ERP成功のヒント【第6回】
ERPの導入コストを本気で抑えるには
ERP導入で経営者が最も関心を持つのは導入コスト。できるだけ導入コストを抑えながら、ERPのメリットを得るためにはどうすればいいのだろうか。コスト抑止のためのさまざまな方法を紹介する。
ERPパッケージ導入おいてコストは避けることができないテーマである。今回は、ERP導入時のコスト抑制に焦点を絞って、IT部門が留意すべき点を解説する。
なぜ導入コストは膨らむのか?
計画フェーズで綿密に見積もったはずのERP導入コストが、導入フェーズに入ってから予想外に膨らむことがよくある。当初予定よりコストが膨らむ要因は幾つかある。その中で一番多いのは、開発が進むにつれて要件が膨らんで、当初予定していなかったアドオン開発が発生したり、導入コンサルタントの追加工数が発生するケースである。要件定義完了後に、ベンダーから多額の追加コストの見積もりを提示されるといったことも多々ある。最悪の場合、それが原因でプロジェクトの中止を検討するというケースもある。
もちろん、パッケージの選定時から要件定義を綿密に行い、業務とERPの適合性分析を網羅的に行っていれば、本来的には導入フェーズにおける大幅な追加コストの発生は防げるはずである。しかし、それも限度がある。計画フェーズではパッケージの選定が主目的で、パッケージ選定前から綿密な要件定義を行わないことが通常だからである。そのため、導入フェーズに入って現場からの要求がより具体的になり、詳細な要件が見え始めると、当初計画にはなかったはずの要件が顕在化してくるのである。
導入コストを抑えるには
従ってERPの導入コスト抑えるには、導入フェーズにおいて絶えず要件の絞り込みを意識することが重要となる。では、要件を絞り込むにはどうしたらよいだろうか? 簡単に言えば、要件に優先順位を付けて、優先順位の高いものから順番に実現していくという極めて単純なことを行えばよいのである。
しかし、実際にはこれがなかなか難しい。その要件を必要とする背景や他の要件との関連、社内外への影響など、複雑な要素を総合的に検討してその重要性、要否を検討しなければいけないからである。筆者は、導入フェーズにおける要件の絞り込みを合理的に行うために、特に以下の3点に留意している。
(1)ERP導入目的を判断基準とする
「この帳票は本当に必要か?」「この処理は自動化が必要か?」というような個々の要件の重要性や要否を判断する際には、ERPの導入目的をその判断基準とすべきである。すなわち、ERP導入を計画した時点に立ち返って、そのときに議論したERPの導入目的を再度確認する。その上で要件の切り分けを行うのである。
(2)経営者目線で要件をフィルターにかける
第4回「ERP導入フェーズで欠かせないユーザー部門参加の極意」でERP導入にはユーザー部門の積極的な参画が重要と書いた。改善の種は現場にあり、ユーザー部門に聞かなければ要件も出てこない。従って要件定義においては現場目線でユーザー部門とじっくり議論する姿勢は間違っていない。
しかし、導入フェーズに入って要件が膨らむ原因の1つとして、ユーザー部門の要望を聞き過ぎることがある。ユーザー部門は「現行の業務システムと同じ運用ができる」「あったら便利」といった理由で要求を出している場合がある。
このような場合、現場からの要求を経営者目線でフィルターにかけて要件を絞り込むことをお勧めする。経営者目線とは文字通り、「自分がこの会社の経営者だったら、その要件を必要とするか?」といった視点である。経営者がERPに求めるものは、意外に単純だったりする。つまり、「どこで儲かっていて、どこで損をしているか?」が分かればよいといった具合だ。現場目線から経営者目線に切り替えて検討し直すことで、要・不要の判断が意外に簡単にできるものである。
(3)標準機能の使用を原則とする
要件定義では、まずはERPの標準機能を使うことを前提に業務プロセスを設計すべきである。標準機能に合わせて業務を組み立てるので、無駄に要件が膨らむこともなければ、不必要なアドオン開発も発生しない。筆者の経験でも、こういった割り切りがないとERPの導入はスムーズに進まないと言い切れる。
ただし、アドオン開発が悪で標準機能を使うことが善といった単純な話をしているのではない。標準機能を使うことで著しく業務が非効率になったり、競争上の優位性が損なわれてしまうような業務プロセスでは、むしろ積極的にアドオン開発することを視野に入れるべきである。重要なのは標準機能を使うか、アドオン開発するかの選択ではなく、あくまで原則は標準機能で、必要不可欠な要件のみアドオン開発を行うと考えることである。
過剰な内部統制対応、IFRS対応に注意
最近のERPの導入においては、J-SOX(内部統制報告制度)やIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)への対応が重要なテーマとなっている。J-SOX対応もIFRS対応もコスト要因にはなるが、競争力や効率性には直接的には結び付かない要件である。また、内部統制部門や経理部門に聞いても、IT統制やIFRSのIT対応について明確な要件が出ないことが多い。そのためIT部門は「一体どの程度やればいいのか?」ということで悩むことになる。
こういった、正解を見つけづらい事案は、他社事例を参考にするのが近道である。経験の豊富なコンサルタントから他社事例を引き出して、まずは同規模、同業の会社の事例を出発点として、自社のIT統制やIFRS対応を検討するのが合理的だ。J-SOX対応もIFRS対応も、過剰な対応はコスト増の要因になる。他社事例を出発点として議論することで、少なくとも過剰な対応は防止できるだろう。
筆者が日頃、接しているITベンダーのコンサルタントは、非常に勉強熱心で、J-SOXやIFRSについて真剣に取り組んでいる方が多い。事例の収集なども積極的に行っている。ERP導入においても、そういった専門家の力を借りるのが結果としてコスト抑制に役立つだろう。
撤退も立派な戦術
要件定義の結果、どうしても多額の追加費用が避けられない状況が判明した場合、どうすればよいであろうか? 筆者は、企業内でERP導入にリーダーとしてかかわった際、要件定義の結果を受けてERPの導入範囲を縮小する決断をしたことがある。具体的には、導入予定のモジュールのうち、1つを断念した。
経営層からは「それでは当社の経営課題が解消されず残ったままになる」といった声が出たが、根気強く説明し、結果として導入範囲の縮小を行った。そのまま進めた場合、当初考えていなかった大規模なアドオン開発が必要であることが判明し、多額の追加コストが必要になることや、要件が複雑化することで社内メンバーの関与工数が不足し、場合によってはプロジェクトが最後まで行き着かない可能性が高いと判断したからである。
こういった判断は非常に難しいし、勇気がいる。ましてや、その判断を経営層に納得してもらうことは非常に困難である。しかし、前に進むばかりではなく、撤退も立派な戦術の1つである。実際に、撤退の時期を見誤ったことが原因でプロジェクトが前にも後ろにも進めなくなり、結果として大きな損失を計上したケースは少なくない。IT部門は、ERP導入においては撤退も選択肢に入れた上でプロジェクトを推進すべきであろう。
コストは経営者の大きな関心事
第2回「経営者が納得するERP選定案の作り方」でも述べた通り、経営者はERP導入に関してコストの問題にとりわけ大きな関心を持っている。そういった経営者の期待に応えるためにも、ERP導入の推進役であるIT部門は、絶えずプロジェクト全体を見回し、コストを意識してERP導入を行わなければならない。IT部門が経営者から評価されなければIT投資も滞ることになる。その意味でも、コストを意識した導入というのは重要なことなのである。
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