グローバルテンプレート活用がポイント
【市場動向】日本の常識が通じない中国拠点へのSAP ERP導入、そのコツは?
中国拠点へのERP導入は分からないことばかりだ。法制度や商慣習、人のマネジメントで戸惑っている日本企業は多い。SAP ERPの中国拠点導入で実績が多いSCSKがポイントを解説する。
生産拠点から販売、研究開発の拠点へ――日本企業における中国拠点の位置付けがますます重要になっている。製造業だけはなく、販売や企画の拠点としてサービスや一般消費財の企業の進出が続いている。企業の進出に合わせて導入されるのが「ヒト・モノ・カネ」を管理するERPパッケージだ。しかし、法制度や商習慣が大きく異なるだけに日本の常識でERPを導入しようとすると失敗する。本稿では、6月12日に都内で行われた「SAP Forum」で講演したSCSKの説明を基に、中国における「SAP ERP」導入のポイントを紹介する。
ERP導入に2つの課題
中国でERPを導入する場合の課題は主に2つある。1つは法制度とそれに伴う課題。もう1つは人にかかわる課題だ。法制度について、中国では中国の会計基準に基づく財務諸表の作成が当然ながら求められる。中国では勘定科目の項目などが中国当局によって決まっていて自由度は少ない。SAP ERPが対応できない場合は改修やアドオンが必要になる。決算期も12月期で固定だ。
また、税制も多様。「増値税」「営業税」などの税制度があり、複雑だ。しかも制度変更は頻繁で、通知から実施までの期間が短いことも多い。SCSKの中国法人、住商信息系統(上海)の松原竹志氏は「2012年1月からの制度変更が、2011年半ばに通知されることもある。このケースでは1カ月くらいで対応する必要があった」と話す。
中国では会計システムを導入してもそのまま使うことはできない。中国当局に会計システムの利用を事前に届け出る「備案制度」があるからだ。中国当局が、その会計システムが基準に沿っていることを認めれば利用することができる。この備案を通過させるのは容易ではなく、再申請の繰り返しでプロジェクトが遅れてしまうケースもあるという。
コンサルタントの半分が入れ替わる
もう1つの課題は人にかかわることだ。「中国ではSAP技術者の確保が難しい」(松原氏)。転職意欲の強いエンジニアが多く、仮に採用できたとしても、すぐに他社に転職してしまうケースがあるという。ある中国拠点へのSAP ERP導入事例では、プロジェクトが終了するまでに、SAP導入コンサルタントの半分が入れ替わったという。
この問題を解決するのは容易ではない。企業ができるのは、1人のエンジニアやコンサルタントにプロジェクトの知識が偏らないようにすることだ。プロジェクトや作業の属人化が強まると、その人が抜けた場合の痛手が大きくなる。1つの作業を2人に担当させることでこのリスクは避けられる。エンジニアだけではなく、経理担当者などユーザー企業側の担当者の離職率も高いといい、必ずバックアップを考えておく必要がある。
テンプレートと個別要件を組み合わせる
法制度とシステムにかかわる課題を解決するには、「グローバルテンプレート」と、各国拠点の個別要件への対応を組み合わせることがポイントとなる。例えば中国拠点の要件に完全に合わせた会計システムを手組みで開発することは可能だが、これでは他の国に横展開することができず、改修やアップグレードに多額のコストが掛かる。業務プロセスやシステムを標準化するというERPのメリットを失ってしまう。
そこでSCSKでは、SAP ERPをベースにどの国、どの拠点でも共通する業務をまとめたグローバルテンプレートを最初に開発し、その上で国や拠点の個別要件に対応した機能を盛り込むアプローチを採用している。これによって業務標準化というERPのメリットを確保しながら、個別要件にも対応できるようになる。グローバルテンプレートの開発は日本の部隊が主導。個別要件の開発や導入も日本がリードしながら、実装は現地のコンサルタントを活用する。
松原氏は国内拠点にSAP ERPを導入した上で、約2年で海外27拠点にSAP ERPを導入した事例を紹介した。この事例では国内でのSAP ERPの利用をベースに業務を洗い出して5カ月でグローバルテンプレートを開発。海外27拠点を9拠点ずつ3グループに分けてグローバルテンプレートと個別要件に対応した機能を導入していった。本社のIT部門が主導することでユーザー部門とのやりとりが容易になり、導入はスムーズに進んだという。また、現地のコンサルタントを起用し、法制度や税制、商習慣の違いに対応できるようにした。
ERPのグローバルテンプレートについての記事
どの言語でサポートを提供するか
SAP ERP導入後はシステム運用管理やサポートが必要になる。特にシステム定着のポイントになるのがヘルプデスク業務だ。中国拠点を考えた場合、そこには日本人駐在員、中国人マネジャー、中国人スタッフと3種の人がいることが想定される。この場合に問題となるのはSAP ERPのサポートをどの言語で提供するかだ。候補になるのは日本語、中国語、英語。住商信息系統(上海)の王 哲龍氏によると、日本人駐在員は当然、日本語が最も得意。次いで、英語、中国語だという。中国人のマネジャーやスタッフはこの逆で、中国語を話すことができ、次いで英語と日本語だ。日本人と中国人が共通で意思疎通できるのは英語ということになる。
しかし、王氏は「実際の現場を見ていると、ユーザーはほとんど英語のマニュアルを読もうとしない。システムの使い方を正しく教えるためには、駐在員に対しては日本語で、現地スタッフに対しては中国語で説明し、資料を用意するのが効果的」と話す。
SAP ERPの業務マニュアルの活用も日本人と中国人で異なるという。王氏によると「通常日本人スタッフはマニュアルを一通り確認し、その後にシステムを操作する。中国人スタッフは通常、マニュアルを読む前にまずシステムを操作する。分からないところがある場合に初めてマニュアルを参照する」。
サポートを提供する場合、このような日中の習慣の違いを考慮する必要がある。日本人スタッフだけでこのような日中の違いを組み込んだシステムやサポートを提供するのはやはり難しいだろう。日本で基盤を開発しながらも、運用は各拠点の事情に応じて変更させる必要がある。
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