多額の投資はいらない
スマートファクトリーの実現のために必要なこととは
スマートファクトリーはゼロから立ち上げる必要はない。既存の産業用機械をデジタルへ接続することで、工場の課題を解決できる可能性がある。今回はその方法やユースケースを紹介する。
古い工場でも新しい仕掛けを取り入れることはできる。
スマートファクトリーという言葉から、エンドツーエンドの最新ネットワーク接続テクノロジーを駆使する、新しいきらびやかな工場が思い浮かぶかもしれない。だが古い工場や設備でも、その中から厳選した機械に最新のテクノロジーを組み入れることで、プロセスに関する決断をデータに基づいて下せるようになる。この可能性が、「スマート」という言葉に込められている。言葉の意味を肝に銘じることで、スマートファクトリーのロードマップの作り方を理解できる。製造業におけるデジタル変革、自動化、情報共有のトレンドを注意深く観察してきた複数の専門家が、このスマートファクトリーのロードマップを支持している。
こうした専門家によると、工場がスマート化する上で、最新、最高、最大のテクノロジーは不要だという。そうではなく、あらゆるレベルでデジタルへの接続を実現することが、製造プロセスの状況を正確に把握するための賢明な1歩になる。この1歩が企業で最善の決断を下すことに役立つ。
「スマートファクトリーとは、要は製造を改善するスマートな決断を下すためにデータをつなげることだ」と話すのは、米国立標準技術研究所(NIST)でSmart Manufacturing Systems Test Bed部門の共同責任者を務めるトーマス・ヘドバーグ氏だ。ヘドバーグ氏は古い工場でも新しい仕掛けを取り入れることは可能だと提言する。
既存の技術と最新の技術を接続するインダストリー4.0
スマートファクトリーは比較的新しい言葉だが、これは「デジタルマニュファクチャリング」という考え方に結び付いている。ヘドバーグ氏によると、この言葉が使われたのは正確には40年以上前のことだという。当時製造業者は組み立て工程をデジタル化していた。「ムーアの法則により、コンピューティングが発展し、製造におけるデジタル活動が拡大した。製造はずっと前からデジタルだ。現在ではコンピューティング性能がさらに向上している」
Forrester Researchでシニアアナリストを務めるポール・ミラー氏によると、スマートファクトリー、デジタルマニュファクチャリング、さらには「インダストリー4.0」(第4次産業革命と同義)という言葉は互いに置き換えが可能だという。企業が好む言葉は、その企業のマーケティング戦略を反映しているのが一般的だと同氏は補足する。結局のところ名前そのものは問題ではない。重要なのは、工場のテクノロジーをネットワークでつなぐことだというのが同氏の主張だ。
コンサルティング企業Capgeminiのデビー・クルーピッツァー氏は、デジタルへの接続の実現によって起こる、最新の産業革命が企業を変革するという強い確信を持っている。その自信は「北米インダストリー4.0リード」という同氏の肩書にも表れている。クルーピッツァー氏によると、このインダストリー4.0で肝心なのは、「スマートファクトリー」と呼ばれる概念を実現することではないという。むしろ単純に既存の製造テクノロジーと新しい製造テクノロジーをネットワークで接続することに関する問題だと考えている。ここでいう新しい製造テクノロジーには、AI、自動化テクノロジー、IoT(モノのインターネット)などが該当する。
スマートファクトリーのロードマップで欠かせない強みの評価
選んだテクノロジーが何であれ、製造業者はまずスマートファクトリーのロードマップを用意して、全てをどのようにつなぐかを確認する必要がある。クルーピッツァー氏は、顧客からロードマップにIoTを含めたいと言われたら、そこで話し合いを中断させる。代わりにその顧客の現在の製造プロセスとテクノロジーの評価を支援することから始める。「まず『IoTに接続してみよう』ということは決してない。環境を確認してギャップを見つける必要がある。データの収集元を確認し、必要に応じてテクノロジーを当てはめなければならない」(クルーピッツァー氏)
テクノロジーは実現のための要素にすぎない。実際、最新テクノロジーの利用を目的として製造プロセスに加えても、問題を引き起こすだけだとクルーピッツァー氏は述べる。テクノロジーに合わせた適切なビジネス戦略を策定することがやはり欠かせない。
クルーピッツァー氏は顧客に対し、テクノロジー間の既存のデータフローを改善することで「既にある強みを強化する」よう助言する。「思ったほどにはネットワークによるつながりを作れないかもしれないが、たとえ小規模なつながりでも役に立つ領域が存在していることもある。目的に合わせてスマートファクトリーのロードマップを作成する。例えば企業が制御装置のプログラマブルロジックコントローラー(PLC)と、クラウドのデータを使用している場合がある。こうした機械の内部状況を知るために、これらの機械が故障しそうになるタイミングをどのように把握しているかを企業に尋ねる。何らかの手段で、予測を立てられるようになっているだろうか。スマートファクトリーでは、まずこうした予測を立てることを目標にする」
スマートファクトリーへの投資レベルが予算次第なのは明らかだ。テクノロジーはコストが高くつくことがある。製造業者が長年アップグレードの投資をほとんど、あるいは全くしていないにもかかわらず、インフラのデジタルへの接続を求めている。そのような場合は特に高額になるとクルーピッツァー氏は話す。「製造業者が既存のデータフローを効率化して、現在の製造プロセスを改善する方法について洞察を得たら、業務のデジタル化をさらに進める新しいテクノロジーに少しずつ投資できる。限られた予算内でこうしたことを徐々に実現する方法はある」と同氏は語る。
スマートファクトリーを古い機械に組み込む
Forrester Researchのミラー氏も同様に、スマート化を焦らないようにと企業に助言している。その主な理由は、多くの企業にはIoTや3Dプラットフォームなどの新しいテクノロジーとうまくかみ合わない古い製造設備があるためだ。古いテクノロジーを新しいテクノロジーと連携させることが、インダストリー4.0とデジタルマニュファクチャリングの実態だと同氏は述べる。
ミラー氏は次のように話す。「あらゆるものをネットワークに接続してデジタル化することについて、理論的な議論を行っている。一部の新しい工場では、全てをつなぐことができる。しかしほとんどの環境の産業設備は10年~30年前のものだ。これらの産業機械の多くは何らかの電気信号を出力しているが、それを最新の分析プラットフォームと接続するのは難しい取り組みになる」
製造業者が古い機械に対して取れる手段は、単純なセンサーを使ってそれを監視ソフトウェアに間接的に接続することだけという場合がある。ミラー氏は、そうした手段の賢明さを過小評価してはならないと述べる。「スマートファクトリーとは単純に、物事を計測するプロトタイプセンサーだといえるだろう。例えば、比較的安価な投資の1つとして、金属製のフライス盤にノイズや振動を計測するセンサーを取り付けるというものがある。これだけで、設備のメンテナンスが必要かどうかを検出できる」
製造業者はMunich Airportを参考にするとよい。同社は石油、ガス、水に関する機械のパフォーマンスを計測するための次善策を見つけ出した。これらの機械ではデジタルプラットフォームに接続できない、古くからのダイヤル式メーターが使用されていた。「Munich Airportは小型で安価なHuawei製のWebカメラをこれらのメーターの正面に配置した。このカメラからパターン認識Webサービスにフィードが送信され、ダイヤルがデジタルのメーター測定値に変換される。この変換後の測定値を分析すればよい」(ミラー氏)
当然全ての製造業社が、古い機械を新しいスマートテクノロジーと調和させることに頭を悩ませるわけではない。多くの大手企業にはスマートファクトリーをゼロから構築できる資本力がある。
Capgeminiによると、Audiは13億ドルをメキシコの新しいスマートファクトリーに投資したという。この工場は一元管理型の生産管理、スマートロジスティクス、電子品質管理プロセスを備える。一方General Electric(GE)は2億ドル以上をインドにある柔軟性に優れた「ブリリアントファクトリー」(Brilliant Factory)に投じた。これにより、同社は4つの子会社向けのさまざまな製品を同一拠点で製造できるようになる。
その他の企業だと、Teslaは「超自動化」されており、Ford Motor Companyはデジタルマニュファクチャリングにおいて「非常に成熟」し、Cisco Systemsには「全ての適切なことを行うスーパースマートファクトリー」があるとCapgeminiのクルーピッツァー氏は指摘する。
インダストリー4.0へのスマートファクトリーのロードマップはデータ次第
NISTは現実的な問題を解決するために、製造業者と連携している。こうした問題には、機械の修復方法のような小さな問題から、規模の大きい組織的な問題まである。例えば製品の設計や品質改善のための適切なデータを見つけることなどが挙げられる。企業がスマートファクトリーを作る際に妨げとなる障害を取り除くことも、NISTの取り組みの1つだとヘドバーグ氏は語る。NISTでは製造業者に対し、電卓よりも処理能力が低いというだけの理由で機械を廃棄しないよう助言している。電子光学システムをテストするために使われる何十年も前の3軸レートテーブルがあるとしよう。それを診断プログラムに接続すれば、そのレートテーブルからもたらされるデータを通じて、その部品のどこが消耗しているかを効率的に明示できる。製造業者は、動作が遅くなるように思えるという理由でレートテーブルを使うのを止めたくなることがあるかもしれない。それをスマート化すれば、まだ半分ほどの寿命が残されていることが明らかになることもあり得る。
Audiは13億ドルの投資によって自動車製造を最適化しようとしている。他のはるかに投資額の少ない製造業者が、必ずしも高い目標を目指す必要はない。ノウハウを蓄積して製品の作り方を改善するだけで十分なのだ。ヘドバーグ氏が話すように、デジタルマニュファクチャリングやスマートファクトリーは実際、一般的な印象よりも前から存在している。とはいえ、まだ成長過程にある。
「誰もまだ100%の全体像は把握していない。まだ知らないことがあるとさえいえるだろう。適切に扱ってはいるが、完璧ではない。大手企業にとってもまだ大きなハードルがある。例えば全てのデータが分散していることなどだ。企業がどれほどの資金をスマートファクトリーに投じたとしても、世界中のデータベースから得たデータをまとめることが必要となる。これはまだ難しい」(ヘドバーグ氏)
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