「ギガビット無線LAN」が目前に
【技術動向】モバイルもギガビットの時代へ、「無線LAN」の高速化技術
1Gbps超のデータ伝送速度を誇る次世代規格の登場が目前に迫る「無線LAN」。本稿は、無線LANの高速化技術の現状や今後の方向性をまとめた。
動画などの大容量コンテンツを業務利用する動きが広がる中、重要性を増しつつあるのがネットワークの高速化である。イーサネットは、データ伝送速度のTbps化も視野に入るほど高速化(関連記事:【技術動向】100Gbps超えも目前、超高速化が進む「イーサネット」)。それと歩調を合わせるかのように、無線LANの高速化も急速に進む。Gbps超のデータ伝送速度を誇る「ギガビット無線LAN」の登場も目前だ。
本稿は、無線LANの技術動向に詳しいネットワンシステムズの宇都宮 光之氏の話を基に、急速に進む無線LAN高速化の技術動向や製品の現状をまとめた。
無線LAN高速化の現状:3つの技術で600Mbpsを実現する「802.11n」
現在最も高速な無線LAN規格は、2.4GHzと5GHzの2つの周波数帯を利用する「IEEE 802.11n」である。理論上のデータ伝送速度は、最大600Mbpsだ。
802.11nの高速化技術:チャネル多重化など3技術の組み合わせ
802.11nの高速通信を支える主要な技術は以下の3つだ。後述する1Gbps超のデータ伝送速度を実現する次世代無線LAN規格も、以下の3技術を拡張することで高速化を図る。
- フレームアグリゲーション:無線LANのパケット(フレーム)を多数連結して送信する技術。データの送信や応答確認に必要な待ち時間を短縮する効果がある
- チャネルボンディング:データ伝送に利用する20MHzの周波数帯域(チャネル)を複数束ね、より大量のデータを送受信可能にする技術。802.11nでは2つのチャネルを束ねる
- MIMO(Multiple Input Multiple Output):複数のアンテナを利用し、送信データを複数の信号(空間ストリーム)に分割して同時伝送する技術。802.11nは最大4空間ストリームまでの多重化が可能。通信に利用する周波数帯域幅を増やすことなく高速化できる
802.11nは、フレームアグリゲーションとチャネルボンディング、MIMOの4空間ストリームの組み合わせに加え、デジタル信号を電波に変換する変調方式の工夫などにより、最大600Mbpsのデータ伝送速度を実現する。
802.11nの現状:最速製品は450Mbps
市販の802.11n準拠製品を見ると、現時点で最も高速なデータ伝送速度は450Mbpsである。450Mbpsのデータ伝送速度を持つ製品には、シスコシステムズが2012年2月に発表した「Cisco Aironet 3600 Series Access Point」などがある(写真1)。
802.11nの最大速度である600Mbpsのデータ伝送速度を持つ製品は、現時点では存在しない。600Mbpsの実現には4個のアンテナが必要になることから、消費電力や実装面積、製品コストといった点で課題があるためだという。
今後の高速化動向:ギガビット無線LAN「802.11ac」の登場
さらなる高速化を目指して標準化が進む次世代無線LAN規格が、5GHzの周波数帯を利用する「IEEE 802.11ac」だ。802.11acのデータ伝送速度は実効速度で1Gbs以上、理論上の最高速度は約7Gbpsに達する。端末1台当たりの実効速度は500Mbps以上だ。
802.11acの高速化技術:802.11nの技術を拡張
802.11acのデータ伝送速度の高速化は、802.11nで採用されたフレームアグリゲーションやチャネルボンディング、MIMOといった機能の強化で実現されている(表)。具体的には、フレームアグリゲーションのフレームサイズ、チャネルボンディングで束ねることができるチャネル数、MIMOの空間ストリーム数をそれぞれ増加させた。これらは全て、一般的には増加すればするほどデータ伝送速度の高速化につながる。
| 項目 | 802.11n | 802.11ac |
|---|---|---|
| フレームアグリゲーション (フレームサイズ) |
最大64Kバイト | 最大1Mバイト |
| チャネルボンディング (束ねるチャネル数) |
2チャネル(40MHz) | 8チャネル(160MHz) または4チャネル(80MHz) |
| MIMO(空間ストリーム数) | 最大4空間ストリーム | 最大8空間ストリーム |
802.11acは上記の機能強化に加え、サブキャリア(搬送波)の変調方式を802.11nの「64QAM」から「256QAM」(64QAMの約1.3倍の伝送速度を実現)へ変更するといった工夫により、最大で約7Gbpsというデータ伝送速度を実現する。
さらに802.11acではオプションとして、1つのチャネルを利用して複数台の端末に異なるデータを送信する「ダウンリンクマルチユーザーMIMO」も規定する。ダウンリンクマルチユーザーMIMOは、システム全体のスループット向上につながる技術だ。
802.11acの現状:ドラフト段階の”フライング”製品も登場、本格展開は2013年か
802.11ac規格は現在標準化の途中である。一方、ドラフト段階の802.11ac規格を基にした製品を市場投入する動きもある。例えばバッファローは、802.11ac規格の一部機能を搭載した無線LAN製品「WZR-D1100H」を発表(写真2)。米国で2012年7月下旬に販売するという。標準化が完了した802.11ac規格に準拠する製品は、2013年ごろに登場し始めるだろうとの見方が一般的だ。
電波法の規制があるため、802.11acの国内利用は現時点ではできない。ただし、総務省が法改正に向けて審議中であり、2013年には国内でも802.11acが問題なく利用できるようになる見通しだ。
もう1つの次世代規格「802.11ad」:短距離通信に特化
802.11acと同時並行で標準化が進む次世代無線LAN規格に「IEEE 802.11ad」がある。データ伝送速度が1Gbps超という点では802.11acと同じだが、周波数帯に60GHzを利用する点が異なる。60GHz帯の電波は直進性が高く、回折が小さかったり障害物による減衰が大きいといった特徴がある。このため通信距離が1~2メートルと短くなり、既存の無線LANを置き換える存在にはならないだろう。ただし、短距離での高画質動画の伝送、クライアントPCやスマートフォンといった端末間のデータ通信などで活用が広がる可能性がある。
ここまで、無線LAN高速化の現状と今後の見通しを示した。TechTargetジャパンは今後、主に802.11acを中心に、導入面や構築面、運用面について、既存の無線LANとの違いを解説する記事を掲載予定である。
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