製造業ITの動脈「MES」を理解する【第2回】
事件は製造現場で起こっている──「MESの11機能」とは
MES(製造実行システム)は、具体的にどのような機能を提供するシステムなのか? 俗に「MESの11機能」と呼ばれるMESのさまざまな機能を、工場の現場における実際の作業と照らし合わせながら解説する。
前回「MES(製造実行システム)を理解する鍵は『工場とコンビニの共通点』」でも述べた通り、MESは工場の製造現場で使われる情報システムである。そこで今回は、ある仮想の製造現場での例を示しながら、MESが備える機能を1つ1つ見ていきたいと思う。
MESの11機能
MESの標準化団体であるMESAインターナショナル(以下、MESA)では、MESの機能として以下の11個を挙げている。
- 生産資源の配分と監視
- 作業のスケジューリング
- 差し立て・製造指示
- 仕様・文書管理
- データ収集
- 作業者管理
- 製品品質管理
- プロセス管理(工程品質管理)
- 設備の保守・保全管理
- 製品の追跡と製品体系の管理
- 実績分析
ちなみに前回説明した、コンビニにおけるPOSに相当するMESの機能「POP」(Point Of Production:生産時点情報管理)は、上記11機能の中の「データ収集」機能に分類される。MESAによれば、該当する情報システムがこれら11の機能のうちの一部でも持っていれば、それはMESと呼んでよいとされている。今回はこの11機能を順次紹介していくが、それぞれの機能の詳細な説明はMESの11の機能を参照されたい。
木製いすの製造工場の仮想事例
ではMESの11機能を、ダイニングチェアのような木製のいすを製造する工場の仮想事例を用いて説明していこう。仮にその工場を運営する会社を「テックチェア株式会社」と名付ける。
テックチェア株式会社の工場では、木製いすは以下の加工・組み立て工程によって製造されている(※1)。
※1 必ずしも現実の木製いすの製造工程を忠実に表しているものではない。
- 切断
- 木工(旋盤、穴開け)
- 組み立て
- 塗装(ニスがけ)
- 座面取り付け
最初に、材料の木材を各部品の大きさに合わせて切断する(「切断」工程)。次に旋盤加工で、切断された部品を削って形を作り、組み立て時に必要な穴を開ける(「木工」工程)。続いて部品を組み立て、木製部分のいすの形を完成される(「組み立て」工程)。こうして組み上がったいすにニスがけを行い、必要に応じて色塗装をする(「塗装」工程)。最後に布製の座面を取り付けていすが完成する(「座面取り付け」工程)。
テックチェア株式会社の工場には、木工用の旋盤・穴開け加工を行う機械(製造設備)が3種類、合計5台あり、色塗装のライン(塗装槽にいすを浸して塗装する)が2ラインあるとしよう。製造現場全体では30人の作業員が勤務している。また、ダイニングチェアやリビングチェアなど、さまざまな種類(品番)のいすが日々製造されている。
材料の木材は、十分に乾燥した状態になってから切断工程に入る。塗装後は丸一日乾燥させる必要があるため、切断工程から完成までには3、4日程度の日数がかかっている(生産リードタイム)。
製造に関連する各部門
MESが活躍するのは主として実際の製造が始まってからだが、モノ作りは製造部門だけで成り立っているわけではない。製造に関連するそれ以外の業務部門についてここで述べておきたい。
| 業務部門 | 業務内容 |
|---|---|
| 開発・設計部門 | いすのデザインを考え、図面を描く |
| 生産技術部門 | 設計図面に従って加工方法を考案し、必要な加工設備を準備する |
| 営業部門 | 家具店への売り込みを行い、工場に生産の注文や販売計画を伝える |
| 生産管理部門 | 営業部門からの生産受注を受け、受注と販売計画を基に生産計画を立案し、納期に間に合うようにする |
| 調達部門(購買部門) | 製造に必要な良質な木材や部品を安く買えるようにサプライヤーとの交渉を行い、製造日に間に合うように発注する |
テックチェア株式会社の製造部門は、生産管理部門から出された生産計画に従い、調達部門により購入された材料・部品と、生産技術部門によって準備された加工機械を使って、実際にいすの製造(加工・組み立て)を行っている。
加工作業の指示
テックチェア株式会社の生産管理部門では、日ごとに製造を開始するいすの品番、製造数量、完成納期が書かれた4週間分の生産計画を立案し、製造部門に手渡す。例えば、「10月1日には品番:nnnn123のダイニングチェアを12脚、品番:nnnn135のリビングチェアを10脚……品番:nnnn168を8脚、製造に取り掛かるように」といった内容になっている。このような生産計画は、初工程(切断工程)への投入日を定めたものなので、「投入計画」と呼ばれる。
製造部門では、この生産計画に基づいて旋盤など木工機械の空き状況や負荷を予測し、段取り換え(※2)時間のムダを少なくするように考慮しながら、指定された完成納期に間に合うように各工程の加工作業順を決める。こうした「スケジューリング」と呼ばれる作業を支援するのが、MESの「作業のスケジューリング」機能である。なお、製造現場で作成されたスケジュールは「小日程計画」と呼ばれる。
※2 段取り換えとは、別の品番を作る際に必要な、機械のもろもろの準備作業。テックチェア株式会社におけるいす製造の例でいえば、塗料を入れた槽にいすを浸して塗装するラインでは、塗装色が変わると槽内の塗料を入れ替える作業を行う必要がある。
小日程計画に基づいて加工は進められるが、その過程では各工程の設備1つ1つで次に誰がどのいすの加工を行うかの指示が行われる(差し立て)。また、旋盤・穴開け機械に対しては、加工を制御するプログラム番号を指定して呼び出す必要があり、塗装ラインでは塗料に応じて温度や塗料の配合、槽に浸す時間などを現場に伝えなければならない。これらを支援するのがMESの「差し立て・製造指示」機能である。
加工作業を支援する各種機能
前記の差し立て・製造指示に基づいて実際に加工が実施されるが、例えばいすの組み立て工程であれば完成品の姿を確認するために設計図面を参照したり、組み立ての標準手順を記載した手順書(SOP:Standard Operation Procedure)が用いられたりする。木工や塗装工程では、作業の注意事項や設備の詳細な設定方法を書いた作業指示書などが使われる。製造作業の結果は、日報に記録されることも多い。こうした各種の製造仕様や文書類を管理するのが、MESの「仕様・文書管理」機能である。
一方、製造加工作業を実施した結果、その実績を報告するのが「データ収集」の機能だ。誰が、いつ、どの装置で、どの材料や部品を使って、どのような加工をしたかを報告するPOPに加えて、加工結果の測定データを収集することもある。
加工は、完全自動で人手を煩わせずに実施する場合もあるが、通常は現場の作業者によって行われる。テックチェア株式会社の製造現場で働く30人の作業員がなるべく効率よく作業できるよう、作業の割り当てや勤怠管理を考えていかなければならない。ここではMESの「作業者管理」の機能が役立つ。
また、加工作業を安定して実施するためには、不良品を発生させないよう加工プロセスを監視・制御する仕組みが求められる。例えば、木工旋盤・穴開けの精度を保証するために、設備加工のプロセスが工程設計通りに製造仕様を満たす結果を出せるように、監視・制御する必要がある。これを行うのがMESの「プロセス管理」の機能である。
品質・トレーサビリティの確保
製造する木製いす(製品)の品質を管理するのが「製品品質管理」の機能、そして「それぞれのいすの製作ロットがどのように作られたのか」というトレーサビリティを確保するのが「製品の追跡と製品体系の管理」機能だ。
製造のトレーサビリティでは、よく「4M」という用語が用いられる。どの作業者(Man)が各工程の加工に携わったのか、3台ある同じ旋盤機械の中でどの製造設備(Machine)が加工に使われたのか、どの材料・部品(Material)が製造に使われたのか、そしてどのような加工方法(Method)が実施されたのか、という4つの“M”がトレーサビリティの収集項目となる。製品の製造履歴が、製造ロット番号を指定することによりトレーサビリティ情報として参照できれば、ある範囲の材料ロットや製造設備に問題があると分かった場合に、該当するロットのいすをすぐに特定することができる。
生産資源・製造設備の管理
テックチェア株式会社の工場でいえば、木工機械などの製造設備、木材止め具やドリルなどの治具、木工機械で使う潤滑油などの消耗品など、各種の生産資源がある。これらの生産資源の状況を監視し、必要なときにきちんと製造で使えるようにするのが、「生産資源の配分と監視」の機能である。
また、製造設備は常に良い品質を保つことができるように、一定のルールの下に点検・保守が行われている。設備の不具合が発生すれば、修理・調整が必要となる。これらの活動をITで支援するのが、MESの「設備の保守・保全管理」機能である。
管理と改善につなげる
製造現場では「QCD」という言葉がよく用いられる。これは、「Quality(品質)」「Cost(原価)」「Delivery(納期)」のそれぞれの頭文字を取ったもので、より安く、より品質の高い製品を、求められる時期に製造するのが工場の役目というわけだ。
製造現場では、望まれるQCDレベルを維持管理し、さらに改善していくことが求められているが、そのためにはまず現状を把握することが先決だ。実績情報の見える化を促進し、分析できるようにする。それがMESの提供する「実績分析」の機能である。
MESの11機能の多くは紙と鉛筆でも実現できる?
今回紹介した、製造現場への指示や実績収集などの11機能の大半は、実は情報システムを使わずとも、紙と鉛筆で実施できることも多い。その場合は、材料や部品、仕掛品に製造指示を記載した伝票を付けたり、紙の製造日報を通じて製造の実績や設備の状況を収集することになる。事実、製造特性によってはMESを導入するより紙と鉛筆の運用の方が適している場合もあるのだ。
そこで次回は、紙と鉛筆の代わりにMESを使うと何がどう違うのか、MESが誕生したそもそもの背景について説明したいと思う。
<筆者紹介>
永井道裕
各種業界において工場の情報システム構築に携わった後、現在コンサルタントとして活動中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
9
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー