セキュアブラウザで安全性を確保
【事例】大和リースはiPadをどのように「どこでも稟議端末」に変えたか
iPadで稟議の申請や承認を実現した大和リース。セキュリティ対策のために、同社はセキュアブラウザの導入を決断した。その選定理由とは何か。同社担当者に聞いた。
米Appleのタブレット「iPad」を500台導入した大和リース。同社は、稟議の承認申請をシステムで実現する電子稟議をiPadから利用できるようにしている。その実現のためのセキュリティ対策として、同社が選んだ製品とは何か。その選定理由は。同社本社情報システム部の部長 小松伸司氏、課長 山中正人氏、前田 純氏に話を聞いた。
iPad導入の経緯:震災で業界団体にiPadを導入
大和リースがiPad導入を本格導入するきっかけとなったのは、2011年3月に発生した東日本大震災での取り組みだった。震災発生前からスマートデバイスの導入を検討していた同社は、iPadを含む幾つかの端末を比較検討。その一環として、代表取締役社長の森田俊作氏など少数で端末の使い勝手を試していたという。
震災直後、被災地において大量の仮設住宅の建築が必要になり、仮設建築が基幹事業の1つである大和リースも数多くの仮設住宅建設を担うことになった。多くの仮設住宅は、業界団体であるプレハブ建築協会が自治体からの発注をまとめ、各事業者に担当を割り振る形で建設が進められた。
複数の事業者が仮設住宅の建設を進めることに加え、震災直後の混乱も相まって、「どの事業者がどこに仮設住宅を建設しているのかを把握するのが難しい状況だった」(小松氏)。大和リースは、当時導入検討中だったiPadを生かせないかと考え、地図上に仮設住宅の建設予定地を表示するiPad向けシステムを開発。11台のiPadと一緒にプレハブ建築協会へ導入した。大和リースだけでなく、他社も含めた仮設住宅の建設計画をシステムに入力し、建設計画を可視化できるようにした。
こうしたプレハブ建築協会へのiPad導入と同時並行で、大和リースはiPadの社内導入の検討を本格化させた。
iPad導入の目的:営業部門の販促ツールとして効果大と判断
経営陣や情報システム部門は、営業部門の販売促進ツールとして、タブレットの活用が今後重要になるとの認識を共有していたという。「営業スタッフがカタログを何部も持ち運ぶ必要なく、顧客に製品写真などをきれいな画面で見せることができるなど、説得力がある販促ツールとしてタブレットが有効だと考えていた」(小松氏)
大和リースはiPad以外のタブレットも検討したが、以下の理由からiPadの導入を決断した。
- 大和リースの親会社である大和ハウス工業も既にiPadを社内導入しており、大和ハウス工業のセキュリティ対策やカタログ共有アプリケーションなどを利用しやすい
- 操作性が他のタブレットと比較して突出して高い
- 高い画面解像度で、製品写真や資料をきれいに表示できる
同社親会社の大和ハウス工業もiPad導入を進めていたが、大和リースは自社の情報システム部門にノウハウを蓄積したいという思いがあり、導入作業を自社で進めることにした。アップルジャパンなどにも相談をし、セミナーを受講するなどしてキッティングなどのノウハウを習得。2011年11月から12月にかけての第1次導入で、営業部門を中心に180台のiPadを導入した。現在は対象を設計部門などにも拡大し、500台を導入済みだ。
課題:イントラネットの電子稟議が課題に
当初は販促ツールとしてiPadを採用した大和リースは、住友セメントシステム開発のドキュメント共有サービス「SYNCNEL」などを導入した。それに加え、同社がiPadで利用する中心的なシステムの1つと位置付けていたのが、「DLnet」という同社のイントラネットだ。
大和リースがほぼ手組みで開発したというDLnetは、スケジュールやメール、勤怠管理などの機能を備える。iPadのWebブラウザから、VPN経由で社内運用するDLnetへアクセスする仕組みを整備した。
課題となったのは、DLnetが備える電子稟議機能をiPadで利用可能にするかどうかだった。iPadの導入検討を進めていた2011年8月ごろ、iPadの標準Webブラウザ「Safari」の機能に対する懸念が経営層から出たという。
経営層が懸念したのは、閲覧していた電子稟議画面が表示されたまま残ってしまう可能性だった。「顧客先に出向く前に電子稟議画面を表示しておくと、顧客にパンフレットを見せようとiPadを出したときに、誤って電子稟議画面を見せてしまう可能性がゼロではなかった」(小松氏)
セキュリティ対策:MDMだけでは不十分と判断、セキュアブラウザに注目
大和リースは、VPNに加え、モバイルデバイス管理(MDM)製品を導入するなど、スマートデバイスのセキュリティ対策を進めてきた。だが上記の課題を払拭するには不十分だと判断。機密情報である稟議情報の漏えいを危惧し、第1次導入時には電子稟議機能を利用不可としていた。
電子稟議機能はいったん白紙に戻したものの、依然として検討課題として残っていた。「電子稟議を可能にすれば使い勝手が向上し、経営層にもiPadを配布していることから、経営スピードの向上にもつながる」(小松氏)という判断からだ。
有効な対策はないかどうかを探っていた2012年2月ごろ、キャッシュを消去できるアイキューブドシステムズのセキュアブラウザ「CLOMO SecuredBrowser」の存在を知った。アイキューブドシステムズのパートナーをアップルジャパンに紹介されたのがきっかけだった。大和リースは、CLOMO SecuredBrowserが電子稟議の安全性確保に役立つ可能性があると判断。導入に向けて検証に入った。
製品選定の理由:「ない機能も標準機能として付け足す」柔軟さを評価
大和リースは閲覧後にWebページを閉じてキャッシュを消去できるCLOMO SecuredBrowserの機能を評価していたものの、同時に懸念も抱いていた。「電子稟議のWebページを自動で閉じるのはよいが、調査目的などで閲覧していた通常のWebページまで閉じてしまうのは避けたいと思っていた」(小松氏)。ドメイン指定でDLnetだけを閉じるように制御できればよいと考えていたが、当時のCLOMO SecuredBrowserには、こうした機能が搭載されていなかった。
だが、ドメイン指定制御の要望をアイキューブドシステムズに伝えたところ、「他のユーザー企業にとっても利便性向上につながるので、標準機能として盛り込む」との返答を受けた。こうした柔軟な対応を評価したことに加え、「カスタマイズをするのではなく、標準機能として盛り込まれていた方が、コスト上のメリットがある」(山中氏)と判断。このことが2、3社の製品を比較検討していた中で、最終的にCLOMO SecuredBrowserを導入するポイントになったという。
電子稟議の運用:Safariと併存、電子稟議のみセキュアブラウザで利用
大和リースは、Safariの起動をMDMで禁止せず、CLOMO SecuredBrowserとSafariを併用して利用している。エンドユーザーはSafariのみを利用し、DLnetの電子稟議画面を開くときのみ、自動的にCLOMO SecuredBrowserが起動するようにDLnetの設定を調整した(画面)。
電子稟議画面は、CLOMO SecuredBrowserでのみ閲覧できるようにアクセス制御を施しており、URLをSafariに直接入力しても閲覧することができない。また電子稟議画面を開いたときには、DLnetのログインとは別にID/パスワードの入力を求める仕組みにして安全性を高めた。
PDF自動変換と組み合わせて運用
セキュアブラウザに加え、同社が「どちらか一方でも欠けたら、電子稟議のiPad利用を開始するつもりはなかった」(小松氏)というのが、ドキュメントの自動PDF変換の仕組みだ。
電子稟議に必要な添付書類は、Microsoft Word、Excel、PowerPointといったフォーマットで作成される。こうしたドキュメントをiPadで開封可能なアプリケーションも存在するが、互換性が十分でなく「けい線やグラフが全部ずれて表示され、何を見ているのか分からなくなるなどの現象が発生した」(小松氏)。
こうした経緯から、自動PDF変換製品を選定し、DLnetに組み込んだ。現在は、添付資料を自動PDF変換製品でPDFへ変換し、iPadで確認できるようにした。
現状と課題:エンドユーザーは満足、「Safari代替」が目標
エンドユーザーからは、CLOMO SecuredBrowserの導入によってiPadで電子稟議が可能になったことについて、「長期休暇や海外視察でも電子稟議を進められるので、助かっている」と評価されているという。「出張で誰かがいないと業務が回らないという状況をなくし、経営の意思決定の高速化が実現できたのが大きなメリット」(小松氏)
また、CLOMO SecuredBrowserについて、導入検討時にはSafariと同等の機能という印象を持っていたが、「実際に使ってみると、Safariとの動作の違いが発覚した」(前田氏)。ただし、アイキューブドシステムズに違いを指摘すると、「すぐに対処してくれたので助かった」(同氏)という。
とはいえ、現状のCLOMO SecuredBrowserはタブブラウザ機能がないなど、機能面で完全なSafariの代替には至っていないのも事実だ。CLOMO SecuredBrowserとSafariを併用しているのは、CLOMO SecuredBrowserが完全にSafariの代替となっていないことも少なからず影響している。「最終的にはSafariの代わりになってほしいという思いがある。Safariに近づけてほしい」(山中氏)
今後の展望:端末拡大には必要性を考慮、利便性と安全性のバランスを重視
今後は、iPadを利用する現業部門の要望に応えるべく、必要であれば利用可能な社内システムを増やしていく。「既に営業部門などからの提案もあり、特定業務に特化したアプリケーションをiPadで利用可能にすることを検討している」(山中氏)
現在はiPadのみだが、スマートフォンの導入も視野に入れている。現在はフィーチャーフォン(従来型携帯電話)を社内支給しており、その置き換え先の候補として検討しているという。ただし、「スマートフォンの導入ありきではなく、各部門がオフィスや出先で何をする必要があるのかを明確に見極めた上で、導入の是非を検討する」(小松氏)という姿勢だ。
iPadについても、用途に合わない部門については意図的に導入していない。例えば工事部門の場合、現場で大量の安全書類を作成する必要があり、Microsoft Excelを使った作業が多いため、iPadの導入は数台にとどめ、ノートPCを通常端末として利用している。
導入用途を見極める手段として、2012年3月に開催したのが「情報交換会」。全国50カ所以上の事業所からiPad利用者を集め、活用例の発表会を開催した。「業務でiPadを利用するのに、どういった用途が最適かを当事者に考えてもらうことが大切」だと小松氏は語る。
iPadの運用については、従業員の自費で自由にアプリケーションを導入できるようにしている。ただし、MDMで端末内のアプリケーションを監視するとともに、DLnetなど社内システムの利用はセキュアブラウザで制限するなどして「メリハリを付けた」(小松氏)。
利便性とリスクのバランスを重視したのは、「『それはやらないでください』と規制するだけの情報システム部門にはなりたくなかった」(小松氏)ためだという。「守るべきものは守った上で、利便性を担保することが重要だと考えている」(同氏)
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