バックアップ回線は企業の生命線【第2回】
バックアップ回線選びの基本は「普段も障害時も活用」
バックアップ回線は「眠っている回線」というイメージが強いが、各キャリアでは通常時も情報系トラフィックの伝送路として利活用する動きにある。バックアップ回線を有効に生かせる各社のサービスを紹介する。
前回の記事「第二の回線で作る『止まらないネットワーク』」は、ネットワーク継続性の観点から「止まらないネットワーク」を構築する必要性や、バックアップ回線による耐障害対策の基本について説明した。最近では、企業ニーズに照準を合わせた有用なバックアップ回線用サービスが、大手通信事業者のメニューとして出そろってきた。以下、NTTコミュニケーションズ、NTT東西、KDDI、ソフトバンクテレコムの4社について、具体的なサービスを見ていこう。
NTTコミュニケーションズ:エントリーVPNを有効活用
NTTコミュニケーションズが提供するWANサービスには、広域イーサネットの「e-VLAN」、標準的なIP-VPNの「Arcstar IP-VPN」、安価なブロードバンド回線を使用したエントリーVPNの「Group-VPN」、OCN回線を利用したインターネットVPNの「OCN VPN」などがある。これらのサービスを必要に応じて組み合わせることで、信頼性とコストのバランスを重視したバックアップソリューションを実現することが可能だ。
前回取り上げた「キャリアダイバシティ」は、ネットワークの信頼性を高めるために、異なる通信事業者のWANサービスを組み合わせて物理的に異なる経路でネットワークを構成する方法である。この方法はバックアップ回線の信頼性を高められる一方で、運用管理が一元化できず、余分なコストが掛かってしまうなどの課題があった。そこで、これらの課題を解決するために、大手通信事業者1社だけでもキャリアダイバシティ相当の信頼性が得られるサービスも用意されている。例えば、NTTコミュニケーションズのサービスであれば、Arcstar IP-VPN網と、旧CWC(クロスウェイブコミュニケーションズ)のバックボーンを持つe-VLANを組み合わせることで、信頼性の高いネットワークを構築できる。
さらに、コスト面や効率面を重視したい場合にお勧めのサービスが「Dual Active VPN」だ。バックアップ回線というと、普段は眠っている無駄な回線というイメージが強い。しかし、このサービスはバックアップ専用の回線を導入するのではなく、トラフィックの性質に応じて、高信頼のVPNと低コストのエントリーVPNとを使い分ける。2つのVPNサービスを常時アクティブに稼働させることで、緊急時にバックアップ回線となるエントリーVPNも有効利用しようというアイデアだ。
具体的には、信頼性や品質が要求される基幹系通信にはIP-VPNとしてArcstar IP-VPNを、低コストで大容量を重視する情報系通信にはエントリーVPNのGroup-VPNを利用するという形態を取っている。エントリーVPNの詳細については、特集記事「中堅・中小企業に効くエントリーVPN導入」で解説しているので割愛するが、月額料金が1契約当たり数千円~2万円と安価なランニングコストで、IP-VPNのように事業者網を利用して拠点間を安全に接続できる。この回線サービスを利用して両系統をマネージドルータで同時運用し、Arcstar IP-VPNが利用できなくなった際に、基幹系通信を自動的に情報系通信側のGroup-VPNへ切り替えてバックアップする仕組みだ(図1)。ネットワーク全体の信頼性を高めながら帯域を有効活用できる一石二鳥のソリューションといえる。
また、Group-VPNのバックアップメニューとして「Group-VPN Plus」を選択すれば、足回り回線の二重化も可能だ。このサービスは、Group-VPNを利用中に、足回りとなるフレッツ網などのメイン回線に障害が発生すると、バックアップ回線に自動的に切り替えてくれるというもの。バックアップへの切り替え機能を備えたルータをレンタルで提供し、運用・保守までサポートしている。選択できる回線は、フレッツ・ISDN、ACCA ADSLなどがあり、拠点当たり月額2万円程度からと、こちらも安価かつ容易に冗長化を図れる。足回りにACCA ADSLを利用すればキャリア分散にもなり、さらに信頼性も高まるだろう。この場合もNTTコミュニケーションズがすべて窓口として一括して対応してくれる。
さらにGroup-VPN Plusは「デュアルセッションタイプ」もサポートしている。これは、Group-VPN網とNTT東日本・西日本のフレッツ網との接続ポイントが通信断となった際に、あらかじめ設定してある別の常時PPPoE(PPP over Ethernet)セッションに自動的に切り替えることでバックアップ対応が可能になるサービスだ。この場合は、アクセス回線はフレッツ回線を1回線だけ用意すればよい。ただし、当然ながら回線自体は二重化されているわけでないため、同じ地域IP網で発生した障害には対処できないことを考慮しておきたい。
NTT東西:フレッツ・グループをバックアップに
NTT東西の場合も、前述のGroup-VPNのような安価なブロードバンド回線と閉域IP網を組み合わせたエントリーVPNのメニューが人気だ。バックアップ回線の構築に利用できるサービスとして、NTT東日本は「フレッツ・グループアクセス プロ」「フレッツ・グループアクセス ライト」、NTT西日本は「フレッツ・グループ ベーシックメニュー」「フレッツ・グループ ビジネスメニュー」を用意している。これらはフレッツアクセス回線の利用者同士でグループを構成し、グループ内通信を可能にするVPNサービスだ。
前述のDual Active VPNと同様に、フレッツ・グループアクセスによって、企業の基幹系と情報系のデータ網を分離することも可能だ。例えば、基幹系データ用には信頼性の高い広域イーサネットサービスとして「Business Ether」を使用し、情報系のメイン回線を分散してフレッツ・グループを使う。ここで、もし基幹系の回線が通信断になっても、情報系のフレッツ・グループがバックアップ回線として切り替わる構成にすれば、コストと効率面の問題を解決できるわけだ(図2)。
フレッツ・グループアクセスやフレッツ・グループは1契約当たり5000円以下(10拠点まで、インターネットアクセス費用は別途必要)という安さが特徴だが、事業者網(地域IP網)内の拠点間プライベートアクセス手段の提供が主となり、ルータや拠点同士の接続設定などはユーザー側で行う必要がある。機器の選択やネットワーク設計、セキュリティ設計の自由度は高いが、Group-VPNのようにルータのレンタルや、運用・保守まではサポートしていない点は頭にとどめておこう。
KDDI:広域イーサで二重化、運用部隊も分離
KDDIでも、NTTコミュニケーションズと同様にキャリアダイバシティ相当の環境を提供するサービスがある。ダイバシティサポートプログラムの「デュアルネットワーク」がそれだ。こちらもKDDIが保有する物理的に異なる収容局、バックボーンネットワーク、運用部隊を組み合わせることで、キャリア分散レベルの信頼性を保証する。例えば、同社の広域イーサネットの「KDDI Powered Ethernet」と「KDDI Ether-VPN」を組み合わせれば、キャリアダイバシティと同様の環境を構築できる(図3)。
さらにKDDI Powered Ethernetのオプションとして、アクセス回線を二重化する「デュアルアクセス」を併用することも可能だ。これは、広域イーサネット網内のエッジスイッチから利用者宅内に置かれたSPU(Select Port Unit)と呼ばれる回線切り替え装置までを二重化するもの。物理的には1本のケーブルだが、同じケーブル束に含まれる未使用の心線をバックアップ用として使う。回線が2本になるだけでなく、エッジスイッチまでが二重化される。故障時にはSPUがそれを感知し、自動的にメイン回線からバックアップ回線へ切り替える。デュアルアクセスの料金は回線速度によって変動するが、おおむねシングル構成で利用する場合の1.2倍程度に抑えられる。うまく利用すれば、投資対効果の大きいネットワークを構築できるだろう。
一般的にはバックアップ回線を用意しても、障害時に発生するルータの経路切り替え作業によって、数分程度の復旧時間が必要になるケースが多い。しかし、このオプションを利用すれば、わずか2、3秒程度にまで復旧時間を短縮できる。アクセス区間のホットスタンバイ化により、万が一の故障でも回線を自動的に切り替えられるため、エンド・ツー・エンドでネットワークの信頼性を向上できる。
また、広域イーサネット同士による二重化だけでなく、IP-VPNと広域イーサネットなどの異種ネットワークによる冗長構成も考えられる(図4)。例えば、前述のKDDI Powered Ethernetなどの広帯域VPNをメインで利用し、そのバックアップとして「KDDI IP-VPN ブロードバンドValueパック」を追加するといったケースだ。
KDDI IP-VPN ブロードバンドValue パックは、中堅企業のバックアップ用として最適なエントリーVPNサービスだ。企業向けデータ通信サービス「KDDI IP-VPNサービス」のアクセス回線に、NTT東日本・NTT西日本の「Bフレッツ」や「フレッツ・ADSL」を利用することで、ルータのレンタル料を含めて1回線当たり月額7000円台から導入できる。拠点に設置するルータもレンタルで提供され、設定をKDDIが行ってくれるので、手間いらずでスムーズな導入が可能になる。
さらにKDDI IP-VPN ブロードバンドValueパックとISDNを組み合わせた「ISDNバックアップII」もある。拠点側だけでなく、センター拠点の障害時にもISDNへ自動的に回線を切り替え、双方向のバックアップを実現する。
ソフトバンクテレコム:IP-VPNとインターネットVPNを分散運用
ソフトバンクテレコムは、同社のブランド「ULTINAシリーズ」として、「ULTINA IP-VPN」「ULTINA Wide Ethernet」「ULTINA Managed Ether」「ULTINA Managed VPN」という4種のWANサービスを用意し、ビジネスニーズに幅広く対応している。これらのうち、バックアップ用途としてお勧めなのは、インターネットVPNの設計・導入・運用をワンストップで提供するマネージド型インターネットVPNサービス「ULTINA IP-VPNマネージドCPE」だろう。
このサービスは、ULTINA IP-VPN回線とネットワーク機器をバンドルで提供し、セキュアで柔軟な広帯域WAN回線を構築できるもので、2タイプのバックアップオプション(分散あり/分散なし)が用意されている。NTTコミュニケーションズやKDDIのサービスと同様に、バックアップ回線を有効利用する分散構成が可能だ。例えば分散ありのタイプでは、基幹系にULTINA IP-VPN、情報系にインターネットVPNを採用し、双方のネットワークの分散運用を行う(図5)。基幹系に障害が起きた場合には、情報系のインターネットVPN側へと切り替える。また、通常時は基幹系と情報系を分散せず、メイン回線としてULTINA IP-VPNのみで運用し、ネットワーク障害時にバックアップ回線へ切り替える構成も選択できる。ただし、バックアップ時の効率面を考慮するならば、前者の方がよいだろう。
さらに、ネットワーク監視サービスも用意されており、メイン回線とサブ回線の状態を能動的に監視することも可能である。ルータだけでなく、ULTINA IP-VPNに接続されたユーザーのネットワーク機器を常時監視し、トラブル発生時には専門スタッフが迅速に対応してくれる。運用管理コストの削減と、障害対応時の負担軽減を同時に実現するサービスだ。
このように、大手通信事業者のメニューには有用なバックアップ回線用のサービスが用意されている。特に安価なエントリーVPNを利用したバックアップ回線の構築は、中堅・中小企業にメリットがあるだろう。基幹系と情報系とで分散して同時運用し、基幹系に障害が起きた際に、情報系のエントリーVPNをそのバックアップ用途に使用すれば、回線を眠らせずに有効利用できる。エントリーVPNは、専用線並みの回線品質と閉塞性をシビアに求めなければ、バックアップ回線としても十分に活用できるはずだ。ぜひ一度、こうしたリーズナブルなバックアップ回線の導入を検討してみてはいかがだろうか。
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