受発注システム選びの勘所【第4回】
流通BMS対応は適材適所のクラウド活用を検討しよう
流通BMS対応の受発注システム構築を考える際にも、クラウド活用は有効だ。サーバのサイジングが難しい場合や、取引先の都合ですぐに対応しなければならない場合には特に有効な選択肢になることだろう。
仕様としての完成度が高まった「流通BMS Ver1.3」
2009年11月に「流通BMS Ver1.3」がリリースされたことは本連載の第1回「流通BMSの先行事例から見えてきた受発注システムの課題」で紹介した。流通BMS Ver1.3では、それまで基本形と生鮮版で分かれていたメッセージが統合され、取り扱い可能な商材は日雑、生鮮、ドラッグからホームセンターまで広がった。これにより、流通BMSの利便性・保守性がこれまで以上に高まり、本格的に普及しやすい仕様として完成度が高まったといえる。
導入効果の“見える化”
これまで流通BMS導入を検討していた企業の課題となっていたのは、既存のEDI(Electronic Data Interchange)を流通BMSへ切り替えることで自社システムにどのような効果があるのかが分かりづらいことだった。
流通BMSの一般的な導入効果としては、通信インフラがアナログ回線からインターネットに変わることでメッセージの送受信時間が短縮され、受発注に続く業務を前倒しで進められることなどが挙げられる。しかし、そのような一般的な効果を自社のシステムまたは業務へ置き換えた場合、時間的、またはコストとしてどの程度の効果・メリットがあるのか分かりづらかったのだ。また、やりとりされるメッセージの中身に関しては、発注・受注に含まれている項目が支払い・請求まで引き継がれるという流通BMSの仕様が、同じく自社のシステムへ置き換えた場合にどの程度業務改善効果があるのかを事前に把握するが難しかった。
システム担当者としては、今でも使えている現行のEDIをやめて流通BMSへ乗りかえることは簡単には進められない。例えば「在庫の削減」や「締め処理における支払い・請求作業の軽減」など、自社の具体的な業務における効果を“見える化”する必要がある。効果の見える化が難しかったために、導入したくても必要な予算の確保につまずいてしまったシステム担当者も多かったことだろう。
こうした課題を解決するために、流通システム標準普及推進協議会は導入企業の実績を基に効果算定モデル式を作成し、導入検討企業が自社システムになぞらえて導入効果を数値として把握できる資料(「流通BMSの導入による効果算定に関する調査研究事業報告書」)を提供している。
| メッセージ種別 | バージョンごとの対応メッセージ | ||
|---|---|---|---|
| 基本形Ver1.0 | 基本形Ver1.1 | ||
| 発注 | ● | △ | ◎ |
| 出荷伝票 | ● | △ | ◎ |
| 出荷梱包(ひも付けあり) | ● | △ | ◎ |
| 出荷伝票(ひも付けなし) | ● | △ | ◎ |
| 受領 | ● | △ | ◎ |
| 受領訂正 | ● | ||
| 返品 | ● | △ | ◎ |
| 請求 | ● | ○ | △ |
| 支払い | ● | ○ | △ |
| 返品受領 | ● | ||
| 出荷荷姿 | ● | ||
| 集計表作成データ(発注) | ● | ||
| 集計表作成データ(出荷) | ● | ||
| 集計表作成データ(出荷梱包ひも付けあり) | ● | ||
| 集計表作成データ(受領) | ● | ||
| 値札 | ● | △ | |
| 発注予定 | ● | ||
| 納品提案 | ● | ||
| POS売り上げ | ● | ||
| 在庫補充勧告 | ● | ||
| 入庫予定 | ● | ||
| 入庫確定 | ● | ||
| 在庫報告 | ● | ||
| 商品提案(カタログ) | ● | ||
| 商品提案(商品マスター) | ● | ||
| 商品提案(価格提案) | ● | ||
| ●新規追加、◎項目追加、△データ属性の変更、○変更なし | |||
さあ、流通BMSを導入しよう
これまで流通BMS導入に踏み切れずにいた企業は、前述の2つ(流通BMS Ver1.3と流通システム標準普及推進協議会の資料)を利用することで、導入に取り掛かるハードルをぐっと下げることが可能だ。
また、既に導入済みの企業では、より多くの取引先が流通BMSに対応しやすくなるため、EOS化率を上げて業務の効率化を図れるだろう。また、これまでは部分的に、例えば発注から返品までを流通BMSに対応していた状態から、請求から支払いまで通して対応しやすくなった。受注・発注から請求・支払いまでを一貫してトレースすることが可能となり、在庫管理や締め処理の改善効果が期待できる。また、現場をよく知るシステム担当者ならば、マスターデータの統合や物流、検品システムとの連携など、次々と流通BMSを生かした改善ポイントが見えてくるはずだ。
実際に導入するとなると、考えなければならないのは流通BMSとして利用するサーバのスペックである。サーバスペックを決めるには、あらかじめ流通BMSに対応したトランザクション量を想定し、メモリ、HDD容量、CPU/コア数を決めなければならない。
流通BMS対応として利用するツールによって見積もり方も異なるが、ここで問題になるのは受発注に伴うデータ量と、個々のデータが連続したトランザクション量を読み切れないことである。より正確にサーバのサイジングを行うには、データ量とトランザクション量が通常の運用時と繁忙期にそれぞれどの程度になるのか、数年先はどこまで増えるのかを見積もっておく必要がある。
小売側のシステム担当者が流通BMSを導入するのであれば、概算レベルであったとしてもある程度の計画を立てることは可能だ。しかし、卸やメーカー側のシステム担当者にしてみると、どうしても得意先側の都合が優先されてしまう。そのため、既存EDIからどの程度の取引が流通BMSへ移行するのか、その時期はいつごろなのかなど、多いところでは数百社にも及ぶ得意先の対応状況次第ということもあり、不確定要素が多く数年先まで見据えたトランザクション量を見積もることは難しいのが実態である。
こういった場合、システム担当者としては取りあえず最低限の処理ができそうな小さめのサーバを購入し、必要に応じてスケールアップ、スケールアウトする計画を立てるのではないだろうか。しかし、この方法では運用面での切り替え、移行作業やバックアップ作業などが都度発生してしまい、システム担当者がその対応に追われてしまう。ここでお勧めなのがクラウドサービスである。
流通BMSはクラウドサービスの利用がお勧め
クラウドサービスは、仮想化技術を基にサーバやソフトウェアなどをサービスとして提供するもので、「プライベートクラウド」として1社が占有するものと、「パブリッククラウド」として各社相乗りするものに大別される。システムを自社構築する場合との違いとして注目したいのは、初期費用を抑えることができることと、トランザクション量に応じた拡張が行いやすい点である。
クラウドサービスには、HaaS(Hardware as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)と呼ばれるようにハードとネットワークを含めたいわゆるインフラ系のリソースを提供するサービスと、PaaS(Platform as a Service)、または広い意味でSaaS(Software as a Service)を含めたミドルウェアやアプリケーションなどを含めて提供するサービスに分けられる。
サーバのスペックが決められない場合にお勧めなのは、トランザクション量の変化に柔軟に対応可能なサーバ環境としてHaaSやIaaSを利用して、自社に適した流通BMSサービスを構築することである。
HaaSやIaaSであれば利用料も確保したリソース(CPU、メモリ、HDDなど)分だけで済むため、最低限のリソースだけを確保し、トランザクション量の増加に合わせてリソースを追加しながら使うことができる。環境を拡張する際には移行やバックアップの手間もいらないため、将来のトランザクション量を想定できない状態で流通BMSを使い始めるような場合に便利である。
2010年に入り、国内でも多くの事業者がクラウドサービスを立ち上げている。大手国内ベンダーから仮想化技術を駆使したベンチャー企業まで、さまざまなサービスから選ぶことができる。各社のサービスを見比べると、一時費用が掛からずに申し込み当日から利用できるもの、利用した環境に応じてポイント換算されるサービス、24時間監視もすべて行ってくれるもの、緊急時以外の対応は利用者任せのサービス、大規模なデータセンターや運用ノウハウを活用したものなど、サービスの内容もレベルもさまざまである。
自社で定めているデータの保存や運用に関する基準を満たすSLA(Service Level Agreement)を定めたHaaSやIaaSも見つかるはずなので、サーバを調達する前に一度検討してみることをお勧めする。
クラウドサービスをお勧めする理由はもう1つある。取引先の数が絞られているために流通BMSに対応した場合のトランザクション量はある程度見積もれるが、システムとして対応するまでの時間的な猶予がない場合や、専任のシステム担当者が存在しない場合である。これは、比較的中小企業に多い課題だろう。あらかじめ自社システムをふかんした上で流通BMSの導入をじっくり検討したいが、現実にはその時間もなく担当者もいない、SIerやコンサルタントに相談したくても都合がつかないなど、取りあえず決められた期日までに流通BMSに対応しなければならない場合の解決策としてもクラウドサービスは適しているだろう。
ただし、このような場合にお勧めしたいのは、ハードやインフラのみを提供するHaaSやIaaSではなく、流通BMSに対応したソフトがインストール済みの環境をSaaSとして提供しているサービスを利用することである。
SaaSではすぐに使えるように操作画面と併せてサービスを提供しているものもあり、条件が合えば手軽に始めることが可能である。また、流通BMS自体が規約として定まっていることで、インタフェースやメッセージフォーマットが統一されているため、今後さらに良いサービスがリリースされてくれば、新しいサービスへ乗り換えることは容易である。
クラウドを利用した流通BMSの特徴と今後
クラウドサービスはコストを抑えて環境を用意できたり、拡張しやすいだけでなく、これまでのVAN(Value Added Network)やASPと比較すると導入までの期間も短く、早ければ申請した当日には使えるサービスもある。
また、HaaSやIaaSの環境に業務アプリケーションとして流通BMSを乗せてSaaSとして提供しているサービスだけでなく、受発注から支払い・請求業務に限らず、業務として連携する物流や会計の仕組みと合わせたサービスも各ベンダーから提供されつつある。今後、クラウドサービスはさらに充実していくだろう。
流通業界全体で仕様が定められ、その普及においても積極的に導入効果が紹介されている流通BMSは、企業規模の大小によらずクラウドシステムの利用は適している。クラウドサービスの導入を考えて一度は条件が合わずに見送ったとしても、新しいサービスが続々と出てくるので、システム担当者として定期的に自社が求めている要件を満たすサービスを探し続ける努力をしてほしい。
第1回「流通BMSの先行事例から見えてきた受発注システムの課題」で取り上げているように、流通業界の情報システム部門はシステム要員が十分に足りていない体制で業務を回している。自社で保有するシステムに対して、今後運用保守する要員が足りていないのであれば、これを機会に信頼のおけるSIerやコンサルタントへ今後のシステム部門の体制を前提にした相談をしておくべきである。その結果、解決策の1つとしてクラウドサービスを流通BMSに限らずシステム全体で利用するプランも描けるはずである。プライベートクラウドを活用すれば、セキュリティなどの不安も軽減され、自社に置かれた環境と同等に利用することも可能である。
クラウドサービスを積極的に検討することで、システム部門から運用保守業務を軽減させ、本来自社のシステム部門が支えなければならないコアコンピタンスな業務へ専念させることが可能になるだろう。これらをうまく利用することで、コストセンターになりがちな情報システム部門を利益に貢献できる部門として活躍させることができるようにすべきである。
土田浩之
ウルシステムズ株式会社 ソリューション事業部 事業部長
10年以上メーカーにおいてさまざまな業種のシステム開発にかかわる。特に大規模なシステム開発の経験を生かし、ビジネスが求めるシステムと実際に開発されるシステムとのギャップを埋めるべくコンサルティング業に従事。現在は流通業にフォーカスした製品開発とクラウド環境でのソリューションを展開中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー