グローバル展開を見据えた小売業のSCM【第2回】
「持たざる経営」をうまく活用した物流コストと在庫の最適化方法
小売業がグローバル展開を行う際には、拠点配置、在庫配置、輸配送ネットワークを同時に考えていく必要がある。そのため、物流コストと在庫を最適化するためには外部連携の利用を積極的に考えていくことが重要だ。
物流コストの削減、商品・サービスごとに掛かる物流コストの明確化、在庫削減・適正化。筆者はコンサルティングの現場を通して、最近これらの課題解決がテーマのプロジェクトの引き合いが急増していることを実感している。その背景として、あらゆる面で変化の激しい今日は市場動向に応じた形のロジスティクスが求められており、その中でも特に物流コストと在庫に関しては、変動費化の要素が強く期待されていると思われる。確かに現在のような不景気では、効果的かつ即効性のあるコスト削減施策がトレンドとなる。
また、在庫についてはこれだけ商品の改廃が激しくなると、複数の課題が混在してくる。店舗での棚割りの最適化、物流センターでの在庫適正化、店舗で売りたい商品と物流センターに滞留している商品の不一致、店舗や物流センターの在庫偏在、物流センター間の横持ち(寄り道工程)など、一筋縄では解決できない事態が複数生じ、どこから手を付ければよいか分からないという声をよく聞く。しかし、欠品と売上機会損失のどちらも減らして商品の回転率を上げることは小売業の使命であり、利益向上のために避けては通れない道だ。
これらに加えて、海外で生産もしくは販売をしている場合はさらに複雑になる。文化やコミュケーションという目に見えない部分はもちろん、輸送リードタイムの問題が加わると、在庫切れあるいは在庫過多、緊急輸配送コストの増大などの問題も生じてくる。その対応が定常化しているという小売業者もしばしば見られる。
今回はこのように旬の話題になることが多い、物流コストの削減と在庫最適化の2つのテーマについて取り上げる。
物流コスト最適化の第一歩は構成要素の分解から
まずは物流コストから考えてみよう。
課題として「物流コストの明確化」があった場合、目的には業務改善・物流コスト削減がまず挙がる。その目的を遂行するためのアクションは、商品別・顧客(店舗・店舗タイプ)別、あるいはサービス別といった物流費の把握や、煩雑な物流条件下での外部業者に対する見積もりの基準化になる。
これらに求められる共通項は、「物流コストの分解作業を避けて通れない」ということだ。もし物流費が支払い物流費だけでしか見えないのであれば、どこを改善するか見当を付けることも不可能だ。物流コストの分解では、例えば、輸送、包装、荷役、保管、流通加工、情報流通の機能別費用ぐらいは最低限押さえておきたい(※)。
(※)これらは1997年に旧運輸省が策定した「物流コスト算定統一基準」に基づくものであり、他社との比較を行う場合の基準になる。
しかし、実際の改革を行う場合はそれだけでは十分とはいえず、活動原価の要素を追加する必要がある。そのためにはABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)分析で実測データや一定の配賦基準を使って分解していく。これにより、もうかっていると思っていた商品に想定以上にコストが掛かっていたため実際には利益が出ていなかったり、あるサービスに想定以上のコストが掛かっており、取引先との条件見直しが必要だったりといったことが判明する。
もちろんそれが分かったとしても、実際には高コストで利益の出ない商品・サービスをすぐに廃止するわけにはいかない場合もあるだろう。ただ、個々の状況によってふさわしい改革方法を考えるべきポイントを絞れることは確かだ。逆にこのようなデータに基づく数値がないと、取引先に対して価格低減をお願いするにも説得根拠の乏しい提案になる。
ここで注意しなければならないことは、活動原価の実測方法と配賦基準だ。実測方法については、代表例を摘出して作業時間をタイムウオッチで計る方式や、情報システムを利用してリアルタイムにデータ蓄積を自動的に行う方式、あるいはその混合型がある。
情報システム利用の一例として、倉庫作業の領域ではWMS(Warehouse Management System:在庫管理システム)が有効だ。無線端末を利用して作業の開始と終了を入力させることで、自動的に作業生産性データを入手し、労働生産性を管理する機能が備わっているソフトウェアパッケージもある。ただ、どんな場合においても実測データだけですべては埋めきれず、配賦基準を任意に決めていく科目は出てくる。ここについては、専門家の意見や書籍などを参考にし、最後は社内関係者が納得する基準を作ることが必要になる。
在庫最適化のための柔軟な“構え”を取る
次に在庫最適化のテーマに移ろう。本連載の第1回「SCMの計画立案と実績管理は『顧客ニーズ』から始めよう」で述べたように、在庫最適化については「計画立案と実績管理による需給計画」の結果として表れる部分が大半だ。今回は、その需給計画という観点ではなく、拠点配置、在庫配置という物流のプラットフォーム(構え)の観点から考察する。
小売業の在庫ストックポイントとしては、まず店舗は当然として、その店舗に納品するためのDistribution Center(以下、DC)と呼ばれるような物流センターがある。DCの運営方法は各社によって異なるが、自社運営の場合や、卸売業者や3PL(3rd Party Logistics)に委託している場合、もしくはその両方が混在している場合があるだろう。いずれにせよ、DCは多いほど店舗との配送距離は短くなるため、サービス向上と配送費の軽減が図れる。一方で、DCが集約され少なくなると、店舗への配送費は上がるが、在庫削減やDCの運営費あるいは委託費は軽減できる。また、DCが自社所有の場合、土地建物の処分やほかの利用方法も考えられる。ちなみに昨今のDC運営のトレンドは、できる限りの集約化である。もちろんサービスレベルが低下しないよう、計画的な在庫配置やあらかじめの配送計画策定が前提になる。
在庫配置の工夫としては、すべてのDCで全商品ラインアップをそろえるのでなく、動きが鈍い商品を集約することが在庫削減の観点で極めて有効だ。この場合、配送面では1店舗に対して複数DCが出荷元になる可能性がある。店舗の受け入れを考えた場合、クロスドックなどの配送の集約化を考えていく必要がある。つまり拠点再編は、在庫配置、輸配送ネットワークと合わせて考えていかなくてはならない。ただそうなると、複雑な状況の最適化を求めるには限界が出てきそうだ。このあたりの最適化を精密に行う場合は、さまざまな前提条件を入力してシミュレーションできるツールが多く出てきているので、それを活用することになるだろう。これはインフラ基盤であり、まさにロジスティクス戦略策定の中心部分だ。実運用は委託業者に任せたとしても、戦略部分の要については荷主である小売業自体が定期的に見直していくことが必須と考える。
拠点配置の最適化方法
- 「輸送費+拠点固定費」を最小にする拠点数と位置を決定
- デジタル道路地図を用いた輸送費、固定費の正確なシミュレーション
- 物流ネットワーク、輸送モデルの改善(最適化)
- 物流コストの削減、物流サービスレベル向上のバランス
実現化に向けてのアクションを即実行する
物流コスト削減、在庫最適化ともに、実際のアクションを取る際にまず必要なのは、全体を見据えた構想策定だ。多くは社内外の専門家を参画させプロジェクト化して、この構想策定を作り上げることになる。そして、目的・目標を具体的に定めて全体の実行計画を作る。ここまでを3、4カ月間で成し遂げる必要がある。構想策定だけでは実際の効果は享受できないため、この期間が長引くことに付加価値はなく、プロジェクトメンバーのモチベーションも落ちてくる。もし、規模が大きくて3、4カ月間で終わらないようであれば、絞り込んで規模を小さくするか、プロジェクト要員数を増やしてでも期限は厳守すべきだろう。とにかくこのフェーズは一気呵成(かせい)に作り上げることが重要だ。もし自社内だけで作業していく場合に、プロジェクトメンバーの現業との兼務もあって頓挫してしまう恐れがあるなら、ここは「時間と品質を買う」という観点で、フレームワークを持っていて実績豊富なコンサルタントを利用することも有効だ。
さて、その実行計画の成果物としては、パイロットモデルの詳細プランを作ることが具体化の最初の一歩である。この中で重要になるのは、パイロットモデル拠点の決め方だ。ここでは各社それぞれの考え方がある。すべての機能がそろっている拠点や、最も売れている拠点を選出するという考え方もあれば、逆にリスク回避のために小規模拠点で実施したいという場合もある。筆者の考えはどちらでもなく、“人材”によるということだ。これは、強力なリーダーシップを発揮できる有能な人材が存在する拠点をパイロットモデルとして選定するという意味である。いずれにしろ、パイロットモデルを成功させて効果を出し、文字通り全展開ロールアウトのためのパイロットの役割を果たしてもらわなければならない。もちろん、この中で課題も抽出し、その解決策を持って展開していくことが不可欠だ。
ここまで述べてきたことは、初めからシステム開発や設備導入などの大きな投資を掛けなくても、業務ルールの設定や業務プロセスの変更だけでかなりの効果を算出できる可能性がある。また、売り上げの拡大予測はなかなか困難だが、物流コスト削減、在庫適正化は、分析によって効果を試算でき、目標設定も可能だ。従って、これらの領域にまだ手を付けていない場合はアクションを迷っている時間はなく、ぜひ早期にプロジェクト化して取り組むべき課題だと思う。また、小売業がこれからグローバル展開を行う際には、将来の計画を見据えた上で拠点配置、在庫配置、輸配送ネットワークを一緒に考えていく必要がある。
外部を上手に利用し、「持たざる経営」で柔軟に対応する
これらのロジスティクスの実行については、できるだけ多くの部分を外部化しておくことが変動費化を実現する上でのキーポイントになる。つまり自社のアセット(土地・建物・設備・情報システム)を持ち、社員を有している場合、その規模が大きいほど現実的には“外部化する”という選択肢が取りにくくなる。その結果、理論的には変動させた方がよいと判断できても実行できない場合や、実行に時間を要する場合が生じる。一方で、現在の物流専門企業は3PL事業を強化しており、物流倉庫の設備強化やWMS、TMS(Transportation Management System:輸配送管理システム)などのグローバルでも適用可能な最新システムの導入を備え、業務・システムの運用における専門性・効率性に優れた企業が多くなっている。従って、単なるアウトソーサーではなく、戦略実現のパートナーとして、必要なときに必要なだけ利用することを追求していければ、最善の方法だと思う。このように、これからの小売業のロジスティクスは、自社の競争優位とならないアセット、オペレーショナルな専門ノウハウや必要なデータは、外部連携をうまく利用して引き出すことを今まで以上に積極的に考えていくことが重要だ。特にグローバル進出のように業務範囲を広げる場合は、それが成功に大きく影響してくるだろう。
連載の最終回となる次回は「SCMシステム構築の考慮点」について取り上げる。
<筆者紹介>
近藤倫明
アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス株式会社
SCMコンサルティング シニア・マネージング・コンサルタント
消費財メーカー勤務から2001年1月に大手ビジネスコンサルティング企業、プライスウォーターハウスクーパースに入社。同社と日本アイ・ビー・エムの事業統合を経てSCMコンサルティングに従事。現在はロジスティクス、プロキュアメントの2部門を統括している。主に流通事業企業を中心としたサプライチェーン戦略策定からシステム導入、運用展開支援まで、幅広い範囲のコンサルティングを行っている。
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