情シスを悩ますAIの費用対効果 IBM・Oracle・SAPら30社が業界標準づくりThe Linux Foundationが新組織設立

The Linux Foundationは、AIの総所有コスト(TCO)やビジネス価値、投資対効果(ROI)をベンダー横断で評価する業界標準の策定を目指す新組織を設立した。その問題意識や狙いは。

2026年08月11日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 「AIに毎月いくら払い、その見返りはいくらか」。経営からそう問われて、根拠を持って答えられる情報システム部門担当者はどれだけいるだろうか。生成AIが実験から本格運用へ移る中で支出は膨らむのに、費用対効果を測る共通の物差しは、いまだ存在しない。

 The Linux Foundationは2026年8月4日(米国時間)、AIのコストや価値、投資対効果(ROI)をベンダー横断で評価する業界標準の策定を目指す新組織「Tokenomics Foundation」を設立した。設立の経緯や問題意識、目的を整理する。

Tokenomics Foundationとは?

 Tokenomics Foundationは、AIの総所有コスト(TCO)やビジネス価値をベンダー横断で比較、評価できる共通の指標やフレームワークを整備することを目的としている。

 企業によるAI活用が本格化する一方、「AIにいくら費用がかかり、どれだけの価値を生んだのか」を測る仕組みは十分に確立されていない。Tokenomics Foundationは、AI利用を単純なトークン単価だけで評価せず、コンピューティングやストレージ、データベース、キャッシュ、エンジニアの人件費なども含めて経済性を捉える考えだ。

AIの「1トークン当たりの価格」だけでは測れない

 同団体が掲げる「AI Tokenomics」は、AIの生成や利用、それによって生まれる価値を管理し、ビジネス成果につなげるための考え方だ。企業が答えるべき問いとして、「AIには実際いくらかかっているのか」「AIが生み出す知的能力にはどのような価値があるのか」の2つを挙げている。

 生成AIの料金では、入力や出力のトークン数を基準とした価格体系が広く使われている。しかしTokenomics Foundationは、AIのコストの多くがトークンそのものだけで決まるわけではないと指摘する。

 AIサービスを提供するには、計算資源だけでなく、ストレージやデータベース、キャッシュといった周辺インフラが必要になる。AIシステムを構築、運用するエンジニアの人件費も発生する。トークンはこうしたさまざまなコストを生じさせる利用量の共通単位ではあるものの、AIのTCOを把握するには、その周辺まで含めて評価する必要があるという。

「トークン単価」から「1回の処理コスト」へ

 Tokenomics Foundationは、AI投資を評価するための共通言語や測定方法の整備を進める。

 ロードマップの1つが、AIの総コストを算出するための「リファレンスモデル」だ。トークンだけでなく、AIを利用するために必要な構成要素を整理し、トークン料金を全体コストの一部として位置付ける。

 もう一つが「Cost to serve」(サービス提供コスト)の標準化だ。単純な「1トークン当たりのコスト」ではなく、「1回の呼び出し当たりのコスト」としてAI処理に必要な費用全体を測定する方法を整備する。実際に実行した仕事とコストを結び付けやすくする狙いがある。

 AIが生み出した価値を測るフレームワークも策定する。最初の指標として、人間が介在せずに完了した業務の割合と、その業務を従来の方法で実行した場合のコストを比較する方法を検討する。AIへの支出額だけを見るのではなく、業務成果との関係からROIを捉える考え方だ。

モデル選定やAI TCOの比較にも共通指標

 ロードマップには、AIワークロードのコスト特性を分類する「Big-T Framework」も含まれる。必要なトークン量と、それに伴うAI利用コストの複雑さを分類、評価するための方法論だ。主に、処理内容に応じて最も費用対効果の高いAIモデルへ自動的に振り分ける「モデルルーティング」に利用することを想定している。

 AIのコストデータを共通形式で扱う取り組みも進める。クラウドのコストや利用量データを標準化する「FinOps Open Cost and Usage Specification」(FOCUS)のバージョン1.5以降に、AIのトークンコストをより詳細に報告するための仕組みを組み込み、AIのTCOを把握しやすくする。

 教育と認定資格の提供も計画する。AI Tokenomicsの基本的な考え方やコスト、価値の測定手法を企業の担当者が実務で利用できるよう、基礎コースと資格を整備するという。

30社が参加、ベンダー中立の標準を目指す

 Tokenomics Foundationには設立時点で、Accenture、BNY、Broadcom、IBM、JPMorganChase、Lenovo、Oracle、SAP、ServiceNowなど30の企業や組織が参加する。

 運営に当たっては、Governing Board(理事会)やTechnical Steering Committee(技術運営委員会)、知的財産を管理するメンバー向けワーキンググループを設置し、ベンダー中立の仕様やベンチマーク、ベストプラクティスを策定する。

 Linux Foundationのエグゼクティブディレクター、ジム・ゼムリン氏は、AIではトークンが経済活動を表す単位になりつつある一方、「AIへの支出と価値を結び付ける共通の方法が存在しない」と指摘する。Tokenomics Foundationを、AI利用企業とAIサービス提供企業がベンダー中立の形で共通標準を作る場にするとしている。

 企業にとってAIは、実験段階から本格利用へと移りつつある。AIをどれだけ利用したかだけではなく、そのために総額でいくら使い、どの業務成果につながったのか。Tokenomics Foundationは、AI投資の費用対効果を企業が共通の物差しで評価するための仕組みづくりを進める。

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