スーパーから衣料品店まで広がる次世代キャッシュレジスター
Apple Storeでおなじみ “iPad/iPhoneレジ”はこう実現している
米国を中心に急速に普及する、iPadなどのタブレットを使ったPOSシステム。導入コストの削減だけではなく、その可搬性の高さや多機能さで、小売りの在り方を大きく変えようとしている。
近所のコーヒーショップでも、また米アパレル大手のUrban Outfittersや米デパート大手のJ. C. Penneyなどのチェーンストアでも、最近はiPadやその他のモバイル端末をキャッシュレジスターとして活用する店が増えている。低コストであることも理由の1つだが、小売店やレストランはタブレットの持つ高い可搬性や直観的なユーザーインタフェース(UI)、大きな画面に魅力を感じているようだ。
とはいえ、いまでも小売店の大多数は、従来のPOS(販売時点情報管理)システムに縛られている。
「iPadは確かにコスト的に優れている。だがわれわれが気に入っているのは、むしろそのユーザーフレンドリーさだ」と、米ミシガン州のコーヒーショップ、Mighty Good Coffee Roasting(以下、Mighty Good)のカフェマネジャー、ダナ・ブライスデル氏は語る。
iPadをキャッシュレジスターとして利用するために必要なコストは、最小構成で800ドル、フル構成でも1500ドルほどだ。もちろん、旧式のキャッシュレジスターなら100ドル以下から購入できる。だがハイエンドPCベースのPOSシステムともなれば、数千ドルを超える。タブレット対応のキャッシュレジスターであれば、機能を必要なものだけに絞り込んで、コストを抑えることができる。
米大手デパートNordstromなどと同様、Mighty Goodもタブレット型トランザクションの早期導入に踏み切ったパイオニア企業の1社だ。Mighty GoodのiPadは、米Squareのクレジットカードリーダーやキャッシュドロア、モバイルPOSアプリの「ShopKeep POS」、米Mercury Payment Systems(MPS)のカード処理アプリを装備している。ShopKeep POSは、販売情報を「ShopKeep BackOffice」に転送する。それによって、ショップマネジャーは売り上げや在庫をリアルタイムで管理し、リポートにまとめることができる。MPSのアプリを利用すれば、iPadやiPhoneからクレジットカードやギフトカードの処理ができる。
「われわれは最近、顧客がiPadの画面上でクレジットカード取引の署名ができる機能と、チップを上乗せできる機能を追加した。iPadの画面を顧客に見せるだけでよくなった」と、ブライスデル氏は語る。Mighty Goodの顧客はこれまで、別のハードウェアでクレジットカードの署名をする必要があった。
Mighty Goodは、iPadをオープンスタンドの上に置いている。それに対し、米ニューヨークのグランドセントラル駅にあるJoe Coffeeは、盗難被害を防ぐために、キャッシュレジスターとして利用するiPadをカウンターの下に隠している。また、サンフランシスコのSightglassでは、特別にしつらえた木製回転スタンドにiPadを設置している。
ファーマーズマーケットからニューヨークのアッパーイーストサイドまで
タブレットベースのキャッシュレジスターは今日、ファーマーズマーケット(農産物直売所)やスーパーマーケットから、ニューヨーク・マンハッタンのアッパーイーストサイドのトレンディな衣料品店まで、幅広く広がっている。
キャッシュレジスターとして利用されているモバイル端末は、iPadだけではない。J. C. Penneyは、iPodをセールススタッフに配布済みだ。米Appleは自社ショップのあらゆるところで、顧客の支払いをiPodとiPadの両方で受けている。
伝統的なPOSキャッシュレジスターメーカーの米VeriFoneや米Equinox Payments、米Hypercomなども行動を起こしつつある。「各社はAndroidタブレット、あるいはiPadのいずれかのモデルを投入し、ラインアップを拡充している」と、モバイル決済ソリューションを手掛ける米Crone ConsultingのCEO、リチャード・クローン氏は述べる。なお、VeriFoneは先ごろ、「Sail」というSquareに似たクレジットカードリーダーを発表した。
iPadや他のタブレットの広い画面は、一度により多くの顧客情報を表示することが可能だ。販売担当者は電話番号やメールアドレスを入力し、「顧客にパーソナライズしたクーポンなどを電子的に送ることができる」とクローン氏は言う。「旧式のPIN入力クレジットカード端末はフルキーボードを持たず、画面も小さい。そのため、電話番号やメールアドレスを表示する余裕はない」(同氏)
もしタブレット型のPOSが音声認識機能まで搭載するようになれば、「例えば、メールアドレスを“話す”だけで顧客情報を表示できるようになるだろう」とクローン氏は語る。
クローン氏はこう続ける。「基本的には紙ベースの情報が全て不要になる。しかし本当のメリットは、CRM(顧客関係管理)だ。収集した顧客情報から店舗は、ショッピングエクスペリエンスをパーソナライズし、個別の顧客ごとにきめ細かな対応を取ることが可能になる」
タブレットが米南部のスーパーマーケットに
具体的な事例としてクローン氏は、米スーパーマーケットチェーンKrogerの子会社で米国南部を中心に200店のチェーンを展開する雑貨ストア、Harris Teeterを挙げる。同ストアでは現在、「HT Express Pay」というVerifoneのタブレットベースのPOSシステムの導入を進めている。
HT Express Payは、米Paydiantの「自社ブランド化」が可能なホワイトレーベルソフトウェアを利用する。このソフトウェアは、ファストフードチェーン大手の米Subwayが現在開発中のモバイルウォレットシステムにも採用されている。
HT Express Payに申し込んだ顧客は、特別なレーンを通って、あらかじめオンラインで注文しておいた雑貨をピックアップできるので、ショッピングの時間を大幅に節約できる。HT Express Payを利用するためには、Android端末かiPhoneにアプリをダウンロードし、クレジットカード情報などを含む顧客プロファイルをPaydiantサーバに登録すればよい。
顧客はエクスプレスレーンに到着したら、店員がタブレットから送信してきたQRコードをスキャンする。次に、Paydiantサーバにどのクレジットカードを利用するか選択し、スマートフォンで「支払い」ボタンをタップするとデジタルレシートが発行され、顧客は目的の雑貨を手にすることができる仕組みだ。
タッチスクリーンはタブレットに限らない
もちろん、小売りシステムは必ずしも大型スクリーンを装備したタブレットが必要というわけではない。
例えば、ニューヨークのレストランMirage Diner Restaurantは、2種類のクライアントPCベースのタッチスクリーンシステムを導入した。このシステムは、タブレットを一切使用しない。導入したのは、小型のクレジットカード端末を接続したフロントカウンターのPOSシステム、そしてスタンドアロンのキオスク端末5台だ。
伝統的な紙とペンで顧客の注文を取った後、ウエイターがキオスクまで歩き、そこからレストランのコンピュータシステムに注文を入力する。決済処理ソリューションを提供する米Aldeloは、旧式のキャッシュレジスターから最新システムへリプレースしてもらおうと、7万件の小売店とレストランにカタログを送付したという。
「ウエイターが大声で客のオーダーをキッチンに伝える時代は終わった」と、Mirageのマネジャー、ネイサン・スミス氏は語った。
モバイルのアドバンテージ
一方、小売業者の中には、モバイル端末の可搬性を最大限に活用しようというところもある。それによって、スタッフが店内を自由に移動し、顧客に応対できるようにする狙いだ。「ラインバスティング(行列をなくす)」を実践するために、販売スタッフが動き回る方式を取り入れたJ. C. Penneyでは、iPodで売り上げを記録することにより、POSキャッシュレジスター前の無駄な行列を解消した。
Urban Outfittersは、iPodとiPadを組み合わせたシステムを徐々に展開しつつある。この衣料品店が導入したiPadキャッシュレジスターは、本体を乗せたアームを動かして、顧客がインタラクティブに注文を確認したり、個人情報を追加したり、ギフト登録簿を作成したりできるようになっている。
またタブレットベースのPOSシステムは、店舗のフロアスペースを無駄に占有せず、使用しないときは取り外して、カウンターのスペースを商品の梱包作業などに開放することが可能だ。
「どの店でも」というわけではない
クローン氏によると、全米700万店の小売店のうち、タブレットベースのシステムを導入しているところは、まだ100万店に満たないという。
確かに、ある種の環境は、他の環境と大きく異なるのは事実だ。もしiPadがNordstromのカーペット敷のフロアに落ちても、大騒ぎするほどのことではない。だがiPadが軽食堂の客のスープボウルに飛び込んだら、恐らく何のトラブルも生じないというわけにはいかないだろう。
また、ウエイターやウエイトレスは、片方の手に料理の乗ったトレイ、もう片方の手にiPadを握ってバランスを取ることは、もはや曲芸に近いと感じるかもしれない。実際、その世界におけるロジスティクスは、じつに挑戦的である。
結論として、タブレット対応のキャッシュレジスター技術はまだ新しい分野であり、完全に安全性が確保されたものではなく、初期設定不要の“ターンキーシステム”としてパッケージ化されてもいないということだ。前出のコーヒーショップ、Mighty Goodのブライスデル氏も、同店のクレジットカードシステムが必ずしも常に正しく機能するわけではないと認める。「Squareのリーダーは必ずしも完璧ではない。トランザクションが通るまで、2回、3回と操作を繰り返さなければならないときもある」(同氏)
Mirage Diner Restaurantは、ウエイターにハンドヘルド端末を配布することも検討している。だがスミス氏によると、配布は少なくとも2014年以降になりそうだ。「われわれが技術者から聞いた話によると、タブレット技術は現時点で、まだ十分に成熟しているとは言い難い」と同氏は語る。
もっとも世の中の動きは、タブレットベースのPOSシステムの方向へ大きく流れている。遅かれ早かれ、棚の商品群と同じように、タブレットベースのキャッシュレジスターが小売店の店頭のありふれた存在になっていくことは間違いないだろう。
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