IFRS時代、ERP選択の新ルール【第3回】
ERPグローバル展開のポイント「テンプレート」を極める
ERPをグローバルの子会社などに展開するにはテンプレート構築が重要だ。適切、効率的にテンプレートを適用する方法を解説。ERPに付きもののアドオン、カスタマイズについての考え方も説明する。
当連載の第2回「IFRSに向けたERPパッケージの選定、その基本とは」では、IFRS時代に向けて、ERPパッケージをグローバル経営の基盤として活用するには、共通化要件とローカル要件への対応といった適用方針・適用範囲に加えてシステム導入後の運用方法を明確にすることが重要と指摘した。また戦略としてのグローバルロールアウトストラテジー(GRS)、グローバルスタンダードの策定が重要であることを述べた。第3回ではグローバル展開のベースとなるグローバルテンプレート構築のポイントを中心に、グローバル展開の進め方とそのポイントについて解説する。
テンプレートを構築しグループ各社に展開
ERPのグローバル展開のための次のステップとしては、GRSおよびグローバルスタンダードをベースにした自社オリジナルのグローバルテンプレートの構築が重要となる。
GRSで定めた戦略、グローバルスタンダードとして定めたコード体系、業務プロセスをシステムとして具体化していくことになるが、このとき自社グループの共通システム基盤となるテンプレートを構築し、グループ各社に展開するというアプローチを取ることがポイントである。「ERPはパッケージである」といって何の戦略も持たずに展開していくと、結果的にまったく別のシステムとなり、運用もばらばらになってしまう。
第2回でも少し触れたが、グローバルスタンダードとしてテンプレートに実装される標準には3つの視点が重要である。それはデータ、業務プロセス、ITの視点である。業務プロセスとITの標準化は従来、議論されているが、ここでは特にデータの視点について、少し触れておく。
データは勘定コード、業務データ、KPI(Key Performance Indicator)にまず分類する。IFRS時代に勘定コードの統一が必要なことは言うまでもない。業務データの中では取引先コード、品目コードなどに代表されるような単なるコード体系だけではなく、例えば製造業で重要とされる工程、工順、原価要素などのデータをどこまで細分化して定義するかといった粒度についても考慮が必要である。また、マスターデータの登録、運用についても考慮しておかなければならない。特にビッグバン型ではなく、段階的にシステムを導入していく場合には移行期間中のデータの取り扱いについては十分な検討が必要である。システム的にはコード変換の仕組みを作ることは可能であるが、旧コードと新しく定義した新コードを業務上、人が判断して運用することは困難であるため、新旧コードを併記するなどの工夫も必要である。
さらにデータの視点で今後、特に重視しなればならないのがKPIである。ERPの導入効果が見えない、定量的な効果として経営層に報告できないというユーザーの声を聞くことが多いが、導入前に業務のパフォーマンスを測定するための指標が定義されていないケースがほとんどである。また定義されていたとしても、それを実績として収集する仕組みが不十分なために精度が悪く使い物にならないケースも散見される。今後、グローバルな視点で経営資源を最適に配分するためには、各拠点のパフォーマンスをきちんと横並びで評価できる仕組みは必須要件である。そしてグローバルテンプレートとしては、このKPIを実装しておくことが不可欠である。
テンプレート展開のポイント
GRSおよびグローバルスタンダードをベースにグローバルテンプレートを構築し、次にこれをグループ共通のIT基盤として各海外拠点に展開していく上で、それがどれだけ各拠点に受け入れられるかがシステム導入の成功の鍵を握っている。ここでは、グローバルテンプレートを円滑に各拠点に展開していく上でのポイントを紹介する。
(1)エリアリーダーの任命
当然のことながら、各拠点の業務要件、意見が反映されたテンプレートであれば受け入れられやすいのは明白だが、すべての要求を取り入れることはできない。通常は、本社の情報システム部の担当者が現地でヒアリングをして要件を把握することが多いが、優先順位付けも難しく、その結果をまとめる作業は容易ではない。また、各拠点から現場の業務に精通したメンバーを集めることは現実的ではなく、仮に集めることができたとしてもそれを取りまとめることは容易ではない。
そこで各拠点の意見を効率よくまとめる手段として、自社の海外拠点を地域や、製品カテゴリ、事業特性などで幾つかのエリアに分割し、そのエリアを代表するエリアリーダーを選出する。まずエリアリーダーは自エリア内の各拠点の要件を調査した上で、グローバルテンプレートの検討に参画する。そして各拠点のエリアリーダーが中心となって、グローバル共通の要件をまとめていく。まとめられた共通要件はエリアリーダーが中心になり、各拠点にフィードバックして合意を取っていく。
このようにして構築したグローバルテンプレートは各拠点の意見を集約したものとして扱うことができる。グローバルテンプレートを各拠点に導入するときは、エリアリーダーが先頭に立って推進する。各拠点からのローカル要件に対して、グローバル共通の視点で要否を判断し、場合によっては各拠点のメンバーを説得する役割を担う。
グローバルテンプレートが共通要件をまとめたものである以上、必ずローカル要件とのギャップは発生する。できる限り標準を守りローカル要件を排除するには、本社主導ではなく、このようなエリアリーダーを任命することは大変有効である。
(2)現場担当者の参画
ERPは「経営基盤として最適であり、経営者の意思決定を支援できる」とよく言われるが、一方で現場の担当者からの評判が良くないという声も聞く。ERPが経営基盤として機能するためには、データが正しく、タイムリーに入力される必要がある。そのためには、操作性を含めた現場担当者にとっての使い勝手をきちんと評価する必要がある。使い勝手の悪いシステムは結局、必要なデータがタイムリーに入力されないため、迅速な意思決定を支援することができなくなる。
パッケージである以上、画面レイアウト、項目や操作性に制約があるのは仕方がない面もあるが、最近のERPはカスタマイズの自由度も上がっており、また入力支援機能などがサードパーティー製品として提供されているため、現場担当者の視点でこれらを評価することも必要である。
(3)パイロットプロジェクトの実施
パッケージの機能評価は机上検討だけでは難しい。デモを実施することで、ERPパッケージの機能面や操作性に関してはある程度評価できるが、実際に業務で使用する場面を想定して評価することは容易ではない。システムに対して自動化などの面で過度な期待をされるケースも散見される。ERPを業務遂行のためのツールとして使いこなすのではなく、豊富な機能に惑わされて機能を使うことが目的になってしまうと、システム導入がうまくいかない。
対策としては、本格的な導入に先立ちパイロットプロジェクトを立上げ、ERPを業務で使いこなすことを実体験として理解してもらうことが有効である。この観点から、海外の比較的規模の小さな拠点でERPの導入をスタートするユーザーもいる。最近では、ERPをクラウドで提供するサービスも出てきている。初期投資を抑えたERPの導入も可能となってきており有効に活用すべきである。
本連載では3回にわたってIFRS時代のERPパッケージが求められる要件と、それをグローバルに展開していく上で押さえるべきポイントについて述べてきた。ERPパッケージは既に成熟期に入っており、機能的には充実してきている。従ってERPをグループ共通の経営基盤の軸としてグローバルに展開していくためには、機能的な評価よりも、戦略、方法論を明確にして導入を進める重要性を念頭に置いて、ERP導入の検討を進めていく必要があると考える。
コラム:アドオン、カスタマイズの考え方
パッケージにより定義は異なるが、ここではパッケージのパラメータ設定により業務要件を実現することを「カスタマイズ」、標準機能で対応できない業務要件を追加プログラム開発で実現することを「アドオン」と呼ぶ。
どんなに機能が豊富なパッケージを選定したとしても標準機能だけでシステムを構築することは困難である。そのため通常はアドオンプログラムを開発することで対応するが、ERPプロジェクトにおいてアドオンが多くなると、費用、期間、品質に悪影響を及ぼす。アドオンを安易に認めてしまうと、ローカル要件はアドオンで対応すればよいということになり、標準化を進める上で大きな障害となる。従ってアドオン、カスタマイズの方針は事前に定めておく必要があり、以下に幾つか考慮すべき事項を紹介する。
(1)共通要件とローカル要件の切り分け
ローカル要件とは現地固有の法規制、商習慣、顧客からの要請に起因するものであるが、自社グループとして定めたグローバル標準は共通要件として安易な変更を認めないことが重要である。またローカル要件についてはその必要性、必要な時期を明確にする必要がある。また投資対効果についても実施判断基準に加えるべきである。
(2)承認ルート、権限の明確化
ローカル要件の候補が各拠点より上がってきたときにそれを承認するルート、権限を明確にしておくことが必要である。本社に権限が集中した場合は、ローカル要件に対して現地事情を把握していないために迅速な意思決定ができず、ビジネススピードに対応できなくなる。結果として現地ではシステムが使用されずMicrosoft Excelで対応するケースなどが増え、業務がブラックボックス化していくことになる。
(3)導入後の保守・運用体制
システム導入時はプロジェクトチームとして開発要員を確保しており海外拠点の導入も手厚くサポートすることができるが、保守・運用フェーズに入るとその体制が継続されることは少ない。ビジネス環境の変化によってシステムに求められる要件は変化していくため、導入後の保守・運用体制も併せて検討しておく必要がある。また導入時の開発要員と保守・運用時の要員が異なるケースがほとんどであるため、アドオンについては設計書によるドキュメントが重要である。ドキュメントがない場合、アドオンが必要になった業務的な背景、検討の経緯が分からなくなってしまい、改修による不具合発生が問題になることが多い。
筆者紹介
高田直澄(たかだなおずみ)
株式会社電通国際情報サービス ビジネスソリューション事業部
1991年住友金属工業入社。鹿島製鉄所において圧延制御、自動搬送制御システム、MESの開発を担当。住友金属システムソリューションズに出向後、生産スケジューラ「Asprova」、自社製生産管理パッケージの導入コンサルティング、プロジェクトマネジャーを担当。2001年、電通国際情報サービス入社後、海外ロールアウトなどのSAP導入プロジェクトを担当。2010年、ビジネスソリューション事業部ビジネスコンサルティング部において、ERPを中心としたロジスティクス系のコンサルティングを統括。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
4
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
5
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
6
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
7
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
8
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
9
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
10
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー