AI開発でエンジニア削減は大きな間違い 浮上する「管理職不要論」開発サイクルを劇的に早める組織づくり

AI技術の発展で本質的に不要となるのは、現場エンジニアではなく従来の中間管理職だと指摘する声がある。機能を5分で本番環境に届ける開発組織へ変革するための条件とは。

2026年08月21日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 ソフトウェア開発の世界において、小規模な変更を短期間のうちに繰り返す「アジャイル」型開発、開発と運用を融合させる「DevOps」に次ぐパラダイムシフトとして、AIツールの活用が本格化している。しかし、企業はこの強力な技術を「同じ量のソースコードをより少ない人数で書く」ための単なる効率化ツールとして扱い、末端のエンジニアを削減するにとどまっている。

 開発インフラの構築を支援するEficodeでCTO(最高技術責任者)を務めるマルコ・クレメッティ氏は、このアプローチを「根本的に間違った問い」だと指摘する。優れた企業は、AIツールを用いて既存のワークフローを微調整するのではなく、サービスを生み出す仕組みそのものを再構築している。

 クレメッティ氏が提唱する、次世代のソフトウェア開発における究極の目標(ノーススター、北極星)は、「機能を5分で本番環境にデプロイすること」だ。AIエージェントが要件定義からコーディング、テストまでをシームレスに実現することで、かつて手作業や部門間の引き継ぎに何日も費やしていた工程を劇的に短縮できるという。

 ただし、この圧倒的なスピードを実現するには、開発者がただAIツールを使うだけでは不十分だ。旧態依然とした組織構造や管理体制を見直さなければ、AI技術の真の価値は引き出せない。真のAI駆動型組織を構築するためには、ツールと組織の両面でどのようなアプローチが必要なのか。具体的な仕組みと、マネジメント層に迫る危機を深掘りする。

AIからの「提案」を承認する開発スタイル

 本稿は、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「GOTO Copenhagen 2025」における対談セッション「Rewriting the SDLC playbook with GenAI-how to build a GenAI-augmented software organization?」の内容を基に構成している。本セッションでは、デベロッパーアドボケート(開発者向け啓発活動の専門家)であるクリス・ジェンキンス氏が聞き手となり、クレメッティ氏の持論を掘り下げた。

 SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)全体の変革において、未来のエンジニアの働き方は根本から変わる。クレメッティ氏は、システムの稼働状況やエンドユーザーの行動データを収集する「テレメトリー」「オブザーバビリティ」(可観測性)といった仕組みとAIツールが連携する未来を描く。

 例えば、AIモデルと外部データソースを接続する規格「MCP」(Model Context Protocol)を介して、エンドユーザーのページ読み込み時間やフィードバックデータをAIエージェントが解析する。これによって、AIエージェントは「決済画面での余分なクリックが離脱率を下げているため、ボタンの配置を変更してはどうか」と具体的な機能変更を自律的に提案するようになる。

 エンジニアは詳細なログを自ら分析するのではなく、AIエージェントが事前に整理・要約した提案内容を確認し、「承認」または「却下」を選択するだけでよくなる。承認すれば、自然言語からソフトウェアを生成する「Lovable」や、AI技術を活用したマイクロアプリケーション開発ツール「GitHub Spark」などのツール群が連携し、既存のソースコード群に対する変更が自動的に実装・デプロイされる。

認知負荷を下げる「チームトポロジー」の適用

 こうした自律的な開発フローを阻害するのが、従来の階層的な組織構造だ。クレメッティ氏は、組織設計のフレームワークである「チームトポロジー」と、エンジニアの生産性を高める開発システムを構築する「プラットフォームエンジニアリング」の組み合わせが不可欠だと主張する。

 チームトポロジーの中心となるのは、顧客への価値提供に特化して自律的に動く「ストリームアラインドチーム」だ。このチームがインフラやデータベースの複雑な設定に悩まされることなく開発に専念できるよう、社内のプラットフォームエンジニアリングチームが標準化された開発システムを提供する。

 近い将来、このシステムにはAIエージェントも組み込まれるようになる。EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)の順守状況をチェックする専門のAIエージェントをプラットフォームエンジニアリングチームが提供すれば、ストリームアラインドチームはそれをパイプラインに組み込むだけで、安全性を確保しつつ高速に価値を生み出せるようになるといった具合だ。

「中間管理職」が不要になる未来

 組織がフラットになり、小規模なチームがAIエージェントの支援を受けて自律的に拡張機能をリリースできるようになると、部門間の調整や進捗(しんちょく)管理を担ってきた中間管理職の存在意義は大きく揺らぐ。

 クレメッティ氏は、生成AIの波によって開発現場の末端から人員削減が始まっている現状に警鐘を鳴らす。その一方で、最終的に淘汰(とうた)されるリスクが高いのは、変化を遅らせる「レガシーな管理構造」だと指摘する。「複数のチームを管理するためのマネジャーは不要になり、マネジメントの役割は『実験の方向性やビジョンを設定すること』に変化する」と同氏は語る。

 北欧のように比較的フラットな組織文化を持つ地域に比べて、厳格な階層構造を持つ組織ほど、この変革への適応は困難を極める。既存のサイロ化(分断)された組織体制のまま、AIツールを活用して局所的な最適化を図る企業は、いずれ市場から姿を消すリスクを抱えている。

 自社専用の高度なシステムを巨額の費用で開発する時代は終わりを告げようとしている。AI技術を活用した開発ツールを用いて、市場にある既存機能を数分の一の費用で迅速に構築・投入する企業が次々と現れるからだ。来るべきAI時代を生き抜くためには、5分で機能をリリースできる組織構造への変革と、それを実現するインフラの構築に今すぐ着手する必要がある。

本稿は、Triforkが2026年2月25日に公開した動画「How To Build a GenAI-Augmented Software Organization・Marko Klemetti & Kris Jenkins・GOTO 2025」を基に作成しました。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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