2011年11月17日 08時00分 UPDATE
特集/連載

【IFRS】財務経理ビジネストレンド【第2回】IFRSではクラウドをどう会計処理する?

IFRSプロジェクトを担当する財務経理部員にぜひ知ってもらいたいのがクラウドコンピューティングのメリットとその活用方法だ。クラウドは企業の経理処理、IFRSプロジェクトをどう変えるのか。連載第2回ではその利用形態別の会計処理方法をお伝えする。

[原 幹,クレタ・アソシエイツ]

 世界110カ国以上で採用されており、早ければ2017年ごろには日本での導入が検討されている「IFRS」(国際財務報告基準、国際会計基準)。一方で昨今のITトレンドに外せないキーワードになってきた「クラウドコンピューティング」。これらは相互に関連し、次世代の財務経理業務を設計・運用する際に深い意味を持っています。本稿では財務経理部門でのクラウドコンピューティングの利用が現実になりつつある状況を受け、IFRS対応を前提にクラウドコンピューティングを業務システムで利用する場合のポイントを解説します。なお、以下の文中における見解は特定の組織や団体を代表するものではなく、筆者の私見です。

会計・経理部門から見た一般的なクラウドのメリットとリスク

 第1回「財務経理部員が15分で読めるクラウドの基本」では、クラウドコンピューティングの基本概念と一般的に説明されているメリットやリスクについて概観しました。このクラウドコンピューティングを特に財務経理部門の仕事に照らしてみたときに、これらのメリットやリスクはどのように変化していくのかを考えてみましょう。

 まずメリットとして、従来の会計パッケージソフトのようにソフトウェアのライセンスを手配したりインストールしたりする手間が軽減されるという点が挙げられます。財務経理部門でのソフトウェアの利用範囲(利用ユーザー数や業務範囲)は限定的ですが、これにより人的コストの軽減につながります。またクラウドでは利用ユーザー数に応じた課金が行われることで初期投資が低く抑えられていることから、利用規模に応じた最適コストによる導入が可能になりました。さらには導入後のバージョンアップ(機能強化)などもサービス提供者側で自動的に実施されるため、ユーザー側での対応工数(動作確認やデータ移行)の軽減につながります。

 一方のリスクとして、幾つか注意しておくべき点があります。

 まず、クラウドコンピューティングでは提供者側で機能を決定してサービスを提供していることから、機能面の制約をある程度受け入れざるを得ない点です。仮に自社固有の要件があったとして、提供されるサービスに対して機能強化を要望したとしても、それらを取り込むかどうかの判断はベンダ側での開発優先度に委ねられることになります。これはパッケージソフトでも同様のリスクですが、提供先が多岐にわたり、統合された環境の下で管理されている制約があることから、このようなアドオンやカスタマイズといった対応が取りにくいリスクはクラウドコンピューティングにおいては特に顕著になります。

 2点目に、クラウドコンピューティングを導入することで特定ベンダが提供するサービスを継続的に使うことになる(いわゆる「ベンダ・ロックイン」)ため、業務上の要請が変わっても容易に他のサービスに移行するのが難しくなるという点です。財務経理業務は年度を通じて継続する業務であるため、利用するシステムを短期間で頻繁に変更することは考えにくいですが、一度導入したものは少なくとも数年のスパンで利用し続けることを考慮しておきましょう。大手ベンダの提供するサービスであっても、突然サービス内容を変更したり、場合によっては中止したりするリスクがあります。どのクラウドサービスを利用していくかは、導入検討段階で情報システム部門などと連携して慎重に検討する必要があります。

 3点目に、システムトラブルへの対応です。クラウドコンピューティングではトラブルが起きた場合の対応の大半をベンダ側に依存することになり、不慮の事態になった場合にユーザー側で取れる対応は限定的になります。ユーザー側の原因によるトラブルであれば回避や対応は容易ですが、サービス提供側に起因するトラブルとなるとユーザーはなすすべがありません。特に期限が明確に設定されていて時間的な制約のある決算処理中のトラブルは深刻であり、最悪作業が中断されることになりかねません。このようなリスクに対しては代替的な決算処理の手段を確保するしかないわけですが、二重にシステムを導入するのは現実的ではないため、最悪の場合は手作業で決算を行う想定もしておくべきでしょう。

特徴 内容
機能面の制約がある ・ユーザー固有の要件を反映しにくい
・機能拡張はベンダ側の優先度に基づいて行われる
他サービスへの移行が困難 ・一度導入したサービスは数年継続して使用することになる
・ベンダ側の都合でサービス変更・中止される可能性あり
システムトラブルへの対応 ・ユーザー側での対応に限界がある
・安定したサービス提供はベンダ側の提供能力に依存する

IFRS導入におけるクラウドコンピューティングのかかわり

 さて、IFRSの適用においてクラウドコンピューティングの特性がどのようにかかわってくるのか、利用形態ごとに見ていきましょう。

 ここでは、クラウドサービスの利用形態と提供者・利用者の役割の違いによって、以下の4つのカテゴリを想定します。なおSaaS/PaaS/IaaSのサービス範囲や利用形態の違いや用語については、第1回の内容をご参照ください。なおカテゴリ2の区分は日本で現在施行されている「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第12号)での区分に基づきました。

カテゴリ1

SaaSをユーザーとして利用します。

カテゴリ2-A

PaaS(またはIaaS)をユーザーとして利用します。ただしクラウド上に構築するサービスは社内利用目的にとどまり、外部への販売による収益獲得は想定しません。いわゆる社内システムのクラウド化がこれに当たります。

カテゴリ2-B

PaaS(またはIaaS)をユーザーとして利用し、構築したサービスを顧客に提供します。特定の顧客の要望に基づく受注制作によりクラウド上にサービスを構築しますが、それ自体での外部販売は行いません。

カテゴリ2-C

PaaS(またはIaaS)をユーザーとして利用し、構築したサービスを外部に販売します。クラウド上に構築するサービスにより、現在または将来において外部への販売による収益を獲得します。

カテゴリ3

クラウドサービス(SaaS/PaaS/IaaS)をベンダとして提供し、ユーザーからの課金収入により収益を獲得します。

 上記のカテゴリごとに関連するトピックは以下の通りです。

tm_ifrs67076_01.png IFRSとクラウドのかかわり(クリックで拡大します)

 

それでは、順番に確認していきましょう。

カテゴリ1(SaaSユーザー)

 SaaSをユーザーとして利用する場合、財政状態計算書(従来の「貸借対照表」のこと。以下B/Sと表記)と包括利益計算書(従来の「損益計算書」のこと。以下P/Lと表記)で表現される数値が変化します。

 これまでのB/Sではユーザー企業が購入した自社利用ソフトウェア・ソフトウェア使用に必要なサーバ・その他電源設備といったものを資産に計上していました。クラウドサービスに移行することにより、これらのうち自社で使用しなくなったものは計上されなくなります。特にソフトウェアについてはサービス提供元に帰属する資産を許諾して使用することからIAS第38号(無形資産)に規定する無形資産には該当せず、資産に計上しません。この結果、B/Sの資産総額が相対的に小さくなります。

 これまでのP/Lではライセンス初期費用や運用に携わる人件費を計上していましたが、クラウドサービスに移行することによりライセンス利用料(月額課金部分)が計上されるようになります。この結果P/Lの費用が相対的に小さくなります。

カテゴリ2-A(PaaS/IaaSユーザー・社内利用目的)

 PaaSやIaaSで提供されたプラットフォーム上に、ユーザーが自社で利用することを目的として特定のアプリケーションを構築した場合には、IAS第38号(無形資産)に規定する無形資産に該当するものとして資産(ソフトウェア)に計上します。

カテゴリ2-B(PaaS/IaaSユーザー・受注生産目的)

 PaaSやIaaSで提供されたプラットフォーム上に、ユーザーが特定顧客の要求でアプリケーションを構築した場合、構築されるアプリケーションについてIAS第11号(工事契約)に基づく役務収益と工事原価を計上します。これはいわゆる「工事進行基準」に該当するものとして、役務の提供割合や作業の進捗率を合理的に見積もることにより、役務収益の提供度合いに応じて比例的に収益および費用を計上する方法です。

 ただし、信頼のある見積もりを行い得ない場合には、計上した原価に相当する収益分のみを計上し、利益はゼロとする「原価加算基準」を採用することになります。この場合に構築したソフトウェアはPaaS/IaaSのユーザーではなく、納品された最終顧客のB/Sに無形資産として計上され、毎会計年度末に減損テストの対象となります。

カテゴリ2-C(PaaS/IaaSユーザー・外部販売目的)

 PaaSやIaaSで提供されたプラットフォーム上に構築したサービスを外部に販売することを意図する場合には、IAS第38号(無形資産)に規定する自社開発のれんに該当するものとして無形資産に計上します。サービス開始前の研究段階の支出については「期間費用」として処理しますが、開発段階の支出の支出については一定の要件を満たした場合に「無形資産」として計上します。このタイミングについては議論がありますが、一般的にはサービスをユーザーが利用できるようになるタイミング(ベータ版または正式版のリリース時)が考えられます。

 構築したサービスはPaaS/IaaSのユーザー(この場合はサービスの提供者でもある)のB/Sに無形資産として計上し、毎会計年度末に減損テストの対象となります。

カテゴリ3(SaaS/PaaS/IaaSベンダ)

 クラウドサービスベンダがSaaS/PaaS/IaaSなどのクラウドサービスを自社で構築してユーザーに提供し、課金収入により収益を獲得するケースでは、「関連設備の資産計上」と「サービスからの収益獲得」という2点が関連します。

 まず、サービスを提供するための諸設備(サーバや電源設備)については、IAS第16号(有形固定資産)に基づいて取得原価または再評価額により測定された資産をB/Sに計上します。これらは減価償却の対象となり、またIAS第40号(減損)に基づく減損テストの対象となります。さらには諸設備に対する資産除去債務(ARO)も見積もります。

 次に、設備資産をリースで調達している場合には、IAS第17号(リース)に基づいてファイナンス・リースまたはオペレーティング・リースとして会計処理を行います。ファイナンス・リースの場合は支払リース料をP/Lに計上するとともにB/Sにリース資産計上して償却計算の対象とします。オペレーティング・リースの場合は支払リース料をP/Lに計上するのみとなります。なおリースの区分については現在検討されている公開草案(ED)にて見直しが行われており、今後は原則として全てのリース物件をB/Sに反映させる(オンバランス)処理が想定されています。

 クラウドサービス提供によって獲得した売り上げについては、IAS第18号(収益)に基づいて収益を認識します。IAS第18号では、物品販売について「リスクおよび経済価値が顧客側に移転したタイミング」で収益を認識しますが、クラウドサービスについてもこの考え方を当てはめてユーザー側でサービスが利用可能になったタイミング(具体的には課金ユーザーとして登録完了したタイミング)で収益を認識します。この場合の測定金額は「課金単価×課金数量」をベースとして、ユーザーの支払う初期費用と運用コストを加味して測定します。

 なお現在検討されている収益認識の公開草案(ED)では、顧客が商品等を占有し利用する権利を表す「契約資産」が移転したタイミングで収益を認識する案が検討されています。この場合は会計処理の費目の変更が想定されますが、認識のタイミングおよび測定の考え方に大きな変化はないものと予想されます。

クラウドサービスを使ったIFRS対応での留意点

 IFRS対応に伴い、クラウド特有の留意点が幾つかあるので合わせて確認しておきましょう。

資産の帰属先

 クラウドサービスは提供者(ベンダ)で保有する資産やサービスを利用者(ユーザー)が使用料を支払って使用する形態が基本です。従って、サーバや電源設備といった資産の帰属先は通常はベンダであり、測定金額もベンダのB/Sに反映されます。

 一方で、PaaSやIaaSにアプリケーションを構築した場合には、構築したサービスはユーザーに帰属することになるため、その測定金額はユーザーのB/Sに反映されます。

 このように明確に切り分けられるものもあれば、クラウドサービスを利用するためのITリソース(プリンタや複合機などの周辺機器)のようにその帰属を明確にしにくいものもあります。例えば物理的にベンダ側で管理されていてリモート運用が可能なプリントリソースなどはクラウドサービスとして扱うべきものか、ユーザーが占有して使える場合にはユーザー資産と見なすことができるかなど、利用形態によって帰属先が変化するので注意が必要です。

 ユーザーとベンダのそれぞれにおいて、利用しているクラウドサービスがどちらに帰属するのか、お互いに整合をとった会計処理を行う必要があります。

クラウドサービスの原価集計

 ベンダが行うクラウドサービスの原価集計に当たっては、個別のプロジェクトや顧客に関連付けて集計できるものとクラウドインフラを運用する上で共通的に集計するものを明確に分離します。後者の共通費は課金時間やユーザー数に応じた配賦計算などにより、顧客から獲得する収益との関連付けを行っていきます。

 いわゆるパブリッククラウドの場合、どのユーザーがクラウドサービスのどのリソース(ネットワーク、アプリケーション、データベースなど)を利用しているかの特定をしにくいため、ユーザー別の課金収入と原価との関連付けが困難です。

 一方のプライベートクラウドの場合は、どのユーザーがどのサービスを利用しているかを特定しやすいため、ユーザー別の課金収入と原価との関連付けが比較的容易になります。

 またクラウドサービスの維持管理コストは多国・多拠点にまたいで発生することから、発生費用の帰属先をどこにするか、物理的なリソースの取引が国をまたいで発生したときの移転価格の問題なども意識しておかなければなりません。クラウドサービスはグローバルビジネスを展開する企業が維持するケースが多くなります。発生コストの管理はよりコストの安い地域に移動し、スケールメリットをより多く享受できるよう検討されることから、原価集計においても一国内のビジネス圏にとどまらない多面的な判断が求められていきます。

 以上、IFRSの導入に当たりクラウドをどのように会計処理するべきかについて概観しました。連載第3回では、財務経理業務におけるクラウドコンピューティングの利用で特に意識しておくべきと考えられる「内部統制」「情報セキュリティ」の関係について解説します。

原 幹 (はら かん)

株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役

公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)

大手監査法人にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計/IT領域の豊富な経験を生かしたコンサルティングに多数従事する。著書「IFRSのきほんがわかる本」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。


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