ガートナーに聞く「国内小売業が取るべきIT戦略」【後編】
「Green is Lean」──小売業に求められるサプライチェーン戦略
消費が冷え込む中、米国流通業は次の戦略として「サプライチェーンを包括した統合ビジネスプランニング」「グリーン調達」を考えている。これらはどのような効果をもたらすのか。
1億ドル以上のコストを削減する統合ビジネスプランニング
前編「欧米小売業に学ぶ『自社の強みを生かすIT活用』」では日本の小売業界に対し、「正確な需要予測を実現する仕組み作りと、先進事例から学び、自社独自のより良いIT戦略を作り上げることが必要だ」と提言した米ガートナー リサーチ バイスプレジデント ジェフ・ウッズ氏。米国では今、メーカー・卸売業・小売業を巻き込む大きな戦略投資の流れが来ているという。それは「統合ビジネスプランニング(Integrated Business Planning)」と呼ばれるものだ。
統合ビジネスプランニングとは、財務系、販売系、そして店舗や倉庫、工場、流通などのオペレーション計画すべてを包含する仕組みのことである。通常、財務部門が売り上げ予測をして全体の目標値を定め、販売側が個々の売り上げ目標を出す。その売り上げ目標を達成すべく、オペレーションと連携を取っていくのだが、この間の意思決定ややりとりが大きなコストになっているという。
例えば、ある地域に販路を広げる際には、在庫保管や物流の仕組みを整えなくてはならない。経営上、販路を広げることは必要だが、そこにコストや人手が必要な場合はオペレーション側が抵抗するケースがある。このやりとりによって、販売機会を逸するだけでなく、何も打ち手がない状態で人件費だけが掛かり、大きなロスを生み出しているのだ。米国の大企業の場合、こうしたロスだけで年間1億ドル以上のコストを試算している企業もあるという。
企業内部でこうした“三すくみ”状態に陥るのは、日本も米国も同じである。そこで、縦型の連絡経路ではなく、3つの部門がインタラクティブに情報をやりとりし、適正な戦略を立てられるようにするのが統合ビジネスプランニングだ。「この流れはメーカーを発端にサプライチェーンのエコシステムの中で形成されつつあり、卸売業から小売業へと波及していくでしょう」とウッズ氏は説明する。
業界をまたいでこうした動きが出てきたのは、言うまでもなく市場環境が冷え込んでいるためだ。一企業の利権にとらわれるより、原材料調達から市場までのサプライチェーンのプレーヤー全体が手を組むことでより市場のニーズをつかむことができ、地域差なく、適切な商品を適切な時期に顧客に届けられるようになる。これが、小売業・卸売業を含む米国の産業全体の流れだという。
1社の利権に惑うことなく、市場全体の隆盛で考えよ
こうした動きは2009年に入って始まったばかりであり、まだ具体的な結果は得られていない。ウッズ氏は「今日の小売業・卸売業は、デッドロック(行き止まり)状態。サプライチェーンのプレーヤー全体が持つ『市場を拡大したい』という思いと、個々の企業が追求すべき利権は、決して相反するものではありません。そのため、こうしたコラボレーションが求められているのです」と説明する。
同じような流れは、日本国内にもやって来るのだろうか。この問いに対しウッズ氏は、「次のような条件が満たされたとき、業界を超えたコラボレーションが生まれるかもしれません」と回答する。それは、販路を広げたいが独自のチャンネルを持っていないメーカーと、そのメーカーが持つ商品分野に弱い小売業(もしくは卸売業)が出会ったときだ。これはちょうど前編「欧米小売業に学ぶ『自社の強みを生かすIT活用』」で紹介したWal-MartとProcter & Gamble(以下、P&G)の関係に相当する。そして、この両社のコラボレーションが成功したのは、「小売であるWal-Mart側がジョイントビジネスとしてのゴールを描き、保証していたからです」と、ウッズ氏は付け加える。実際、“Everyday, Low Price”を標ぼうするWal-Martが、顧客の求める商品を常に低価格で販売することができたのは、両社が持つ物流や在庫などのバックエンドの支援があったからである。P&G側にとっても、近視眼的なビジネス展望しか描けない小売業ではなく、Wal-Martと組んだことで自社製品の売れ筋が把握できるようになり、結果として「売れる商品」を作り続けることができたわけだ。
国内小売業も、ファーストリテイリングや良品計画などのSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:製造小売業)のような形で、商品企画から流通まで1社でマネジメントしている業態もあるし、大きなGMS(General Merchandise Store:総合スーパー)になるとプライベートブランド(PB)を持っていることもある。もしそうした独自商品の開発ができない場合でも、国内にある無数のメーカーと提携してサプライチェーンの中で統合ビジネスプランニングを行い、戦略的に調達から流通をマネジメントすることは、十分あり得る話だ。
小売業へ求められるグリーン調達の動き
メーカーから市場までのサプライチェーンといえば、もう1つ見逃せない動きがある。それがグリーン調達だ。地球環境への関心が高まっている現在、家電やPCをはじめ、われわれの生活を取り巻く製品がどれだけ地球環境に配慮しているかが問われている。そして商品だけでなく、例えばその流通経路でどれだけCO2が排出されたのかを小売業側へ開示を求める動きもある。
ウッズ氏によると、Amazon.comはいち早く過剰パッケージを廃止する取り組みを見せているという。これには理由があり、「商品が手に届いてから開封するまで煩雑過ぎる」という苦情が後押ししたというが、この流れにほかの米国小売業も追随する構えだという。
「Amazon.comの場合は商品を店舗に並べるわけではないので、過剰包装を廃止しやすいでしょう。しかし、リアルな店舗を展開する小売業の場合、保管の安全度を考えるとある程度のパッケージングは必要です。そのため、Amazon.comはメーカーと直接交渉で過剰包装廃止を進めていますが、すべての小売業に同じ取り組みができるかといえば、残念ながら不可能でしょう」(ウッズ氏)
では、グリーン調達に向けて一般の小売業はどのように戦略を立てればよいのか。ウッズ氏は、「簡単な公式があります。それは、“Green is Lean(グリーンは効率的)”というものです」と語る。つまり、「グリーン調達の本質は、徹底的に無駄を省いた効率的なものである」ということだ。
例えば、「パッケージについても、明らかに過剰だと思われるものは、環境の点から見てもコスト面から見ても廃止すべきだ」とウッズ氏は語る。商品保護のために必要な場合もあるが、過剰な包装を省くことで、コストはもちろん紙の消費量の抑制につながる。
そしてグリーン調達をサプライチェーン全体から見れば、「どの過程にどのような無駄があり、どこを排除できるか」の戦略を立てることと同義になる。今後のグリーン調達への対応を考えると、やはりサプライチェーン全体の整備は必須なのだ。
グリーン調達のKPIを持ち、効果を測定するIT導入が急務
ウッズ氏は「グリーン調達は、小売業にとってコスト抑制にもつながる大切な経営戦略となります」と断言する。ともすれば、商品価格の決定にも寄与するだろう。
例えば、近くの倉庫から一度に大量の商品を輸送できる物流が整えられれば、CO2排出量も少なくなるし、輸送コストも抑えられる。その分を一般消費者に還元することで、より商品が売れるようになる。「最低限のコストで輸送したい」というニーズを抱えている企業にとって、グリーン調達への対応は不可欠というわけだ。
これを支えるのが、サプライチェーンを統制するシステムであり、シミュレーションである。輸送の最適化とコストの最適化を比べ、最もCO2排出量が少ない戦略を取るか、それともコストバランスを見て従来通りの方法で行くかは、まさに経営判断だ。「CO2排出が少ないルートがいつもコストを削減できるかといえば、必ずしもそうでないケースがあるでしょう。そこで、シミュレーションソフトを使うことで両者のバランスを取り、最も環境に優しく、コストを低減できる仕組みを立案できます」(ウッズ氏)
実際、企業の環境への取り組みは始まったばかりであり、どの商品がどれだけCO2を排出し、その物流過程でどのくらい環境負荷を掛けていたかを表すデータはまだ少ない。そのため、ITを導入してこれらのデータを取得し、シミュレーションに反映する仕組み作りが急務なのだとウッズ氏は語る。
シミュレーションの結果、仮に自社内の物流の仕組みだけではコストもCO2削減も最適化できない場合はどうするか。ウッズ氏は、「そこにコラボレーションのチャンスがあります」と言う。「環境対策に強い」ということを含め、サプライチェーン全体のエコシステムを構築することが、これからの小売業に必要な取り組みなのだ。そのため、IT側に「グリーン調達のベンチマーク(KPI)を作ることが必要になってくるでしょう」とウッズ氏はみている。
今日の小売業・卸売業には、市場を含め、サプライチェーン全体で戦略を立て、市場全体を盛り上げていく取り組みが求められている。そのためにも、自社の強みをより強化するIT戦略の立案が業界全体の経営課題として掲げられているのだ。
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