直感の排除は成功に直結しない
「データと直感、どちらが大切か?」が不毛な議論である理由
直感に依存しない、データを基にした意思決定を目指すべき――。こうした考え方をする企業が増えつつあるが、直感を排除しても成功が保証されるわけではない。
読者の中には『Lean Startup(邦題:リーン・スタートアップ)』(エリック・リース著)という本のことを耳にしたことがある人もいるだろう。その中で著者が述べているのは「試作品を作り、製品を市場に投入し、潜在市場での評価を仰ぐという一連のプロセスを素早く実行する新興企業は、競争で優位に立てる」という考え方だ。こうした企業は、完璧な製品を仕上げるのに時間を費やすのではなく、「仮説」「テスト」「学習」「修正」「完成」というインタラクティブなサイクルを通じて競争をリードするのだ。今日、この考え方は大手企業の間でも大きく注目されている。
だがデータサイエンティスト(あるいは多少の観察眼を持った人)であれば誰でも、仮説と検証が有効に機能するためには、きちんとしたデータが必要であることを知っている。これについては、「Lean」シリーズの最新刊となる『Lean Analytics: Use Data to Build a Better Startup Faster」という本が参考になる。著者のアリステア・クロール氏とベン・ヨスコビッツ氏が強調しているのは、優れた指標の重要性だ。両氏によると「ビジネスの成長(IT部門の発展と言い換えてもよい)に不可欠なのは、製品の過大評価につながるマーケティング部門の独善的な数字ではなく、客観的な指標」なのだという。
「製品の改良を重ねることによって、自社のビジネス目標達成に重要な顧客行動が望ましい方向に変化することを定量的に示せなければならない」と、リース氏は説明する。言い換えれば、改良のための改良であってはならないということだ。
Airbnbの実験
短期滞在客用の貸部屋を所有している個人(ホスト)と、宿泊場所を必要としている旅行者を結び付けるオンラインプラットフォームを提供する米Airbnb(エアビーアンドビー)。同社で製品と技術開発の責任者を務めるジョー・ザデー氏によると、科学的手法に基づくリーンアナリティクス手法の採用で、売り上げが5倍に伸びたという。
Airbnbのサービスでは、ホストが利用可能なアパートや貸部屋、借家を登録する際、画像も提供できるようになっている。「そこで当社はある考えを思い付いた。つまり、『当社がプロの写真家をホストに提供したらどうか』というアイデアだ。そうすれば、登録する人が増えるのではないかと思ったのだ」。ザデー氏は、2013年にテキサス州オースティンで開催されたイベント「The Lean Startup SXSW」で語った。
テストフェーズは小規模でスタートした。そして1年半後、この実験は20人の写真家を雇い、毎月数百枚の写真を撮影する規模にまで成長した。この試みは好評を博し、着実に拡大していった。そのためAirbnbは、新しいツールを開発し、Webサイト用に新たな画像標準を策定したという。
Airbnbを通じて予約された宿泊日数は、3年間で100万日以下から500万日近くにまで増えた。「プロによる写真を採用したことが成功の全ての要因ではないにせよ、それが貢献したことは確かだ」とザデー氏は語る。
データ重視 vs. 直感重視
ベンチャー事業を成功につなげるには、ビジネスロジックから推測を排除する必要がある。それは、小売業から金融業へ至る広範なビジネス分野で浸透しつつある「直感よりもデータ重視」型モデルの例の1つでもある。だが直感を排除してデータだけに頼れば成功が保証されるというわけでもない。「実際には両方が必要だ」と、前出のリース氏は、先ごろ開催されたリーンアナリティクスに関するWebセミナーで述べた。
同氏は歴史上で最も偉大な科学者を引き合いに出し、次のように語る。「『アインシュタインはデータ重視型だったのか直感重視型だったのか?』というのは実にばかげた質問であることはすぐに分かるだろう。優れた仮説なしには成功はあり得ず、どのような発見にも天才的な独創力を持ち、直感的な飛躍ができる人々の存在が不可欠であるという事実に勝るものはないからだ」
天才でないわれわれ一般人にとっては「ビジネスの直感は学習行動の結果である」ことが救いだ。「ビジネスの直感は、成功と失敗から得られるデータを使うことで発達するスキルである。学び続けることが大切なのだ」とリース氏は話す。
俊敏性
低価格化を推進するために顧客ロイヤルティープログラムを廃止した米国北東部の食品チェーンShaw’s。同社は現在、徹底したコスト削減に乗り出している。親会社の米Cerberus Capital Managementが米国ニューハンプシャー州にある6カ所の店舗の閉鎖しようとしているのだ。このような動きを見せているのはShaw’sだけではない。やはり米国北東部を拠点とするチェーン店のStop & Shopも同州で6店舗を閉鎖する予定だ。
ニューハンプシャー州で発行されている新聞「New Hampshire Union Leader」は、「両チェーンは顧客ロイヤルティープログラムに固執するあまり、景気が悪化したときにそのビジネスモデルを修正できなかった。その結果、米Market Basket Foodsなどの低価格路線で知られるライバルに優位を許してしまった」と解説している。これは俊敏性(アジャイル)の重要性を示唆しているようにも思える。
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