環境保全からレストラン運営まで
「AI活用」で炎上する企業と成功する企業の明暗を分ける“違い”とは
企業のAI導入プロジェクトの成否を分けるのは技術力だけではない。AWSを活用するさまざまな業界の組織の事例から、AI導入の成否を分ける“共通点”を読み解く。
海洋ごみの回収から、レストランの顧客体験向上まで、多様な分野でAI(人工知能)技術の活用が進んでいる。その成功の鍵を握る要素とは何か。本記事は、環境保護団体やフィットネスクラブ運営企業など、さまざまな組織がAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービスをどのように利用して価値を生み出しているのか、それを支える要素とは何かを解説する。
環境保全に役立つAWSとAI
海洋ごみ問題の解決に取り組む非営利団体The Ocean Cleanupは、2040年までに海洋ごみの大部分を回収するという目標を掲げている。この目標を達成するために、同団体はどの海域を重点的に清掃するかを戦略的に決定する必要がある。こうした背景から、同団体は2025年7月、AWSの協力を得て、衛星データと浮遊追跡装置から廃棄プラスチックが集中する海域を特定するシステムを構築することを発表した。
The Ocean Cleanupの資金調達および企業パートナーシップ責任者であるリッカルド・ファリーナ氏は、「われわれが保有するデータと新たに得られるデータを組み合わせ、プラスチック濃度が最も高い場所に船を誘導できるシステムを構築する」と説明する。これによって、作業効率を大幅に向上させることが可能になるという。
今回の提携の中核にはAI技術がある。AWSは、The Ocean Cleanupが海洋生物を検出し、海洋ごみの回収作業に伴う影響を最小限に抑えるための、AI(人工知能)技術を活用した監視システムの開発も進めている。
The Ocean Cleanupは以前から、目標達成に必要なデータを集めるためにAI技術を活用してきた実績がある。船に搭載したカメラで海上の浮遊物やごみの位置に関するデータを収集し、そのデータを用いてAIモデルに学習させてきたのだ。「この事例は、AI技術が環境問題の解決に貢献できることの証明だ」とファリーナ氏は述べた。
InforとEquinoxが示すデータの重要性
The Ocean Cleanupの事例は、AI技術を活用したツールやアプリケーションを開発する上で、データがいかに重要であるかを物語っている。
特定の業界に特化した企業向けツールベンダーInforで、エコシステムおよび事業開発担当シニアバイスプレジデントを務めるジャンヌ・ニューベリー氏は、「AI技術の導入を成功させるには、その前提となる信頼性の高い強固なデータ基盤(AI技術活用において、データを一元的に管理する仕組み)が不可欠だ」と語る。Inforは、AWSが提供する生成AIアプリケーション開発サービス「Amazon Bedrock」を利用している。
AI技術を効果的に利用するためのデータ基盤の重要性を示す別の企業が、フィットネスクラブを運営するEquinoxだ。EquinoxはAWSの顧客として、AWSのAIモデルやAmazon Bedrockを駆使してきた。会員データを分析し、会員ごとに最適なフィットネスコースのクラスを推奨するシステムも構築している。
Equinoxのエグゼクティブバイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)であるエスワー・ベルリ氏は、「数千のクラスと数十万人の会員を有する中で、誰がどのクラスを受講すべきかを判断するには、利用傾向を分析する標準的なAIモデルを用いる」と説明する。
生成AIの導入によって、Equinoxは推奨の提供から一歩進み、会員向けシステムの操作画面を、自然言語でのやりとりが可能なインタフェースに進化させた。これによって、会員はシステムからの応答に対して質問を重ね、自身のニーズを具体的にしていくことが可能になった。
「会員が入力した質問をシステムが理解し、それに基づいて応答を修正できる点は、生成AIの大きな利点だ。これによって、会員はシステムと対話するように、満足のいく答えを得られるようになった」とベルリ氏は語る。
活用中のデータに加え、Equinoxは将来的に、生体データや血液データといったより詳細な情報をAIモデルに与えて、新たな価値を生み出すことを視野に入れている。ベルリ氏は、「より高度なサービスを求める会員に対し、AI技術をどのように活用して、より良い推奨事項を提供できるかが今後の課題だ」と語る。
Equinoxは、デジタルツイン(現実世界の情報をデジタル空間に再現する技術)開発のために、より質の高い会員データを作成したいと考えている。これによって、会員一人一人の目標を仮想空間で視覚的に示し、達成への道のりを具体的にイメージできるようにすることを目指しているという。
社内外で活躍するレストランチェーンのデータとAI
AWSと提携し、データを活用してAI技術の応用を推進している企業の例として、レストラン持株会社のDine Brands Globalがある。同社は「IHOP」や「Applebee's」といったレストランブランドを傘下に持ち、2025年6月時点で約3500件のレストランを運営している。グループ全体のIT戦略やデータ分析を本社が担うことで経営効率を高めるビジネスモデルであり、各レストランチェーンのシステムをAWSに構築している。管理対象の全データが、AWSが提供するサービス群の中に保管されているという状態だ。
こうした背景から、Dine Brands Globalのデータサービス、デジタルおよびCRMエンジニアリング、プラットフォーム担当バイスプレジデントであるジェイソン・スアレス氏は、同社がAI技術活用の取り組みにAWSのサービスを利用するのは「ごく自然な選択だった」と語る。
Dine Brands Globalは、構造化データ(整理された形式のデータ)と非構造化データ(文書などの形式が定まっていないデータ)という2種類のデータセットを、それぞれ異なる目的で活用し、社内外向けのアプリケーションを開発した。
社内向けには、非構造化データを活用し、AI技術を活用した技術サポートシステムを構築した。非構造化データの例としては、社内情報共有サービス「Microsoft SharePoint」内の文書がある。このシステムは、全米に展開するフランチャイズ加盟店からの問い合わせに対し、技術サポート担当者が自然言語で迅速に応対することを可能にするものだ。本部は加盟店のITインフラを支えることで、ブランド全体のサービス品質を維持している。
「このシステムとデータは、技術サポート担当者の業務を迅速かつ効率的にする。AIアシスタントがいなければ、これほど素早く情報を引き出すことはできない」とスアレス氏は説明する。
社外向けには、構造化データを活用し、顧客体験の向上に役立てている。このデータは傘下のレストランIHOPの顧客プログラムから得られたもので、顧客の取引や行動に関するデータが含まれる。「この豊富なデータを基に、一人一人に合わせたサービスを提供できる。顧客体験を向上させ、有意義な価値を提供するための、私たちの事業にとって最適な取り組みだ」とスアレス氏は意義を語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget グローバルインサイト
米国Informa TechTargetが発信する記事を翻訳し、国内向けに分かりやすく紹介します。最新の海外動向や先進事例を取り上げ、グローバルなITトレンドを把握できる連載です。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
2
ソフトウェア開発生産性向上に取り組む企業は4割 調査で学ぶ「停滞」の正体
-
3
クラウド資格コレクターは評価されない? 年収1000万を分ける“OSの理解度”
-
4
「完璧な設計」なのに3000万円溶けた AWSの失敗事例から学ぶ3つの教訓
-
5
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
6
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
7
脱クラウドの受け皿か NVIDIA×国内連合にみる「AIコスト削減」の現実味
-
8
「配信に1カ月」の代償 カルビーがLINE運用で外部依存を断ち切った理由
-
9
【基本情報技術者試験】「デュプレックスシステム」と「デュアルシステム」の違いは?
-
10
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
4
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
5
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
6
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
-
9
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
10
NTTドコモが実践したクラウド統合監視 業務量2倍でも残業削減を実現できた理由
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー