ガートナーに聞く「国内小売業が取るべきIT戦略」【前編】
欧米小売業に学ぶ「自社の強みを生かすIT活用」
厳しい経済環境の中、国内小売・卸売業が危機に追い込まれている。この状況を乗り切る経営戦略、IT戦略とは何か。米ガートナーのジェフ・ウッズ氏が、米国の状況を踏まえて取るべき戦略を語る。
二極化する小売・卸売業界、突破の鍵は「需要予測」
2009年、未曾有の経済危機の中、国内小売・卸売業界の二極化が進んでいる。消費が抑制される中、大手百貨店は言うに及ばず、生活に密着したGMS(General Merchandise Store)の落ち込みも激しい。
イトーヨーカ堂を擁するセブン&アイ・ホールディングスは、2010年2月期第2四半期(2009年3月1日~8月31日)でイトーヨーカ堂が上場以来初となる43億円の営業赤字を記録。連結決算で営業利益1181億3800万円(前年同期比22.2%減)、経常利益1184億6400万円(同19.9%減)、純利益436億8700万円(同35.3%減)となった。イオンも同期決算では自社プライベートブランド(PB)の売り上げでまき直ししたものの、営業利益354億9700万円(前年同期比39.5%減)、経常利益320億7700万円(同46.3%減)、純利益はマイナス146億8100万円となった。
その一方で好調な企業もある。ユニクロを擁するファーストリテイリングは、2009年8月期(2008年9月1日~2009年8月31日)で、営業利益1086億3900万円(前年同期比16.8%増)、経常利益1013億800万円(同18.2%増)、当期純利益497億9700億円(同14.4%増)を記録しているし、同じくカジュアルファッションのしまむら、格安家具のニトリも好調だ。ネット小売では、最大手の楽天が2009年第3四半期(2009年1月1日~9月30日)で純利益474億3600万円(前年同期比252.2%増)を記録している。世界的に厳しい経済状況の中、大きく成長している企業もあることが国内小売・卸売業界の特徴といえるだろう。
こうした状況下で、業界全体の課題は3つある。第1に、業界全体として成長していくこと。第2に、勝ち組企業の成功戦略を知ること。第3に、今後の時流を知り、次の一手を早急に打つことだ。そんな国内の小売・卸売業界に対し、米調査会社ガートナー リサーチ バイスプレジデント ジェフ・ウッズ氏は次のように語る。
「日本の小売・卸売業の中には確かに成功している企業もありますが、まだ製造業ほど世界的に成功している事例は多くありません。まずは業界全体で市場を拡大しなくてはならないと思います。そこで有効な手段がITです」(ウッズ氏)
具体的に、ITをどのように適用するべきか。ウッズ氏は、「第1に、CRM(顧客関係管理)システムを使って顧客の理解をより深め、需要予測の精度を上げること。顧客の志向やビジネス環境に合わせて、自分たちのビジネスを俊敏に変えられるようにすることが重要です。そのため第2として、サプライチェーンを構成するサプライヤー全員とのコラボレーション環境を整えなくてはなりません」と指摘する。つまり、顧客理解という第1のフェーズ、サプライチェーンという第2のフェーズの間を取り持つのが需要予測であり、需要予測ができなければ成長はないということだ。
サプライチェーンは商品ではなく「サービス」を軸に考えよ
ウッズ氏が欧米での成功事例として取り上げるのが、1980年代に始まったWal-MartとProcter & Gamble(以下、P&G)のコラボレーションだ。これは、売れ筋商品の品切れを防ぎたいWal-Martと、自社商品の売れ行きを知りたいP&Gが協力し、Wal-MartがPOSデータを開示することで商品の迅速な補充(クイックレスポンス:QR)を実現した例だ。そしてウッズ氏によれば、過去15年間米小売業が注力してきた戦略が、ITを使ってWal-Martと同じビジネスモデルを作り上げることだったという。つまり、ほかの企業が持っている競争優位性を、ITを使って踏襲するというわけだ。
「2009年に入り、IT投資が伸び悩んでいるのは事実ですが、米国の小売業の中ではWal-Martのやり方をまねる企業と、そのフェーズが済んで自社の強みを拡張しようという企業の2つに分かれています」とウッズ氏は言う。そして「自社の強みを伸ばしている小売業」ほど、この環境下でも大きく躍進しているそうだ。
例えば、米最大の住宅リフォーム小売チェーンであるThe Home Depotは、単に商品を売るだけでなく、設置やアフターサービスも提供している。米家電チェーン店のBest Buyも同様に、PCを購入した顧客にはセットアップをサービスしているという。つまり、商品だけでなく“サービス”を付随し、自社の価値向上に努めているのだ。
商品とサービスをワンセットにする――当たり前のように思えるが、これを戦略的に実現するのは難しい。なぜなら、人海戦術だけでサービスを提供しようとするとその分コストが掛かり、結果として利益を圧迫してしまうからだ。そのため、米国小売業のサプライチェーンシステムのトレンドは、「こうしたサービスを『プロジェクト』として管理し、適正な“商品提供時期”を判断する、という流れになっている」(ウッズ氏)という。サプライチェーンシステムは、「在庫があるから配送する」という単純な確認作業のためのシステムではなく、その先のサービスも考慮した大きなプロジェクト管理システムとなっているのである。
これをITの側から見ると、SCM(Supply Chain Management)のパッケージを導入するだけでは優位性を確立できないということになる。パッケージを入れるのもいいが、具体的に「顧客に必要な“商品”」を見極め、そのサプライチェーンを定義しなければ、自社の強みとはならない。米国小売業のIT投資のハードルは一段と高くなっているが、この流れは遅かれ早かれ日本にも到来するだろう。
自動リテーリングの仕組みをビジネスモデルにする
そのほか、システムそのものをビジネスモデルとしてしまうことで、成功しているサービスもある。それが、DVDサービスのNetflixとRedBoxだ。
Netflixは店舗を持たないオンラインDVDレンタル会社だ。月会費を支払っているユーザーがオンラインで見たいDVDを幾つか選ぶと、レンタル可能なものから郵便配送するサービスを提供している。見終わったDVDを返送すれば新しいものがまた送られるシステムになっており、DVDタイトルの品ぞろえも豊富でコアな映画ファンからの評価も高い(国内ではカルチュア・コンビニエンス・クラブがTSUTAYA DISCASで同様のサービスを提供している)。
一方RedBoxは、ファストフード大手McDonald'sと提携して店舗内にDVD貸し出し用のキオスクを設置することで躍進している企業である。一晩1ドルと安価な上に、最新の人気タイトルをそろえ、貸し出し件数は上々。返却時にはMcDonald's店舗の外に設置している返却ポストに入れるだけなのだが、そのまま店舗に入ってハンバーガーを注文する顧客も多いという。つまり、McDonald'sにとっても大きなメリットがあるわけだ。この2つの事例に対し、米DVDサービス最大手のBlockbusterは、2004年を境に徐々に売り上げが低下、約1000店舗を閉鎖する予定という。つまり、従来型のビジネスモデルとは違う「自動リテーリング」の仕組みを構築した企業が大きく伸びているのだ。
これについて、ウッズ氏は次のように述べる。「店舗を展開する中で課題になるのは、在庫を含めた各チャネルの管理です。これは店舗だけではなく、ネットや通販といったチャネルについても同じことがいえます。例えば、Amazon.comのどこが強いのかといえば、ITによる徹底した在庫管理です。インターネットというチャネルだけで、在庫管理が完結している。これはネット小売の強みです。ですから、一般の小売業者がAmazon.comと同じモデルを作ろうとしてもうまくいかないでしょう」(ウッズ氏)
では、店舗を抱える小売業者はどのような戦略が必要なのか。ウッズ氏は、「店舗とオンラインを融合し、サービスも在庫管理も統一化することが必要です」と説明する。それと同時に考慮すべきが、「店舗密度」という考え方だ。
店舗密度とは、ある地域内における自社店舗の密度のことである。ITによって密度を調整し、それぞれの店舗の役割を強化することで、より競争優位性を確立できるという。もちろん、店舗の運営に当たってはPOSシステムなどを導入して徹底的にシステム化する。こうして店舗全体を管理する「ストアマネジメント」も重要なポイントなのだ。
卸売業者のIT化は、オーダー管理の自動化・効率化
一方、卸売業のIT投資はどのような状況だろうか。
米国卸売業は日本と異なり、小売業と同一であることが多い。それでも医薬品業界などでは卸売業者が存在し、メーカーと市場の間を取り持っている。こうした中、米国卸売業界のトレンドは、「オーダー管理の自動化・効率化」が大きなテーマになっているという。
卸売業者の場合、扱う商品の点数の多さもさることながら、取引先が全国多岐にわたってくる。そのため、在庫用倉庫を幾つも抱えたり、発注プロセスが非常に煩雑になっている。この部分をITで自動化してコストを削減するというのが、昨今のトレンドだそうだ。ウッズ氏は、「ただし、プロセスの自動化や効率化といっても限りがありますし、すべてを自動化できるとは限りません。そこで、メーカーや卸売業を中心に、さらに大きな取り組みに向かう動きがあります。この流れに小売業者も必然的に乗ることになるでしょう」と予測している。
後編では、今米国でメーカーや卸売業を中心に起こっているIT戦略の大きな流れと、今後の小売業者が取り組むべき課題について説明する。
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