側の欠陥を考慮すべきだと注意を促す。「従業員のAIへの抵抗は、本人というよりも組織の在り方を反映している」。組織構造やリーダーシップの在り方が、普及に決定的な影響を与えるという。

 従って、リーダーは普及率を向上させるために、AIに対する従業員の感情とその結果としての生産性を測定しなければならない。オドノヒュー氏によれば、AI普及を測るための新しい指標を作るのではなく、従業員がすでに熟知し利用している既存の業績評価指標に焦点を当てるべきだという。

 これらの要素は、AIが単なる導入にとどまらず、従業員の日常的なワークフローとして定着するかどうかを左右する。その重要性は、AIモデル自体の性能に匹敵する。

ガバナンスは「障壁」ではなく「信頼」を築くためのもの

 チェンジマネジメントへの投資は、従業員の感情や普及、生産性の向上に役立つ。しかし一方で、AIに対する根本的な不安や不信感が根強く残ることもある。

 「課題は多岐にわたる」とスー氏は言う。「表面上は、社内のステークホルダーからの支持が得られていない。従業員は日常業務でAIを使うことをちゅうちょするかもしれない。深く掘り下げると、その抵抗は信頼の欠如から来ていることが多い」。システムが「間違いを犯しやすい、確率論的なブラックボックス」と見なされているため、意思決定をAIに頼ることに不安を感じる従業員が多いという。

 ガバナンスは単にリスクを軽減するためのものではない。従業員がAIに対する信頼と自信を深めるのにも役立つ。レヴィン氏は、ガバナンスは普及の障壁になるのではなく、AIをどのように使うべきか、使ってよいのかという明確な境界線を示すべきだと主張する。データや意思決定、自動化についての明確なポリシーがあれば、従業員は日々の業務のどこでAIが適切で、どこで人間の監視が必要かを理解でき、信頼を築きやすくなる。

 ガバナンスは、AIの利用を制限するだけでなく、使いやすいAIを推奨し、保護するものであるべきだ。制限ばかりに焦点を当てたガバナンスは逆効果になりかねないとレヴィン氏は指摘する。承認されたツールが使いにくいと、従業員は会社の監視が及ばない未承認のAIアプリケーション(いわゆるシャドーAI)に流れてしまう。

 「シャドーAIは、何でもデフォルトで『いいえ』と言うガバナンスで支払う税金のようなものだ」とレヴィン氏は言う。「成功しているプログラムは、公認のルートを最も簡単な道にしている。不適切な回避策よりも承認されたルートを速くし、事後ではなく事前に教育し、従業員がすでに直面している課題から始めることだ。繰り返しになるが、人はツールを導入するのではない。自分の時間を不本意に消費していたものへの解決策を導入するのだ」

 Solera Healthでは、意図的にAIガバナンスを一部署に任せないようにしているとレヴィン氏は説明する。法務、サイバーセキュリティ、そして各事業部門の代表者が最初から協力することで、運用のしやすさとコンプライアンスの両面を反映した意思決定を可能にしている。同氏はこれを「逐次的なレビュープロセス」と比較して説明した。逐次的レビューでは各部署が個別にAIを評価するため、最終的な成果に責任を持つグループが不在になりがちだ。

 「ほとんどの従業員がAIを信用しないのは、彼らが頑固だからではない。AIを『わな』だと感じているからだ」とレヴィン氏は分析する。「どのようなデータを使えるのか、どの過程で人間が判断に関与し続けるのか、何を決して自動化しないのかを明文化すれば、普及は進む。明確な境界線があるからこそ、その範囲内で安心して迅速に動けるようになるのだ」

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