沖縄電力、Notes脱却で年1万5000時間減 kintone市民開発を安全に広げた6手自由と統制を両立した6つの施策

沖縄電力は、グループ約3800人が利用する情報共有基盤に「kintone」を導入した。現場従業員によるアプリ開発とガバナンスを段階的に両立させ、年間6万件の紙業務を廃止し、年間1万5000時間を削減した。

2026年08月06日 05時00分 公開
[CaseHub.NewsTechTargetジャパン]

 現場従業員が自ら業務アプリケーション(以下、アプリ)を作る「市民開発」は、業務改善を加速させる一方、似たアプリの乱立やアクセス権の設定ミス、管理者不在のアプリが残るといった問題を招く恐れがある。自由度を高め過ぎれば統制が利かなくなり、統制を強め過ぎれば現場の改善意欲を損ないかねない。

 沖縄電力は、サイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」を、グループ約3800人が利用する情報共有基盤として導入した。全社ワークフローのデジタル化と現場従業員によるアプリ開発を進め、年間6万件の書類業務をなくし、年間1万5000時間の業務時間削減につなげた。

 市民開発とガバナンスを両立させる上で、沖縄電力は何を重視し、どのような取り組みを進めたのか。

沖縄電力に学ぶ「安全な市民開発」の進め方

 沖縄電力は、中期経営計画に掲げる「まずやってみる・変えてみる」という方針の下、デジタルトランスフォーメーション(DX)や業務プロセスの見直しを進めている。

 その一環として着手したのが、長年利用してきたグループウェア「Notes」の刷新だ。Notesのサポート終了が迫っていたことに加え、各部門が独自に作成したアプリが100個以上に増えていた。

 似た名称や機能を持つアプリが複数存在し、データベースや業務プロセスが部門ごとに分散していた。現場には、自分たちの手で業務を改善しようという意欲があったものの、その結果としてアプリが乱立し、運用やデータ活用を難しくしていた。

 新しい基盤には、各部門が作り込んだ業務アプリを再現できる柔軟性と、現場従業員が自ら業務を改善できる仕組みが求められた。沖縄電力は、業務に合わせてアプリを構築でき、日本企業に多い段階的な承認手続きにも対応しやすい点を評価してkintoneを選定した。

 新しい情報共有基盤への移行は2019年に完了した。ただし、Notes時代の反省から、導入直後に誰もが自由にアプリを作れるようにはしなかった。次に、同社が市民開発とガバナンスを両立させる上で具体的に実施した施策を紹介する。

1.最初から現場へ全面開放しない

 沖縄電力が最初に採ったのは、情報システム部門とシステム開発を担うグループ会社の沖電グローバルシステムズが、アプリ開発を一手に担う体制だった。

 現場部門は必要なアプリを情報システム部門へ依頼し、専門知識を持つ担当者が開発する。まずは厳格な統制下で運用ルールや利用方法を整え、アプリやデータベースが再び無秩序に増えることを防いだ。

 一方、全社への浸透を図るため、全従業員が日常的に利用する申請業務をkintone上のワークフローに移行した。

 ワークフローは、件名、本文、添付ファイルを基本とするシンプルで汎用的な設計にした。利用を強制せず、利便性を実感した従業員の口コミを通じて普及させた。

 承認経路の分岐や差し戻し、複数人による段階的な確認を設定できるため、紙の決裁に慣れた従業員にも受け入れられた。まず全従業員に共通する業務から利用を広げたことが、後の市民開発を支える土台になった。

2.開発需要を見極めて段階的に開放する

 情報システム部門が開発を担う体制には、アプリの品質やセキュリティを管理しやすい利点がある。一方、利用部門が増えれば開発依頼が集中し、必要なアプリを迅速に提供できなくなる。

 沖縄電力でも、コロナ禍を機にテレワークや電子申請の需要が高まり、kintoneの利便性が社内で認知されるにつれて、現場からの開発依頼が増加した。

 そこで同社は2023年、現場従業員によるアプリ開発を解禁した。導入時から全面的な市民開発を認めるのではなく、共通基盤の利用が定着し、現場の開発需要が顕在化した段階で開発環境を開放した形だ。

 沖縄電力の経営戦略本部デジタルイノベーション推進部企画開発グループ主任の宮城久俊氏は、統制を強く利かせた状態から少しずつ制限を緩め、現場の裁量とのバランスを調整したと説明する。

3.市民開発者にアクセス権を重点的に教える

 現場へ開発環境を開放するに当たり、沖縄電力が実施した施策の一つが社内勉強会だ。2026年7月までに、日常的にPCを使う従業員の過半数に相当する延べ約400人が受講した。

 勉強会では、高度なカスタマイズ方法よりも、アプリの基本的な作成方法とアクセス権の設定を重点的に教えた。

 市民開発では、使いやすい画面や便利な機能を作ることだけでなく、誰がどのデータを閲覧、編集できるかを適切に管理する必要がある。特に沖縄電力は重要インフラ事業者であり、業務情報や個人情報が意図しない範囲に公開される事態を防がなければならない。

 市民開発者全員に専門的なシステム開発教育を施すのではなく、情報を安全に扱うために最低限必要な知識を重点的に身に付けてもらうことが、ガバナンス確保の要点となった。

4.教育だけに頼らず技術的に事故を防ぐ

 研修を実施しても、設定ミスを完全になくすことは難しい。沖縄電力は、利用者の注意力だけに依存せず、誤操作が起きても情報漏えいにつながりにくい技術的なガードレールを設けた。

 具体的には、業務領域や扱う情報の性質に応じて、アプリを作成できる領域を分離した。市民開発用の領域では、作成者がアクセス権を誤って設定しても、意図しない範囲に情報が公開されないようにした。

 休暇や短時間勤務の申請など、個人情報を扱うアプリでは、申請者、所属長、担当部門といった細かい単位でアクセス権を設定している。

 開発者にルールを守るよう求めるだけでなく、プラットフォームの設定によって守れる範囲を限定する。人による教育とシステムによる制御を組み合わせたことが、市民開発を安全に広げるポイントとなった。

5.アプリ作成と本番公開を分ける

 沖縄電力は、市民開発を解禁した後も、現場従業員が作ったアプリを自由に本番公開できるようにはしていない。

 アプリの作成は申請制とし、リリース時には情報システム部門が所定のアクセス権を設定する。現場には業務に合わせてアプリを試作、改善する裁量を与えながら、本番環境へ公開する段階では情報システム部門が関与する仕組みだ。

 これにより、情報システム部門が全てのアプリを開発する場合と比べて負担を抑えつつ、公開範囲や権限設定に関する統制を維持できる。

 アプリを作る権限と、全社または部門内で正式に利用を開始する権限を分けることが、現場のスピードと安全性の両立につながっている。

6.現場の試行錯誤に介入し過ぎない

 ルールや技術的な制限を設ける一方、沖縄電力の情報システム部門は、現場のアプリ開発へ過度に介入しない方針を採っている。

 情報システム部門から見れば改善点があるアプリでも、現場から助言を求められるまでは、すぐに口を出さない。失敗を先回りして防ごうとすると、現場従業員の意欲や主体性を損なう恐れがあるためだ。

 守るべきアクセス権や公開手続きは厳格に管理する一方、業務の設計や改善方法については現場に任せる。全てを統制するのではなく、事故につながる領域と現場へ委ねる領域の境界を定めることが重要になる。

ワークフローで年間1万5000時間を削減

 統制と現場の裁量を両立する体制を整えたことで、kintoneの活用は全社共通のワークフローから、部門固有の業務へと広がった。

 全社ワークフローでは、承認のリードタイムが多くのケースで従来の半分以下になった。出張中の上司の机に書類が置かれたままになり、処理が止まるといった問題も解消した。

 年間6万件に上っていた紙の書類を使う業務をなくし、年間1万5000時間の業務時間を削減した。汎用ワークフローを基に正式な稟議手続きもアプリ化し、同じ仕組みをグループ会社へ展開している。

 市民開発の解禁後は、パッケージ製品では対応しにくい、現場固有の業務をアプリ化する動きも広がった。

 総務部門は、約30台の共有車両の予約や運行管理をアプリ化した。従来は電話と紙のカレンダーで年間6000件を超える予約を管理していたが、利用者がアプリから直接予約できるようにした。電話対応や集計にかかる時間を年間数百時間規模で削減し、利用状況のデータを車両台数の見直しにも生かしている。

社外との工事調整にもガバナンスを適用

 kintoneは、社外の関係事業者と進める業務にも使われている。

 電柱の建て替え工事では、沖縄電力と他の事業者が、設備移設の時期や工事の進捗を調整する必要がある。従来は電話で連絡していたため、伝達漏れや認識の違いによる手戻りが発生していた。

 沖縄電力は、kintoneの連携サービス「FormBridge」と「kViewer」を利用し、社外の担当者がkintoneのアカウントを持たなくても、必要な情報を確認、更新できる仕組みを構築した。

 アクセスできる情報を制限した状態で社外と進捗を共有し、やりとりの履歴を残せるようにしたことで、年間約300時間の作業を削減した。社外との協働でも、利便性だけを優先せず、情報の公開範囲を制御している。

自由か統制かではなく、開放する範囲を設計する

 沖縄電力の事例から見える市民開発とガバナンスを両立する勘所は、現場を自由にするか、情報システム部門が統制するかという二者択一で考えないことだ。

 導入当初は情報システム部門が開発を担い、利用方法やルールが定着した後に現場へ開放する。開放時には、教育、技術的なガードレール、申請制、本番公開時の確認を組み合わせる。その上で、安全性に直接影響しない試行錯誤には介入し過ぎない。

 つまり、全ての行動を管理するのではなく、現場へ任せる範囲と情報システム部門が管理する範囲を設計することが重要になる。

 今後、沖縄電力は増加したアプリやデータの整理を進め、シンプルで保守しやすく、誰もが自然に利用できる環境を目指す。業務を通じて蓄積した構造化データを、将来のAI活用につなげることも検討している。

(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「沖縄電力、kintoneで業務基盤刷新 年間1万5000時間の作業削減」(2026年8月5日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。

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