中堅・中小企業のためのマネージドVPN【前編】
IP-VPNとマネージドVPN、どちらを選ぶ?
今やオフィス間、あるいはリモートアクセス手段としてVPNは欠かせない存在となった。その一方で問題となるのは、導入や運用の難しさ。こうした問題を解決する切り札となるVPNサービスがある。
マネージドVPNが登場した訳
今、手軽に導入でき、運用の手間も掛からない「マネージドVPN」に企業の関心が集まっている。通常、VPN導入にはネットワーク設計や機器の選定、設置などの面倒な作業が発生するだけでなく、拠点間のVPN接続のための難解な設定作業を行う必要がある。専任の情報システム部門を持つ企業であれば問題はないが、専任管理者がいない中堅・中小企業にとって、VPNの導入は依然としてハードルが高い。
VPNの方式にはさまざまな種類があるが、拠点間の接続に広く利用されているのが「IPsec方式」だ。IPsecのセキュリティレベルは高く、発信元アドレスやデータ内容の真正性(改ざんされていないこと)、データ漏えいに対する保護機能などを持つ。今ではVPNの代名詞として利用されており、対応するVPNルータの種類も豊富だ。
だが、IPsec VPNを導入するには拠点ごとにVPNルータを購入し、それぞれ難しい設定を行う必要がある。また、IPsecではIKE(インターネット鍵交換)という仕組みを使って、相互認証とデータの暗号化を行うため、鍵の生成や認証作業、管理といった面倒な運用も発生する。しかも、IPsecの通信は通常ルータを越えることができない。NATによるIPアドレス/ポート番号の変換が行われた時点で、そのパケットが「改ざんされた」ものと見なされ、正常に通信できない。このためネットワーク構成の変更も必要になる。
このように、IPsecのハンドリングの難易度は高く、専任の管理者を持たない企業が自前で導入・運用を行うことは厳しい。初期導入だけではなく、セキュリティ機器の導入など、ネットワーク構成の変更、拠点の追加、廃止のたびに設定・構築が必要となり、多くの作業時間と費用が掛かる恐れもある。
また、ネットワーク障害が発生したらWANが長期間ダウンし、業務に深刻なダメージを与える危険もある。さらに、インターネットを介して通信を行うため、確保できる帯域が不明確になりがちだ。実際、VPNにはトラブルがつきものであり、自力で24時間、365日問題なく運用するのはかなり大変である。このような問題を解決し、容易にVPNを利用できるサービスが「マネージドVPN」だ。
マネージドVPNの具体的なメリット
マネージドVPNは、主にIPsecによるVPNの面倒な導入や設定作業、運用・保守の一切を事業者に任せることができるので、中堅・中小規模のオフィスでも容易に利用できるのが最大のメリットである。しかも、月々の利用料金も比較的安価だ。サービスによって料金は異なるが、本社などの拠点ではおおむね1万~5万円程度、サテライトオフィスでは数千円程度で済む。これらの料金は使用するVPNルータの種類によって異なり、それぞれの料金が拠点ごとに発生する。
具体的なサービス内容は事業者やサービス品目によって違いがあるが、主要なサービスのほとんどはVPNルータを事業者がレンタルする形式なので、数十万~数百万円という高価な機器を購入する必要がない。また、VPN機器の設置や配線、設定は専任業者が行うが、サービスによっては機器設置と配線をユーザーが行い、VPN機器の設定は保守センターからネットワーク経由(リモート)で行われるものもある。
また通信経路については、事業者網を使って行われる。例えば、NTT東西のフレッツ・サービス(Bフレッツ、フレッツ・ADSLなど)をアクセス回線として利用している場合は、NTTの地域IP網(フレッツ網)を通じて事業者網に接続し、接続先の拠点が利用している事業者網を経てVPN接続する。IPsecは拠点間のエンド・ツー・エンドの接続形態になるが、このVPN経路を複数作成することによって、本社と支店、サテライトオフィスといった、複数の拠点間を接続することも可能だ。
またVPN方式について、NTTコミュニケーションズの「OCNビジネスパックVPN」のように「SSL VPN方式」によるVPNサービスを選べるものもある。SSL VPNはWebベースの暗号化と認証で広く使われているSSL(Secure Socket Layer)を用いたVPN方式で、IPsecのようなルータ(NAT)越えの問題も発生せず、本社などの拠点にSSL VPN装置を設置するだけで利用できる。クライアント側にもVPNソフト(認証用サプリカント)をインストールする必要がないので、ノートPCやスマートフォンでの運用も容易だ。
ただし、SSL VPNはHTTPとSSLの組み合わせで成り立っているので、これらに対応しないアプリケーションは利用できない。主にInternet ExplorerなどのWebブラウザインタフェースでグループウェア(社内イントラネット)やメールなどにリモートアクセスするための手段として使われることが多い。拠点間接続はIPsecで行い、リモートアクセス用に別途SSL VPNを用いる、といった運用も可能だ。
IP-VPN並みの品質は得られるのか?
マネージドVPNサービスは、いわば「インターネットVPN」の導入・運用を丸ごと事業者にお任せするようなものだ。アクセス回線は一般的なインターネットアクセス用の回線を利用するため、通信速度はベストエフォートが基本で帯域保証はない。これがIP-VPNと大きく異なる点だ。また、本社-支店、支店-支店など、すべての拠点をフルメッシュで接続するには特別な機器と仕組みが必要で、拠点ごとにこれらの設定が必要だ。
一方IP-VPNは、通信キャリアの専用網内でMPLS(Multi Protocol Label Switching)という仕組みを使って仮想閉域網を構築する(※)。網上の各拠点とのゲートウェイには「ラベルエッジルータ」というルータが設置され、拠点から入ってきたパケットにラベルを付けることでほかのユーザーのパケットとは完全に区別されるため、ネットワークの閉塞(へいそく)性は高い。また、帯域はSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証契約)で保証されており、QoS(Quality of Service)による帯域制御も可能だ。
※ MPLSはパケットにあて先アドレスに対応したラベルを付けて高速転送する技術。MPLSによる論理的な仮想ネットワークをMPLS網と呼ぶこともある。
このようにIP-VPNのスペックは専用線に近く、遅延が許されないミッションクリティカルな基幹システムの運用や、音声通信、国内や海外との多数の拠点間接続などに適している。その分、月額のランニングコストもマネージドVPNよりもはるかに高い。これは、IP-VPNのスペックを生かすために、広域イーサネットサービスなど利用帯域の安定した足回り回線を利用する必要があるからだ。
ちなみに、広域イーサネットの月額料金はサービス品目によって異なるが、おおむね数万円~数十万円程度を見積もっておく必要がある。もちろん、フレッツ網などのアクセス回線でIP-VPNに接続することも可能だが、フレッツ網自体がベストエフォートなサービスであるため、IP-VPNの恩恵がフルに生かされない。このように、IP-VPNとマネージドVPNとを比べると、価格相応ともいえるスペックの違いがあることが分かる。
| 種類 | VPNの種類 | 主な用途 | 接続形態 | 帯域保証 | 運用の難易度 | 月額コスト |
|---|---|---|---|---|---|---|
| インターネットVPN(自前で構築) | IPsec VPN、SSL VPNなど | 拠点間の接続、リモートアクセス | エンド・ツー・エンドが基本 | なし | 高い | 最も安くできる(構成や利用機器によって異なる) |
| マネージドVPN | IPsec VPN | 拠点間の接続 | エンド・ツー・エンドが基本 (ただしサービスによってはフルメッシュ構成が可能) |
なし | 低い | 比較的安い |
| マネージドVPN | SSL VPN | リモートアクセス | エンド・ツー・エンドが基本 | なし | 低い | 比較的安い |
| IP-VPN | MPLS | 拠点間の接続 | フルメッシュネットワーク | あり | 低い | 比較的高い |
マネージドVPNが適する利用シーン
このようにマネージドVPNは、IP-VPNのような高品質なWANとして利用することは難しいが、数十、数百にも及ぶ多拠点をフルメッシュで接続したり、24時間365日、常に安定した帯域が不可欠、などの高いスペックを必要としない場合は、中堅・中小企業にとって最良の選択肢となるはずだ。
例えば、本社や営業所といった数カ所の拠点を接続してファイルのやりとりを行ったり、本社に設置されたグループウェアに地方拠点からアクセスする、あるいは社内メールサーバを利用するといった一般的な用途であれば支障なく使えるはずだ。また、サテライトオフィスや在宅勤務者(SOHO)などの小規模拠点との接続にも向いている。オフィスの足回りに100Mbpsの光回線を利用している場合、WANの平均的な帯域は20M~40Mbps程度を見込める。遠隔バックアップや音声・映像データの利用など、大容量のデータを常時転送するのでなければ、帯域不足になる心配は少ないだろう。
なお、IPsecによるマネージドVPNは、拠点ごとにVPN機器の設置が必要であり、機器1台ごとに利用料金が掛かる。数カ所の拠点を接続する分にはリーズナブルに運用できるが、拠点数が増えればそれだけ月額コストも膨らむ。接続拠点数が多いとトータルでかなりの金額になってしまうことに注意しよう。
また、本社など主要拠点にサーバを置き、ほかの拠点からのアクセスを集中させるような運用形態では、WANからのトラフィックがLANの帯域を圧迫することもある。事前にしっかりとネットワーク設計を実施してもらい、できるだけ正確にトラフィックを見積もることが大切だ。
| 事業者 | サービス名 | VPN方式 | 回線二重化 | 死活監視 | 月額基本料金(1拠点当たり) |
|---|---|---|---|---|---|
| IIJ | IIJマネージドVPN PROサービス | IPsec | ○ | あり | 使用する機器、ネットワーク構成によって異なる |
| NTTコミュニケーションズ | OCNビジネスパックVPN | IPsec/SSL VPN | ○(ISDN回線のみ) | あり | 3360~12万225円 |
| NTTPCコミュニケーションズ | インターネットVPNソリューション | IPsec | ○ | あり | 6825~7350円 |
| KDDI | インターネットVPNパッケージ | IPsec | × | あり | 4305~11万7600円 |
| ソフトバンクテレコム | マネージドVPN | IPsec | × | なし | 使用する機器、ネットワーク構成によって異なる |
| 富士通 | FENICSビジネスVPNサービス | IPsec | × | なし(センターからのリモート設定は可能) | 3000~8000円 |
後編では、代表的なマネージドVPNサービスである、NTTコミュニケーションズの「OCNビジネスパックVPN」、ソフトバンクテレコムの「ULTINA Managed VPN」、IIJの「IIJマネージドVPN PROサービス」をピックアップし、これらのサービス内容の詳細について解説を進めていく。
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