【IFRS】あなたの知っているIFRSはもう古い【第5回】
ノーマークだった日本企業も要注意なIFRS「リース会計」
日本基準との差異が小さかったはずのIFRSの「リース会計」が改訂される予定だ。大幅な改訂で日本企業が影響を受けるのは必至。注目の内容を解説する。
IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)を日本企業が適用する際に問題となるトピックはさまざまであり、収益認識や固定資産の減価償却などは以前から日本でも注目されてきた。既に過去の記事で解説したように、これらのトピックは状況が大きく変わった今も重要性が高い。
しかし、今回取り上げるリースについては特に注意を払っていない企業が多いのではないだろうか。なぜなら、現行のIFRSと日本基準ではコンバージェンスが進められた結果、大きな差異は解消されたからである。従来、日本基準とIFRSとの違いで最も問題になっていたのは、日本基準にあった「所有権移転外ファイナンス・リース」の取り扱いだった。既に日本基準でも所有権移転外ファイナンス・リースの規定は廃止され、リースについては特に問題がないと考えられてきたのである。
ところが状況は大きく変わろうとしている。IFRSのリース基準書は改訂されることになっており、これまでの会計処理と大きく異なる内容が導入される予定である。解消されたはずの日本基準との差異がここでまた大きく広がろうとしているのである。
IASB念願のリース基準書改訂
現在IASB(国際会計基準審議会)ではリース会計の新しい基準書を審議しており、新しい公開草案は2013年5月に公表された。公開草案後の新基準書の発効については未定であるが、現在のIFRSや日本基準とは全く違う会計処理に変更されることが決定されている。
リースは米国基準とのコンバージェンスプロジェクトの中で審議されてきた基準であるが、以前からIFRSのリース会計は問題視されてきた。リース会計の一番大きな問題は、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースという2つの会計処理が存在していることである。この2つの分類が現実には取引を仕組む機会を与え、経済的実態とは異なる会計処理が横行してしまっていたのである。
つまり、本来であればファイナンス・リースとしてリースの借り手の貸借対照表に資産計上されるべき実態のリース取引であっても、わざとファイナンス・リースの要件から外れるように契約内容を取り決めることで、オペレーティング・リースとしてオフバランス処理されるということが行われてきたのである。そのため、基準書改訂の審議ではリース取引の2つの分類を廃止し、統一することを目標に進められていった。要するに、オペレーティング・リースによるオフバランス処理を廃止することが必要なのである。
コンバージェンスプロジェクトを進めていた当時のIASB議長であったSir. David Tweedieeは、「死ぬまでに航空会社のバランスシートにオンバランスされている飛行機に乗りたい」というコメントしていた。それくらい、IASBにとってはリースの基準書改訂は念願のものであり、リースの会計処理は実態と乖離していると考えられていた。
このような大きな目標の下で改訂作業が進められていたため、米国基準とIFRSのコンバージェンスプロジェクトの中でリース会計は収益認識と並んで大きなトピックとして注目されてきた。しかし、収益認識と同様に審議は難航し、2010年に公開草案が公表されたものの、その後再審議が行われ、再度公開草案が公表されることになった。この間、幾つものアプローチの提案、修正を繰り返されたのである。まさにリース基準の改訂はIASB念願なのである。
新しいリースの考え方とは
今回の改訂で採用されたリースの考え方は、「使用権アプローチ」というものであり、今までのファイナンス・リースとオペレーティング・リースという分類は廃止される。従来は、オペレーティング・リースに分類されれば借り手のバランスシートにリース取引に関する資産が計上されることがなかった。しかし、使用権アプローチでは、1年以内の短期のリースを除き、リース取引の借り手は使用権資産という資産を計上し、それと同時にリース支払債務という負債を両建てで計上する。
ここまではIASBが当初掲げていた目的の通りに処理が統一されたかのようであるが、資産と負債を計上した後の費用処理については、1つの処理に統一されていない。タイプAリースとタイプBリースという2つの処理に分けられている。これは基本的にリース資産が不動産と不動産以外であるかによって、分類されることになる。
なぜ、このような分類になったのか。それは不動産と不動産以外では資産が消費されている状況が違う点に着目しているからである。そもそもリースの対象となる資産はさまざまであり、コピー機やPCといった小さな機器から、建物、土地といった不動産も含まれる。確かにコピー機などはリース取引により借り手がリース資産を使用している間、リース資産が消費されていると捉えられる。従来のファイナンス・リースと同じように、借り手が割賦でリース資産を購入して使っているかのように処理することに違和感はない。このようなリース取引を公開草案ではタイプAリースに分類する。
しかし、土地などの不動産については必ずしも同じことが当てはまるわけではなく、タイプBリースに分類される。不動産は通常借り手が使用した後、元の状態に戻した上で返還され、また他の借り手が使用する。不動産は貸しても資産の価値が減っているとは限らず、コピー機などのように「借り手によってリース資産が消費されている」とはいえない。そこで、不動産と不動産以外で費用処理の方法が分けられることになったのである。
このように取引の実態に着目すると全ての取引を同じ処理に統一するのは無理があり、IASBの審議の過程で方針が転換された。不動産と不動産以外、という分類には、恣意性の入り込む余地が少なくなるため、従来の規定よりも透明性が高まると考えられている。
借り手と貸し手の処理はどうなるのか
借り手の処理についてさらに詳細を見てみよう。
借り手側の新しい処理は、リースの借り手は、1年以内の短期のリースを除き、使用権資産をオンバランスすることが特徴的である。そして、その後の費用処理についてはリース資産が不動産と不動産以外で違う処理を行う。
具体的な処理としては、不動産でも不動産以外の資産であっても、最初に使用権資産とリース料支払債務を両建てで計上する。使用権資産とは、リース資産を使用することができる権利であり、リース料の割引現在価値である。そしてその後の費用処理は、それぞれ違う方法で行われる。不動産以外の資産については、リース料支払債務は実効金利法を適用し、使用権資産の償却は定額法などの規則的で合理的な方法で行われる。償却費と利息は別々に認識する。この処理は、従来のファイナンス・リースと同じであり、日本基準でも採用されている方法である。
| ファイナンス・リース | オペレーティング・リース | |
|---|---|---|
| 現行のIFRS(IAS17号) | オンバランス | オフバランス |
| 改訂後のIFRS | オンバランス | |
一方、不動産については、リース料支払債務に対して実効金利法を適用するのだが、使用権資産は、リース料総額が定額法により費用按分されるように、リース料支払債務との差額の調整で費用額が認識されることになる。使用権資産の費用処理額が差額で計算されるため、利息と償却費を区別せずにリース費用としてまとめて認識するのである。不動産の処理では定額で費用処理されるので、不動産以外のリースよりも費用負担が緩やかになる。不動産のリースで発生する費用は不動産を使用するためにだけ負担するものであり、定額で費用計上するのが実態に即していると考えているのである。
次に貸し手の処理を紹介したい。貸し手については、借り手と同じ考え方を採用し、借り手と整合した処理をするというのが原則である。つまり、不動産以外の資産は、借り手が使用権資産としてオンバランスした時に、貸し手側では借り手に移転した部分がオフバランスされる。
一方、不動産は、貸し手の資産として計上され続けることになる。不動産以外の資産と違い、借り手がリース資産を取得して消費していると考えにくいため、借り手側で使用する権利部分が使用権資産として計上される一方で、貸し手側にもリース資産がそのまま残ることになる。これは現行のオペレーティング・リースの処理と同じである。
日本基準にも影響必至
リースの基準書の改訂は非常に大きなインパクトがあるため、今後IFRSを適用するに当たって、リース会計への対応がより重要になる。従来と根本的に違う考え方が導入され、処理が大きく変わってしまう。特に日本企業が注意すべき点は、通常の土地や建物等の不動産の賃貸もリース会計の対象となるため、賃貸物件はリースの会計処理が必要となる点である。通常、企業は不動産を賃貸していることがほとんどであり、IFRS適用で大きな影響を受けることになる。
現在の日本ではIFRSを適用していない企業が大多数であるが、改訂されたIFRSと日本基準とが乖離した状態が続くとは考えにくい。どのような方針が取られるかはっきりしていないが、日本の会計基準に対してIFRSとの差異を解消するための対応が迫られることは避けられないだろう。
野口 由美子(のぐち ゆみこ)
株式会社イージフ フェロー。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業、公認会計士3次試験合格。あずさ監査法人勤務、中央大学専門職大学院国際会計研究科兼任講師を歴任。
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