ハードウェアエラーが原因、回避はほぼ不可能
スマートフォンの“熱”を悪用、「Bit-Squatting」による情報漏えいの脅威
コンピュータのハードウェアに発生するエラーを悪用して個人情報を盗み出す「Bit-Squatting」。専門家の見解を基に、その実態と対策を解説する。
メールアドレスの入力ミスによるメール誤送信など、人的ミスが原因で発生する情報漏えい事故は少なくない。
では人的ミスを防げば情報漏えい対策として十分なのだろうか。ネットワンシステムズのサービス事業グループFellowである山崎文明氏は、「人的ミスだけではなく、“ハードウェアレベルのエラー”による情報漏えいの危険性に目を向けるべきだ」と警告する。
本稿は、ハードウェアエラーを巧みに利用する「Bit-Squatting」と呼ばれる攻撃手法を中心に、その実態と対策を解説する。
類似ドメインのWebサイトに誘導し、個人情報を取得
Bit-Squattingについて説明する前に、まずはBit-Squattingによく似た攻撃手法である「Typo-Squatting」について見ていこう。
Typo-Squattingは、ドメイン名をタイプミスしたエンドユーザーを意図しないWebサイトに誘導したりする攻撃手法である。攻撃者は、正規のドメイン名に類似したドメイン名(ドッペルゲンガードメイン)を取得する。「www.example.com」のaをeに変えただけの「www.exemple.com」といったドメイン名がドッペルゲンガードメインの一例だ。攻撃者はドッペルゲンガードメインに、正規サイトにそっくりな偽のWebサイトを用意する。間違ってドッペルゲンガードメインを入力してしまったエンドユーザーは、偽のサイトに誘導される。攻撃者は、エンドユーザーが偽のWebサイトに入力したIDやパスワードといった情報を盗む。
Typo-Squattingが脅威となるのはWebサイトだけではない。メールアドレスの打ち間違いによる誤送信メールも攻撃者の標的となる。米コンサルティング企業Godai Groupが2011年9月6日に公表した実験結果は、その脅威を端的に示すと山崎氏は説明する。Godai Groupは実験で、実在する151社のドメイン名によく似たドッペルゲンガードメインのメールサーバを6カ月間設置。その結果、12万通以上のメールの収集に成功したという。収集したメールには、ネットワーク構成や従業員の個人情報、ユーザー名/パスワードといった情報が記載されていた。
熱や磁気が引き起こす「Bit-Squatting」
本題であるBit-Squattingに話を戻そう。Bit-Squattingは、ハードウェアに発生するエラーを悪用して、エンドユーザーを意図しないドメイン名のWebサイトに誘導したりする攻撃手法である。Typo-Squattingと似ているが、Typo-Squattingの原因が人的ミスなのに対して、Bit-Squattingはハードウェアのエラーが原因であるという点が異なる。
攻撃者が悪用するのは、コンピュータの内部メモリに発生するビットエラーにより、ドメイン名がビット単位で変化してしまう現象だ。ビットエラーとは、「0」であったはずのビットが「1」に変化するといったように、データを構成するビットが変化してしまうことを指す。コンピュータが発する熱や磁気、宇宙線といった自然界で起こる現象が原因で発生するため「Bit-Squattingの回避はほぼ不可能」だと山崎氏は指摘する。
Bit-Squattingの原因となるビットエラーは、どの程度の頻度で発生するのだろうか。米セキュリティ調査会社であるRaytheonでセキュリティリサーチャーを務めるアルテム・ディナブルク氏によると、インターネットに接続している世界中のデバイスを合せると、1時間に約60万回のビットエラーが発生していると考えられるという。これは理論からはじき出した数値だが「実際に相当数のビットエラーが発生していると考えられる」と山崎氏は注意を促す。
山崎氏は、「特にスマートフォンやタブレット端末のようなモバイル端末の場合、問題はさらに深刻になる」と警告する。「スマートフォンはサーバやクライアントPCのように冷却機能を持たない。熱によるビットエラーの発生をいかに抑えるかが課題となる」
Bit-Squattingにどう対処するか
Bit-Squattingの発生自体を防ぐことは難しい。企業ができる対策とは何か。
山崎氏は即効性のある対策として、エンドユーザーの入力間違いやBit-Squattingで誘導されるドッペルゲンガードメインを企業が自ら率先して取得する「プレレジスター」が有効だとアドバイスする。「例えばグーグルは『www.gooogle.com』や『www.goolge.com』といったドッペルゲンガードメインを取得し、正規ドメイン名である『www.google.com』にリダイレクトさせている。間違いやすいドメイン名は、可能な限り積極的に取得するのが望ましい」
プレレジスターだけでなく、「ログインシールやパーソナルメッセージなど、本人だけが知る情報を基にした認証手段を設けることも有効な対策の1つ」だと山崎氏は指摘する。
またスマートフォンの熱に対処するためには、「夏場に自動車の中にスマートフォンを放置しないようにするなど、高温環境に置かないよう配慮することが必要」と山崎氏は注意を促す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
4
「何も変更していないのにWebサイトがクラッシュ」 そのときの原因は?
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
7
個人の業務効率化で終わる企業の盲点 AIで成果を出す「上位6%」の手法
-
8
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
9
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
10
「朝8時にバッチが終わらない」データ爆発の危機をJPX総研はどう乗り越えたか
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
5
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
6
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー