クラウドに飛び付く前に考えること
クラウドは「安い」「効率的」? クラウドをめぐる4つの神話
クラウドへの誤った期待は、経営者の判断ミスを招き、クラウド導入を失敗に導く。筆者はクラウドにまつわる4つの誤解を指摘する。
大企業も中堅・中小企業も、クラウドプロジェクトを立ち上げるに当たっての最大のチャレンジの1つが、クラウドをめぐる神話を克服することだと口をそろえる。誤った期待は往々にして経営者の判断ミスを招き、当初の計画策定に支障を及ぼし、プロジェクト全体をゆがめて、クラウドの成功をおぼつかないものにする。クラウドをめぐる誤解は多数存在するが、プライベートクラウドの導入にとって最大の障害となる4つの神話は以下のようなものだ。
1.クラウドは社内ITよりも安上がりだ
多くの非技術系の業務マネジャーや経営幹部が、「クラウドは社内ITよりも安上がりだ」という真偽定かでない神話を信奉しており、そのことがクラウドプロジェクトの悲惨な結末を招いたケースもある。クラウドサービスに掛かる費用は、社内システムの4分の1程度で済む場合もあれば、本格的な社内運用型データセンターの3~4倍も掛かる場合もある。大量のデータを必要とするアプリケーション、データベース管理システム(DBMS)に対するアクセスや更新を頻繁に行うアプリケーション、あるいは極めて短い応答時間を要求するアプリケーションなどでは、業務マネジャーや経営幹部が考えているよりもずっと高くつく可能性が高い。
この神話は、サーバの配備規模を縮小できることがクラウドの最大のメリットだという「二次神話」も生み出した。ブレードサーバの価格がわずか1500ドル程度だということを考えれば、この神話も理解し難い。しかもマルチプログラミングと仮想化により、サーバを効率的に再利用できるのだ。多くのユーザーにとって、サーバやハードウェアのコストよりも、運用とサポートに掛かるコストの削減がプライベートクラウド導入の最大のメリットだといえる。
2.クラウドとは仮想化技術を採用した複数のデータセンターを結び付けたものだ
「クラウドとは仮想化技術を採用した複数のデータセンターを結び付けたものだ」。この神話がいつまでも消えないのは、OpenStackのような仮想化ベースのクラウド方式が注目を集め、最も一般的なクラウドサービスであるIaaS(Infrastructure as a Service)が基本的に仮想マシン(VM)であるからだ。
しかし現実問題として、リソースの効率化がクラウド成功の鍵だとすれば、仮想化からスタートするのは間違いだ。それよりも、VMとアプリケーションのホスティングのセキュリティをアプリケーションコンポーネントのレベルで確保でき、そのための追加ソフトウェアを必要としないプラットフォームの方が効率的だ。Windows Azure PlatformやSolarisをベースとするプラットフォームなどがその好例だ。
クラウドは複数のデータセンターだけで構成されるという考え方も二次神話の1つだ。クラウドの効率はリソースをプールすることで実現されるが、規模の拡大と効率化との間に直接的な相関関係があるわけではない。むしろ実際には逆の関係にある。規模が拡大するのに伴って効率が失われるのだ。複数のデータセンターで構成されるクラウドを構築した場合、経費節減よりも出費の方が大きくなる可能性もある。
成功したクラウドプロバイダーの多くは既に、個別業種向けあるいは一般業務用のアプリケーションを対象としたSaaSなどの高レベルのサービスに軸足を移している。PaaS(Platform as a Service)やSaaS(Software as a Service)の主要な特徴はマルチテナントのサポートにある。すなわち、独立したマシン上でアプリケーションを利用しているかのような形で各ユーザーを隔離できるということだ。仮想化はこれを実現できるが、マルチテナントアーキテクチャは他にも存在する。また、仮想化ベースのクラウドの管理とセキュリティでもマルチテナントのサポートが必要とされる。それ故、この機能が用意されているかどうかを最初に確認する必要がある。
3.効率的なプライベートクラウドを実現するには特殊なITアーキテクチャが必要
プライベートクラウドを導入することで大幅な効率アップを実現したいと考えている企業は多い。しかしクラウドアーキテクチャの経済性という面から見れば、共通の技術をベースとしてサーバとストレージをリソースプールに統合したデータセンターでも、クラウドと同程度の総合効率を達成できることが分かる。
サーバが孤立した状態と比べれば、仮想化だけでも効率を改善でき、マルチタスキング型あるいはマルチスレッディング型OSはCPUとHDDのリソースを効率的に利用できる。要するに、クラウドモデルに基づいてデータセンターのアーキテクチャを全面的に刷新しても、効率化という面では得るものがない場合も多いということだ。
ここでややこしいのは、クラウドモデルは1つだけではないということだ。2つ目の神話の項で指摘したように、プライベートクラウドとは仮想化されたデータセンターをリンクしたものだと考えている人が多いが、この手法が適しているのは、隔離された多数のサーバをベースとしたITオペレーションを統合しようとしている企業に限られる。大規模なコンピュータを集中管理している企業の場合、仮想化によるメリットはないだろう。さまざまなクラウドアーキテクチャが存在し、ビジネスモデルもさまざまだ。自社に合ったアーキテクチャを探す前に、どの程度の効率化が期待できるかを検討すべきだ。
4.クラウド標準はまだ確立されていない
ITはすさまじい勢いで進歩している。だが標準化作業はそうはいかない。これは、IT分野では標準が完全に確立されることはあり得ないことを意味する。
十分に成熟したクラウド標準が存在しないことが利用の妨げになるのかと言えば、多分そうではないというのが真実だろう。自社のデータセンターとクラウド間、あるいはクラウドプロバイダー間で緊密に連係したアプリケーションを構築することを計画しているのであれば、クラウド標準はその計画に影響を及ぼす障害になる可能性はあるが、プロジェクト全体を頓挫させることはないだろう。問題管理と障害分離の対策をクラウドアプリケーションに適合させる必要はあるだろうが、これは標準の有無にかかわらず必要なことだ。クラウドのセキュリティ標準は確かに未熟だが、標準手法でセキュリティが守られているデータセンターはどれだけあるだろうか。
どんなプロジェクトでもそうだが、クラウド導入プロジェクトも、期待する成果が現実に即したものでなければ成功はおぼつかない。クラウドに対する経営幹部の見方がIT管理者の経験と懸け離れていれば、プロジェクトの勢いとプロジェクトへの支持が失われる恐れがある。IT部門がクラウド神話という障害に対処するのに気を取られていては、本来の問題に集中できない。クラウドプロジェクトを開始する前に、主要ITメンバーおよび各部門の業務責任者に対して、クラウドにまつわる誤解を解くための研修を計画する必要がある。そうすれば経営幹部や業務マネジャーたちが現実的な期待を抱くようになり、クラウドをめぐる神話から解放されるだろう。
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