CIOの知恵袋:SAP ERP導入編
SAP ERPの導入効果を示すには
スムーズなSAP ERPの導入にはその導入効果を経営陣に適切に示し、十分なリソースを割り当ててもらうことが大事。導入効果を算出するための方法を事例に基づき示す。
SAP ERPの特徴はその統合されたアプリケーションとデータ構造にあり、1つのシステムで、グループ全体の情報を管理できる。この特徴を経営・業務・ITに活用することでシステム導入の教科書にあるようなさまざまな効果を生み出すことが可能となる。
しかしながら、経営陣がSAP ERPの導入効果を理解することは容易ではない。ERPパッケージ導入における課題の第1位は「導入効果を理解・判断しにくい」となっている。
SAP導入効果の判断タイミング
一般的にSAP ERP導入の投資対効果は、プロジェクトの企画フェーズで承認される。企画フェーズは、その検討対象範囲が非常に広いにもかかわらず比較的短期間である。短期間でグループ全体の投資対効果を正確に試算することは、とても難易度の高い作業だ。その結果、投資については正確性を追求するものの、効果についてはベンダーが示すような「カタログ的」なSAP ERPの導入効果を経営陣に提案しているケースが見受けられる。
一方で、SAP ERP導入は比較的大規模な投資となるため、経営陣の効果への期待は高くなる。昨今の厳しい経営環境下においては特に厳密な評価を行っており、「カタログ的」なSAP ERP導入効果で理解してもらうことは不可能に近い状況だ。
企画フェーズで経営層の期待に応えるための効果試算の作業について、筆者の経験や事例を交えながら紹介する。
効果試算の工夫ポイント
ある企業のプロジェクトにおける企画フェーズの話。この企業では、具体的な狙いや目的がなく、「業務改革」という言葉だけが独り歩きする状態で企画フェーズを開始した。だが効果試算の作業を工夫することで、最終報告では正確な投資対効果を報告することができ、経営陣に無事承認をもらえた。実行した効果試算のポイントと作業ステップは以下だ。
ERP効果試算のポイント
- 仮説立案:短期間で効果を試算するためには仮説の立案と実証作業が必要不可欠。また、外部視点からの比較調査は経営陣への報告において効果的なので、業界先進事例や業界の指標を物差しとして活用した。
- 課題測定:現状のデータを利用して網羅的に定量化できることが望ましい。ただし、このケースでは現状データがなかったため、アクセンチュアのシステムを活用してデータを収集し、分析・定量化を行った。
- 課題調査:課題が発生するメカニズムは、組織・業務・システムをまたがっていることが多い。このプロジェクトでも各トピックの専門家が深い洞察を行うことで課題発生メカニズムを解明した。
- 原因特定:課題の原因を特定するだけでなく、それを定量化することで経営層への説得力が高まる。特定の品目について現場を回り、簿外在庫を調べ上げて定量化した。
- 施策立案:課題を解消するためにはシステム的対応だけでは不十分であり、必ずといってよいほど業務改革を伴う。業務を改革するための施策を漏らさず抽出することで、業務部門のサポートを獲得した。
- 効果試算:SAP ERP導入と業務改革によって得られる効果は、実際のデータに基づいて試算することで信頼性が高まる。ただし、経営陣に説明する場合は、切れ味の良い(経営陣に響く)効果に絞ることも重要。
- コミット:現場の業務や実際のデータを基にして説明することは非常に有効。この事例では、マネジメントからの第一声は「(皮肉交じりに)当社の課題をこれだけ調べてくれてありがとう」だった。経営陣にとって現場・現実は新鮮な情報なのかもしれない。
| 作業ステップ | ポイント | 事例 |
|---|---|---|
| (1)仮説立案 | 外部視点からの定量的なアプローチ | 競合他社とのベンチマークを実施した結果、販売費および一般管理費(SGA)比率が高く、営業部門のパフォーマンスが低いことが分かった |
| (2)課題測定 | 現状データを使った課題の定量化 | 営業担当者の工数分析の結果、「納期回答」の工数比率が高く、緊急・重要課題として位置付けた |
| (3)課題調査 | 課題が発生するメカニズムの特定 | 回答納期はシステムでは行えず、人間系のバケツリレーで確認しないと、納期が分からないことが判明した |
| (4)原因特定 | 実際のデータによる根本原因の立証 | 理論在庫と実在庫が実際には乖離。営業担当者間の在庫の奪い合いにより、担当ごとに簿外で在庫を確保していることが判明した |
| (5)施策立案 | 施策の抜け漏れ防止 | 製品在庫の将来像を定義。管理機能(組織)、在庫責任(ポリシー)、引当優先順位(ルール)、受け払い業務(プロセス)、納期回答機能(システム)の施策を定義した |
| (6)効果施策 | 切れ味の良い効果の絞り込み | SGAの削減、在庫削減、納期回答スピード短縮の3点についてのみ効果を絞り、実際データから試算した |
| (7)コミット | 臨場感のあるマネジメント報告 | 取り組み内容を数字とともに説明し、効果へのコミットを得るとともに、プロジェクトの熱烈なサポーターになってもらった |
(出典:アクセンチュア)
経営陣とのコミュニケーション
SAP ERP導入効果の説明方法も工夫が必要だ。企画フェーズの1回きりの最終報告会だけでは、投資対効果を判断できない。仮説立案の段階から経営陣に対して定期的に相談・報告し、コミュニケーションの期間と頻度を増やすことで、経営陣が理解・判断できる材料を提供することが必要。それがプロジェクトリーダーの説明責任であり、プロジェクトリーダーを支えることがコンサルティングファームの責任といえる。
鈴木基夫
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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