驚くほど多様な業界で導入が進んでいる
iPadが巻き起こす「次世代レジスター革命」
従来のレジに代わり、カード決済機能を備えたタブレットを設置する店舗が増えている。タブレットはさらに進化し、従業員に代わる役割を果たすまでになった。
もし一度でもAppleストアに足を踏み入れたことがあれば、iPod touchやiPadを抱えた販売員たちが、購買客のガジェット選びを助けようと待ち構えている姿を目にしたことがあるはずだ。今や世界のほとんどがモバイルへ移行する中、スモールビジネスのオーナーたちの関心も高まっている。
スモールビジネスのタブレット導入事例は近年劇的に増加しつつある。企業を取り巻くソフトウェアがモバイル環境へ移行するとともに、その傾向は顕著になった。食品の移動販売車からレストランまで、あるいはコーヒーショップから手工芸店まで、タブレットはPOS(Point Of Sale)システムやバックオフィスソリューションへの道を切り開き、スモールビジネスの全ての機能に対応するワンストップショップになろうとしている。
レジスター革命
タブレットが店舗内で獲得した最も人気の高い役割の1つは、新時代のレジスターである。どの企業も長年、つり銭を計算する程度の機能しかない大きく不格好な旧式のキャッシュレジスターに依存してきた。それがタブレットの登場により、中小企業や一部の中堅企業の販売現場が次々にPOSへ転換しつつある(関連記事:iPadやAndroid端末で使える「モバイルPOS製品」10選)。
タブレットのイヤフォンジャックをクレジットカードリーダーに換えてしまう米Squareなどの技術がレジの形を大きく変ぼうさせ、スモールビジネスに柔軟性の高い販売環境をもたらした。Squareはまた、スモールビジネス市場においてもiPadをレジに利用したいという要望が増えているとして、iPad用のスタンド「Square Stand」を発表した。
スリムでしゃれたタブレットは、従来のレジのように大きなスペースを必要とせず、その一方で独創的な販売方法と独特のルックスのレジを実現した。タブレットは機能面においても、スモールビジネスに大きな変革をもたらした。従来、現金のみの受け渡しに制限されていたビジネスで、クレジットカードの利用が可能になったのだ。「企業にとって、決済の迅速化は常に好ましいことだ」と語るのは、米ノースイースタン大学の起業・イノベーション部、テッド・クラーク主任教授である。
クラーク教授によると、タブレット関連のモバイル技術は、フリーマーケットや高校のスポーツ競技会、農家直売所など、購買客があまり多くの現金を持ってこないようなイベントで、特にメリットが大きいという。「ちょっとしたコーヒーショップや移動販売など、あらゆる商取引に利便性がもたらされる」とクラーク教授。「決済に何らかの制限がある場所で販売は成立しない。だが、この技術はこれまで不可能だった場所での販売を可能にした」
もちろん多くのスモールビジネスは、既にクレジットカード対応のPOS端末を利用している。それでも、この分野におけるタブレットのブームに乗じて、幾つかの企業がモバイルプラットフォームの利点を活用した決済サービスプログラムをリリースしている。例えば、米PayPalは既存の端末上で動作するソフトウェアを改良して、Squareとそっくりなサービスである「PayPal Here」を開始し、1取引当たり2.7%の手数料を徴収している。また、米LevelUpは独自のカスタムQRコードで、新しい決済オプションを推し進めている。
急浮上するデジタルPOSシステム市場においては、こうした多くの企業が競い合うことにより、スモールビジネスに多くの選択肢が生まれ、利益をもたらしつつある。小売業者はそれぞれの販売量に応じて、最適なプログラムを選択することが可能だ。Squareなどは1取引当たり2.75%の手数料だが、競合する米Intuitの「Intuit GoPayment」は同2.7%、また販売量の多い業者向けに、月額利用料12.75ドルを支払うと同1.7%になるサービスも用意している。
この業界ではこれまで米VeriFoneなどのメーカーや米Microsなどのソフトウェアシステムプロバイダーが大きな地位を占めていたが、それらの大手がオープンプラットフォームへのシフトによって足場を失ったことにより、むしろ小売業者にはそれぞれの身の丈に合った選択肢が増える結果となった。
そうした変化は、フェアトレードコーヒーを販売する米Green T Coffee Shopの店長、マット・ホイ氏も感じている。幾つかの決済サービスプロバイダーの「見えないコスト」に手を焼いたあと、この前衛的なコーヒーショップは、余計なコストを掛けずに自前のiPad POSシステムで動くプログラムを見つけた。ホイ氏の店舗では、米Aprivaのクレジットカードリーダーを利用することで、収益が向上したのだ。このカードリーダーは、料金受け渡しの煩雑さを緩和するため、クレジットカード払いを増やすことを目的とした最小限の投資だった。同氏によれば、「レジの代わりにiPadを置いているのを見て驚く客が多い」
ホイ氏は、「タブレットの利用は先進的なイメージをもたらす。われわれの店舗は新興企業や医療施設に取り囲まれているエリアにあるが、それでも人々はこうしたシステムを見て目を丸くする。iPadをこのように利用できるのは、当たり前だとばかり思っていたが」と続けた。
おもちゃ以上
スモールビジネスにとって最も一般的なタブレットの利用方法はレジだが、米ノースイースタン大学の起業・イノベーション部のキンバリー・エドルストン教授は、他の管理業務にもタブレットを利用できるという。
「多くのスモールビジネスオーナーが、製品在庫を素早く検索できるツールとして、タブレットを利用している。在庫状況がどうなっているか確認し、従業員と連絡を取り合う」とエドルストン氏は語る。「今や驚くほど多様な業界で、タブレットの利用が進んでいる」
比較的低コストで、タブレットはスモールビジネスに大きなメリットをもたらす、とエドルストン氏。さまざまな用途に、このデバイスを利用できるからだ。事業の管理と成長を助ける一連のアプリケーションを組み合わせれば、タブレットはスモールビジネスのオーナーにかなりのものを提供できる。例えば、米Expensify、英OfficeTime、米Harvestなどのアプリケーションを利用すれば、ビジネスオーナーはスタッフの労働時間の他、領収書や銀行口座の管理を通じて支出を監視することが可能だ。また、米Salesforceや米AstroのReal Inventory Controlなどのプログラムを用いれば、iPad上で販売部門の管理や在庫データベースの構築が可能になる。さらに、米Omni Groupなどのアプリケーションは、経営全般の無駄を省くのに役立つだろう。
「インテリアデザイナーがタブレットを使ってリアルタイムで設計を修正し、顧客に示したり、何人かの企業家が展示会でiPadで製品のデモを見せていたのを目撃した」とエドルストン氏。「タブレットがスモールビジネスをやりやすくしている事例は数多い」
スモールビジネスの中には、従業員に替えてiPadを置くケースまで出てきた。米D-Dog Houseがそうだ。このレストランでは、各テーブルにiPadを装備し、顧客がオーダーを直接入力できるようにした。ウェイターが料理を運ぶのは変わらないが、iPadの導入によってレストランのスタッフを大幅に削減した。製パン業者、米Just Cupcakesのオーナー、カーラ・ヘッセルタイン氏も、コスト削減のために同じような選択肢を検討している。比較的大きな企業でも、タブレットを利用して組織の効率化を図っているところがある。例えば、米大手デパートチェーン、Nordstromは最近、販売スタッフにiPadを支給し、顧客が店舗内のどこでも商品を購入できる仕組みにした。顧客はもう列に並ぶ必要がなくなった(関連記事:アパレルブランド米GUESSのモバイルBIとFacebook分析先行事例)。
タブレットの多機能性によって、スモールビジネスのオーナーは単一のデバイスからさまざまな業務を簡単に実行できるようになった。タブレットをレジとして使うか、あるいは事務処理を容易にするツールとして使うかに関わらず、スモールビジネスはこのタブレット製品から大きな利益を生み出すことが可能だ。タブレットの多機能性に加えて、多彩なアプリケーションのおかげで今やスモールビジネスは、それぞれの事業に最適で、かつ身の丈に合った価格帯のプログラムを見つけることができる柔軟性を手に入れるに至ったといえるだろう。
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