CIOの知恵袋:SAP ERP導入編
SAP ERP導入の落とし穴になるデータ移行、そのポイントは
SAP ERP導入で意外に落とし穴となるデータ移行。失敗してしまい、本番稼働を遅らせるケースもある。データ移行の難しさとスムーズに導入を進めるためのポイントを解説する。
移行を考える上では通常、業務、システム、データ移行をセットにして計画を立て、実行に移していく必要があるが、ここでは特にSAP ERPならではの落とし穴が多いデータ移行にフォーカスして説明をする。
そもそも移行というとシステム導入の最後の1コマというイメージがあるが、SAP導入プロジェクトにおいては移行を安易にそのように捉えると痛い目に遭う。実際、システム自体はできているのに、移行でつまづいたために本番稼働を大幅に延期せざるを得なくなったというような事例も存在する。
アクセンチュアがグローバル共通で活用している導入方法論では、SAP導入プロジェクトの要件定義フェーズの段階から、移行に関するタスクを実施することとされており、プロジェクトの全フェーズを通じて移行関連タスクが定義されている。SAPのデータ移行はそれほどに十分な準備を必要とする、難しいタスクとして位置付けられているのである。
なぜSAP導入プロジェクトにおいて、データ移行がそれほどまでに難しいのか? 理由は大きく以下の3点に集約される。
- 統合ERP故のマスター整備の難しさ
- データ投入における制約の多さ
- 移行スコープ決めの難しさ
統合ERP故のマスター整備の難しさ
SAP ERPのような密結合型の統合ERPにおいては1つのマスターレコードに、財務会計、管理会計、販売管理、購買管理、生産管理といった全ての領域での使用を想定した設定が必要となる。従って各領域で設計されたコード値などの整合性を保ちつつ、全領域横断的にマスター整備を推進していかなければならない難しさがある。
データ投入における制約の多さ
SAP ERPはデータ投入時のバリデーションが厳格であり、精度の低いデータはSAP ERPに投入できない。バリデーションの関係上、データごとに投入順序が決まってくるため、投入工程の上流に位置するデータの精度が低い場合、連鎖的に投入できないデータが拡大し、投入作業を進めることができなくなる。また、データ1件当たりの投入時間はデータ種類ごとに一定時間を見込んでおく必要があり(カスタム開発の場合に比べかなり長い)、この点も移行作業を進めていく上での難しい制約の1つとなる。
移行スコープ決めの難しさ
ユーザーは新たに導入されるSAP ERPを活用してスムーズに新業務に移行したいため、移行データスコープについて多くの要求をする。例えば過去データや、仕掛中データの移行などがその一例であるが、幾つかのSAP ERP特有の制約により、一部要求を断念してもらうか、データ移行以外の代替案で対処しなければならないケースが考えられる。そのためユーザーとの調整が難航することが多い。
スムーズなデータ移行に必要な3つのポイント
ではこうしたSAP特有の移行の難しさを踏まえ、スムーズな移行を実現するためにはどうすればよいのか? ここではSAPにおける移行のポイントとして、以下の3点を挙げる。
- 早いタイミングからの移行エキスパートの投入
- さまざまな制約を移行アプローチの工夫で乗り切る
- ユーザーへの分かりやすい説明/丁寧なコミュニケーション
早いタイミングからの移行エキスパートの投入
SAP ERPの移行は、単に移行対象データを洗い出し、それぞれ粛々と移行作業を進めていけばよい、という単純なものではない。さまざまな制約を考慮した上で最適な移行計画を策定し、実行に移していかなければならない。各領域のシステム設計者、業務ユーザーを巻き込み、仕様変更や開発・テストスケジュールの変更などが与える移行へのインパクトにも常に注意を向けつつ、整然と移行関連作業を推し進めていく必要がある。こうした一連の作業をとりまとめ、推進していくには、SAP ERPの知見はもちろん、プロジェクト管理的な手腕も持ち合わせた“移行エキスパート”をプロジェクトの早い段階から投入し、計画的に移行作業を推進していく体制を整えることが必要不可欠となる。
複数の制約を移行アプローチの工夫で乗り切る
例えば、本番移行のために許容される既存システムの停止可能期間が、本番稼働直前の土日だけに限定されるようなケースは多いと思われるが、SAP ERPの場合、前述の通りデータ投入に要する時間が長いという制約がある。そのため例えば品目数十万件にも上るデータ移行をしなければならないようなプロジェクトにおいては、貴重な土日の時間をいかに有効活用するかという点に、よく知恵を絞らなければならない。言い換えると、土日で処理できるデータ件数は限られるため、できるだけ多くの移行作業を前倒して実施できるようなアプローチを採用することや、本番稼働後に時間をかけて取り込むことができるデータを識別し、そのための段取りを計画するなど、SAP ERPに関する幅広い知見と導入経験に裏打ちされた移行アプローチ上の工夫が必須となる。
ユーザーへの分かりやすい説明/丁寧なコミュニケーション
SAP ERPの移行は計画段階から業務ユーザーを巻き込み、移行方針の検討やマスターデータ整備などを実施する必要がある。だがSAP ERPの移行にはさまざまな制約があるということを理解していない業務ユーザーにとっては、なぜこのような方針となってしまうのか、なぜこのような手続きになってしまうのか、ということが理解できず、プロジェクトの大きな火種になる場合が多い。こうした状況に陥らないためには、SAP ERPのエキスパートとしての説明に終始するのではなく、ユーザーにも理解できる平易な言葉を用いて分かりやすく説明することが必要となる。当たり前のように聞こえるかもしれないが、SAP ERPの制約を短時間で分かりやすく伝えるというのは、実はかなり難しい。このような作業を地道にやれるかどうかが移行の成否を分けるといっても過言ではない。
堀江隆志
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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