五感を使った通信が可能に
株価の変動を指先で感じる時代に? 金融業界も注目するウェアラブル端末
触角や嗅覚など五感を使うことで、人間はより多くの情報を処理できる。近年の技術の発達により、そんな近未来的な世界が現実味を帯びてきた。金融や外食、医療などさまざまな業界が関心を示している。
英シティ大学ロンドンの研究者たちは連日、金融プロフェッショナルにリアルタイムデータを提供するウェアラブル技術の利用方法について、金融業界と話し合いを行っている。
触覚や嗅覚を使って情報を吸収
外食業界や医療業界も、同大学で開発中の「パーベイシブコンピューティング」(または「ユビキタスコンピューティング」)に関心を示している。
シティ大学でパーベイシブコンピューティングを担当するエイドリアン・デビッド・チョーク教授は「人々は現在、画面だけから情報を得ており、吸収できる情報量に限界がある」と指摘する。オーディオ/ビジュアルデータだけでなく、モバイルインターネットを通じて触覚や嗅覚に訴えるメッセージを送信すれば、人間はより多くの情報を吸収できるという。
ビッグデータや4G通信などの技術の進歩に伴い、より多くの情報を24時間365日間にわたって利用できるようになったが、それを吸収する能力には限界がある。
チョーク氏の研究チームは、インターネット経由でメッセージを受信できる指輪を開発した。この指輪は、ビッグデータを監視するアプリケーションに接続できる。例えば、株価などの情報に変化があれば、指輪から触覚を通じてメッセージが伝達される。
「金融会社はこの指輪を利用して、リアルタイムデータを顧客の金融プロフェッショナルに提供したいと考えている。常に監視していなければならない株式や指標があっても、顧客は1日中、端末の前に座っているわけにはいかないからだ」とチョーク氏は語る。「ウェアラブル端末のように非常に個人的な物を身に付けていれば、株価の変動などの情報を1日中ずっと把握できる」
「要するに、われわれは無限のデータにアクセスはできるが、物理的な世界の中でそのデータを効果的に受け取るためには、五感の全てを使って通信する必要があるということだ。現在は基本的に画面に全神経を集中させているため、吸収できる情報量に限りがある。常に画面を見つめているわけにはいかないし、体を使わなければならない作業は他にもある」(同氏)
料理の香りを再現
また、チョーク氏の研究チームは、スペインにあるミシュラン1つ星レストランのMugaritzの広告を支援する取り組みも行っている。
「このレストランには毎晩、常連客しか入ってこないため、彼らは顧客基盤を拡大したいと考えている。写真を載せたWebサイトは既にあるのだが、店内でのエクスペリエンス(体験)を伝えることはできない。われわれは、料理の写真が見られるだけでなく、その香りを嗅ぐことができるアプリケーションを開発中だ。この仮想臨場感は大きな宣伝効果がある」とチョーク氏は話す。
「これは、オーディオ/ビジュアルデータだけでは不十分であることを示す好例だ。食べ物のエクスペリエンスを提供するには、味と香りが不可欠であり、インターネットを通じて五感の全てに訴える必要がある。今回の取り組みは、このコンセプトの実用化を狙ったものだ」(同氏)
医療業界も注目、薬の飲み忘れを患者に注意
同氏のチームが開発中の技術には医療業界も注目している。例えば、室内で自動的に臭いを発生させれば、薬を飲む時間を患者に知らせることができる。
「臭覚は大脳辺縁系につながっており、記憶を直接喚起する。認知症の患者を扱っているグループによると、最大の問題は、患者が薬を飲むのを忘れることだという。臭いは記憶と感情に直接作用するので、薬を飲むのを患者に思い出させることができる」と同氏は話す。
チョーク氏は、インターネットを通じて臭いをモバイル端末に送信するデモを行った(写真)。これは薬品を入れた容器をモバイル端末に取り付け、メッセージによって臭いを発生させるという仕組みだ。既に日本では、このシステムが約1万台販売され、シティ大学のチームは英国にも近いうちに導入したいと考えている。
親が子どもを「抱ける」技術も
その他にも「ハギングパジャマ」などの新技術の開発が進められている。これは、子どもが近くにいなくても、親が子どもを「抱ける」という技術で、このコンセプトは介護業界で利用できるかもしれない。ユーザーがジャケットを抱くと、受信者が着ているジャケットにメッセージが送られ、受信者が「ハグ」を感じるという仕組みだ。
チョーク氏は、拡張現実(AR)技術が初期の研究段階だった約15年前から同技術に注目し始め、拡張現実システムを開発したいと思うようになったという。また同氏は、市街戦で兵士が周囲の状況を把握するのに役立つAR技術の研究で軍から助成金を受けた。
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