CIOの知恵袋:SAP ERP導入編
SAP ERP導入難航のボトルネックを明らかにする
SAP ERPの導入が難航する理由は幾つかある。コミュニケーション、ロードマップの欠如、ユーザーの不支持など、考えられる理由とその対策を説明する。
SAP ERP導入において問題が顕在化するタイミングの多くは、導入中あるいは導入後である。だが、原因を深堀りすると、その多くはそもそもの企画段階に真因が潜むケースが多い。本稿では、筆者が診断プロジェクトなどで見てきた幾つかの実例をベースに、SAP ERP導入を難航させるボトルネックとその対策を示したい。
事例1:コミュニケーション計画の欠如
【現象】
- 導入時に発生するマスター整備や業務マニュアル作成など、業務部門に依頼するタスクについて、いざ依頼した際に十分な協力を得られない
- キーユーザーを対象にユーザー受け入れテストを実施したが、操作性の違和感や仕様認識の違いなど、指摘や不満が噴出。説得して稼働したが、利用者が増える本番ではさらに混乱
【真因】
いずれも、ユーザー側とのコミュニケーション不足(タイミングが遅い、網羅的でない)が直接の原因。企画時点で、そもそもいつ誰に何を伝えるべきか整理されておらず、結果、その場その場での対応となっていることが真因と考えられる。
【対策】
本番稼働のタイミングでステークホルダーの理解を得るべく、逆算してフェーズごとに誰に何をどのレベルで伝えるか、その手段は何か、企画段階で「コミュニケーションプラン」を定義することが必要。
下図は、コミュニケーションプランの例(ユーザー向けコミュニケーションスケジュール部分の抜粋)。
なお、コミュニケーションプラン作成に先立って、その前提として「プロジェクトにかかわるステークホルダーの分析」をすること、「プロジェクト側とユーザー側との役割分担を明確に定義すること」の2つが特に重要であることを付け加えておく。
事例2:展開ロードマップの欠如
【現象】
- 国内本社への導入が終わり、海外展開を検討したが、かなり業務プロセスの差異がある上に、国内本社向けに作られた仕組みは過大すぎて海外子会社には合わないことが判明。結果、また一からの検討を余儀なくされた
- 数年前に一部領域へのSAP ERPの先行導入を果たし、その後は投資枠縮小によりいったん凍結。あらためて投資枠を確保して他領域への展開を検討したが、先行導入領域はハードウェア/ソフトウェアともに拡張性が乏しく、別インスタンスでの構築を余儀なくされた。その後の統合計画はなく、統合にどの程度の投資が必要かも不明
【真因】
いずれも、プロジェクトのスコープとして決めた範囲の具体検討に終始しており、全体のプログラムの中でそのプロジェクトの位置付けとそれを踏まえた制約の定義がなされていないことが真因。
下図は、展開ロードマップの不在が引き起こす投資額および展開スピードへの影響の考え方を示す。
【対策】
そのプロジェクトの位置付けを明確にした上で、組織設定など標準化すべきコードやインフラ構成の拡張性など、展開時を想定した要件も盛り込んだ形で、企画段階で「展開ロードマップ」を作成することが必要と考えられる。
事例3:課金・配賦計画の欠如
【現象】
- システムの構築が終わり、無事に本番導入に成功。コーポレート部門で負担していた投資について、利用するユーザー部門への配賦(はいふ)を開始したが納得感を得られず
【真因】
掛かった投資をどう回収するか、課金・配賦について早期かつ十分な説明がなされていなかったこと。加えて、受益者負担に基づく課金設計がなされていなかったことが要因。
【対策】
どこまでが利用者共通の要件で、どこからが特定利用者の要件かを整理した上で、業務ボリュームや構築コストを加味した形で、受益者負担に基づく「課金・配賦計画」を企画段階で作成することが必要。これにより、納得感を早期に醸成するとともに、要件定義のタイミングでユーザー部門にコスト意識を植え付けることにもつながる。
ここまで見てきたように、しっかりとした企画の有無は、システムそのものの品質と同じかそれ以上に、プロジェクトの成否を大きく左右するものである。極端な言い方をすれば、例えば、多少システムの品質が悪くてもユーザーの受け入れ態勢が整っていれば、稼働後の難局を全社一体となって乗り越えられるようなケースもあるのである。
渡邊将樹
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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