あらためて見直す中小企業にとってのサーバ仮想化【第1回】
【導入効果】台数削減だけではないサーバ仮想化のメリット
サーバ仮想化には物理サーバ台数の削減以外にも多くのメリットがある。本稿では、物理サーバを購入する予算や運用管理を担う人材が限られる中小企業が、サーバ仮想化をすべきメリットを解説する。
「サーバ仮想化」はクラウドコンピューティングやスマートデバイスなどと並んで、昨今最も注目を集めているIT関連トピックの1つだ。だが、「120台だったサーバを10台に集約した」といった大企業での事例紹介が多いため、「ウチのような小さな会社にとってはメリットがない」と捉えている中小企業も少なくない。実はサーバ仮想化がもたらすメリットはサーバ台数の削減だけではない。IT活用のための予算や人員が限られる中小企業であればこそ、サーバ仮想化によって得られる恩恵も多々ある。そこで、本連載では4回にわたって「中小企業にとってのサーバ仮想化とは何か?」を詳しく見ていくことにする。
各回の概要は下記の通りである。
連載:あらためて見直す中小企業にとってのサーバ仮想化
第1回:台数削減だけではないサーバ仮想化のメリット
サーバ台数削減以外にサーバ仮想化がもたらすメリットとは何かを紹介。
第2回:サーバ仮想化に取り組む際の課題とその解決策(モノに関する課題)
中小企業がサーバ仮想化活用で直面する課題のうち、ハイパーバイザーやストレージなどの「モノ」に関する事項について明らかにし、それらの解決策を探る。
第3回:サーバ仮想化に取り組む際の課題とその解決策(モノ以外の課題)
中小企業がサーバ仮想化活用で直面する課題のうち、管理/運用や社内における意思決定など「モノ」以外に関する事項について明らかにし、それらの解決策を探る。
第4回:サーバ仮想化におけるコスト感
サーバ仮想化を実践するには何が必要なのかを確認し、全体のコスト化を俯瞰することで投資対効果を考える。
連載インデックス:あらためて見直す中小企業にとってのサーバ仮想化
サーバ台数が少ない企業の仮想化事情
今回は「第1回:台数削減だけではないサーバ仮想化のメリット」がテーマである。
以下のグラフは年商5億円以上50億円未満の中小企業に対して、「サーバ仮想化の活用状況」を尋ね、その結果を「導入済みのサーバ台数」別に集計したものである。
サーバ台数が10台以上になると、「活用中」と「活用を検討している」を併せた割合は70%を越えている。一方、サーバ台数が5~9台での同割合は50%強にとどまり、サーバ台数が1~4台では4割を下回るとともに、「活用する予定はない」と回答する割合が3~4割に達している。このことから、導入済みサーバ台数が10台未満となると、中小企業におけるサーバ仮想化の活用割合も低くなっていることが分かる。
では、導入済みサーバ台数が10台未満の中小企業にとってサーバ仮想化は必要ないものなのだろうか? ここでもう一度、「サーバ仮想化とは何か?」について振り返ってみよう。サーバ仮想化とは一言でいえば「OSやアプリケーションをハードウェアと切り離す」技術である。
サーバ仮想化は「OSやアプリケーションとハードウェアを切り離す」
通常のファイル(文書データやログデータなど)は作成した後、他のサーバにコピーして編集・閲覧することができる。しかし、OSやアプリケーションの場合はサーバごとに「インストール」が必要となり、ファイルと同じように他のサーバへ手軽にコピーすることはできない。
そこで、OSやアプリケーションをあたかもファイルと同じように扱うようにするための仕組みがサーバ仮想化である。ハードウェアとしてのサーバとソフトウェアとしてのOSやアプリケーションの間に「ハイパーバイザー」という特殊なソフトウェアを挟み込むことで、両者の結び付きを「緩く」している。こうしてファイルと同様に扱えるようになったOSと幾つかのアプリケーションの一組は「仮想サーバ」と呼ばれる。これと区別をするため、ハードウェアとしてのサーバは「物理サーバ」と呼ぶ。以下でも「物理サーバ」および「仮想サーバ」という表記をすることで、両者が混乱しないようにする。
1台の物理サーバ上では複数のファイルを編集・閲覧することができる。それと同じように複数の仮想サーバを1台の物理サーバ上で動かすことも可能だ。その結果、物理サーバ台数を減らすことができるわけだ。つまり、物理サーバ台数の削減はサーバ仮想化がもたらす「1つのメリット」にすぎない。あくまで「OSやアプリケーションとハードウェアを切り離す」ことがサーバ仮想化の本質であるという点をしっかり押さえておこう(関連記事:4つの仮想化アーキテクチャと今後の展望)。
サーバ台数削減以外のサーバ仮想化4つのメリット
では、その他にはどのようなメリットがあるのだろうか? それを整理したものが以下の図2である。それぞれ順に見ていくことにする(関連記事:アンチ仮想化は劣勢に、サーバ統合だけではない仮想化のメリット)。
サーバリソースの最適化
「昼間は業務系アプリケーション用サーバの負荷が高く、夜間はバッチ処理用のサーバの負荷が高い」といった状況は中小企業においても見られる。高性能な物理サーバを2台導入しても、負荷が高くなるのは昼間もしくは夜間だけであるため、サーバのメモリやCPU能力を持て余している状態となる。そこでサーバ仮想化によって両者をまとめれば、昼間は仮想サーバAにメモリやCPUを多く割り当て、夜間はその逆を行うといったことが可能となる。このようにサーバ仮想化によって、物理サーバの持つリソース(メモリやCPUなど)を最大限に生かせるようになる。
システムの安定稼働
物理サーバが故障してしまった場合、新しいサーバにOSをインストールし、次にアプリケーションをインストールし、最後にバックアップしたデータを元に戻すといった非常に手間の掛かる作業が必要となる。一方、OSやアプリケーションを仮想サーバの状態にしておけば、煩雑なインストール作業を省略することができる。結果的に業務が停止する時間を短くできるため、ビジネス面での損失を抑える効果が期待できる。
システムの迅速な導入
物理サーバのリース契約が終了する時期などには、OSやアプリケーションを新しい物理サーバへ移す作業が必要となる。上記のシステム安定稼働と同様に、サーバ仮想化を活用していれば新しい物理サーバへの移設作業を素早く行うことができる。
古いOSやアプリケーションの延命
Windows NT ServerやWindows 2000 Serverといった古いOS上の業務システムを今でも利用しているケースは少なからず存在する。その際、老朽化した物理サーバを新しいものに換えようとしても、古いOS用のドライバが提供されていないなどの理由でシステム移行ができなくなることも多々ある。幸い、ハイパーバイザーにはWindows NT ServerやWindows 2000 Serverといった古いOSに対応したものもあるため、仮想サーバの形で新しい物理サーバ上に移すことが可能となる。
このようにサーバ仮想化には物理サーバ台数の削減以外にも多くのメリットがある。物理サーバ台数が多いか/少ないかはあまり関係なく、むしろ物理サーバを購入する予算や運用管理を担う人材が限られる中小企業こそが活用すべきメリットといえるだろう。だが、これらを認知している中小企業はまだ少ない。サーバ仮想化がもたらすメリットを幅広く理解しておくことが非常に大切だ。
もう1つの重要なメリット
もう1つ、将来的にサーバ仮想化がもたらす重要なメリットがある。それはクラウドとの関連だ。昨今のクラウドサービス事業者の多くは基盤技術としてサーバ仮想化を活用している。つまり、「データセンター内に設置されたメモリ××Gバイト、HDD容量××Tバイトのサーバを月額×××円で利用したい」といった場合、そのサーバは物理サーバではなく仮想サーバであることも多々あるというわけだ。ということは、図3が示すように仮想サーバの状態にしたOSやアプリケーションを社内環境からクラウド環境へ移す、またはその逆も可能ではないか? という期待が生じてくる。
社内環境とクラウド環境の双方が仮想サーバを前提としていれば、上記のような活用法も原理的には可能だ。例えば、「試験導入はサーバを購入する必要がないクラウド環境上で行い、そこで導入が決まったら仮想サーバを社内環境へ移して自社内に設置したサーバで運用する。他社との協業によって外部からの接続も必要になるなどの変化が生じた場合には、クラウド環境へと再び移す」といったシナリオも不可能ではない。こうした具体例としては「Amazon Web Services」の「VM Import/Export」や、「ニフティクラウド」の「VMインポート機能」が挙げられる。現在では社内環境からクラウド環境への一方向の移行のみだが、クラウド導入の負担を軽減する有効な手段の1つとなるだろう。このようにサーバ仮想化に取り組むことで、将来的なクラウド活用の布石を打つこともできるわけだ。
第1回となる今回は「サーバ台数削減以外のサーバ仮想化におけるメリット」を見てきた。次回以降はこうしたメリットを享受する際に生じる課題とその解決策について解説する。
岩上由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業数社でIT製品及びビジネスの企画/開発/マネジメントに長年携わる。ノークリサーチでは多方面で培った経験を生かし、中堅・中小企業のIT活用全般に渡るリサーチ/コンサル/執筆・講演など幅広い分野を担当。
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