中小小売業のためのPOSデータ活用【第4回】
あるスーパーマーケットに見るPOSデータ分析の実践
POSデータの効果的な活用により、売上高や粗利益高の向上、販売機会ロスの削減や店頭在庫の適正化などに成功したスーパーマーケットの事例を紹介する。
さまざまな利益指標とPOSデータを連動させる
企業経営の目的が、企業のゴーイングコンサーン(※)である以上、適正な利益を獲得し続けることがあらゆる経営努力の最終成果物として最も重要であることは論をまたないだろう。ここでいう利益とはもちろん税引後当期利益のことであるが、それに至るためにさまざまな利益指標が設けられている。
(※)企業などが将来にわたって、無期限に事業を継続し、廃業や財産整理などをしないことを前提とする考え方(@IT情報マネジメント用語事典)。
各利益指標の算出方法
- 粗利益高=売上高-売上原価
- 営業利益高=粗利益高-コスト
- 税引後当期利益=営業利益高-営業外損益-特別損益-税
これらの変数をコントロールすることで利益が出てくるわけだが、この部分にPOSデータを活用する意義がある。これから紹介するのは、POSデータとこれらの指標とを組み合わせて経営効率を向上させたスーパーマーケットの事例である。
スーパーマーケットでは多種多様な商品が販売されているが、筆者の経験上、大きく2つの商品群に分けて考えることをお勧めしたい。1つは生鮮・日配商品であり、もう1つは加工食品や菓子などのドライグロサリー商品および雑貨などのノンフード商品である。いずれの商品群であれ、売り上げを上げて、販売機会ロスを減らし、在庫を適正化するためのポイントは、POSデータとほかの情報を組み合わせることである。
生鮮・日配商品のPOSデータ活用のポイント──鮮度情報
例えば、昼食用に「お刺身の盛り合わせ」が売れるだろうか? 商品は顧客が必要とする時間帯に並べる必要がある。鮮度の劣化が早い、刺身やすしなどの生鮮商品であれば、2、3時間で確実に風味が低下する。並んでいても鮮度の落ちた商品は売れないだろう。
事例のスーパーマーケットでは、店内で商品を加工していたが商品作りが間に合わず、せっかく顧客が来店しているのに商品が売れないという悩みがあった。この課題に対して、POSデータの時間帯別販売動向を活用した。客数のピークに合わせて新鮮な商品を提供することがポイントであるから、まずは「平日」と「週末」に分けて、「商品別」「カテゴリー別」に傾向を把握することが必要となる。さらに商品の鮮度を守り売り上げを増やすために、以下の3つの情報と連携した。
(1)製造データとの照合
店内で加工した商品は、計量値付器の値付けデータと照合することで、「何時に製造したものが何時に売れたか」ということが分かる。事例のスーパーマーケットでは「朝9時に製造された商品が夜の21時まで売場に並んでいる」といった状況が把握できたため、商品の製造を1日3回に分けることで、鮮度の向上、売り上げの向上、値引きの縮小を実現した。これらの単品の時間帯別販売数量に合わせて、販売計画および製造計画を作成し、製造計画に合わせて人員配置計画を組むことで、顧客が必要としている商品をちょうどよいタイミングで提供できるようになった。
(2)最終販売時刻
製造データと連動させることが難しければ、店舗の商品がちょうどよいタイミングで販売されているかどうかを確認するために、POSデータの最終販売時刻を指標にするとよいだろう。仮によく売れている商品の最終販売時刻が18時になっていたら、それ以降は品切れしていたということにほかならない。
(3)廃棄情報との比較
もう1つ、値下げや廃棄の情報とPOSデータの売れ筋情報を比較する方法がある。よく売れている商品に値下げや廃棄がまったくない場合には、その商品は欠品していると考えられる。逆にあまり売れない商品の値下げや廃棄が多い場合には、作り過ぎや鮮度の問題を考えるきっかけになる。
生鮮商品や日配商品の場合、POSデータの売れ筋情報を把握して、よく売れるものに多少の値下げや廃棄が出ているのが好ましい状態だといえるだろう。
ドライグロサリー商品、ノンフード商品のPOSデータ活用のポイント──在庫日数
ドライグロサリー商品やノンフードの商品の場合は、売れない商品がPOSデータに載ってこないことが問題である。もちろん長期間の情報を取れば、売れない商品も少しは販売情報があるかもしれないが、まったく売れない商品の場合にはPOSデータに反映されない。
売れ筋をつかみ、死に筋を排除するのがPOSシステム導入の初期目的であったはずなのに、死に筋を排除することはPOSデータだけではできないのが現実である。そこで、ここでもPOSデータとほかの情報を組み合わせる必要が出てくる。
単品棚卸しと在庫日数
長期にわたって単品の仕入れ情報を把握していれば、「仕入れがあるのに販売がない」ということで、死に筋商品を把握することができる。しかし、すべての仕入れを単品で誤りなく把握するには、多大な努力が必要だ。また、ケースで仕入れてバラ売りするビールやインスタントラーメンなどの場合には、それぞれの仕入れ情報とPOSデータを収集しても照合することができないものもある。
そこで最も単純な解決方法は、単品棚卸しを行うことである。単品棚卸しを行えば、それが単品情報として仕入れられていなくても、単品在庫情報が分かる。棚にある単品在庫が一定期間に販売ゼロであれば、それは死に筋商品だと判断できる。
ビールやインスタントラーメンなどの商品は、単品在庫日数が分かるようにしておくとよいだろう。具体的には商品マスターに関係情報を入れておくことで解決が可能である。単品在庫日数は単品在庫を一定期間の平均日販で割ったものである。例えば、ある商品の在庫が30個あり、月間の販売数量が3個であれば、平均日配は3÷30=0.1となり、在庫日数は30÷0.1で300日となる。つまり、現在の商品がすべて売り切れるには300日かかるということを意味する。
在庫日数による問題解決
スーパーマーケットでは、在庫日数がとても重要な意味を持つ。それは大きく3つの改善ポイントを示唆することができる指標であるからである。
(1)品切れの改善
第1は品切れ問題だ。仮にドレッシングが陳列されている棚を想像してほしい。商品はフレーバーごとに、「和風」「フレンチ」「ゴマ」「サウザン」と4種類あり、それがどれも4フェースずつ並べられているとする。さて、これらの商品の売れ行きは同じだろうか? きっと「和風」は1日平均7.5本売れるのに対して、「サウザン」は1日平均0.5本しか売れない、というように売れ行きに差が出てくるだろう。
棚の奥行きに8本ずつ入るとすると、棚を満タンにすると商品はそれぞれ32本ずつ入ることになる。そうすると「和風」は4日ちょっとで売り切れる数量だが、「サウザン」はすべて売り切れるのに64日かかることになる。同じタイミングで商品を満タンにしたとして、和風は常に売り切れてしまう危険、つまり品切れのリスクを持つことになる。当たり前のことだが、売れている商品で品切れが発生するのだから、品切れが多いとその分売り上げは下がる。
(2)作業の改善
第2は作業問題である。上記の例では「和風」は4日に一度補充しなければならず、「サウザン」は64日に一度でよいことになる。つまり効率が16倍違うのである。仮に両者の陳列量を変化させ、「和風」を倍の8フェースつまり64本陳列できるようにし、「サウザン」を1フェースつまり8本陳列できるようにバランスを変えた場合、両者の売り切れるタイミングは「和風」が約8.5日、「サウザン」が16日となる。つまり発注や陳列の頻度が半分になる。頻度が半分になれば作業も半分になるので、この最適化はコスト改善に効果をもたらす。また、売れている商品の陳列量を増やせば、顧客の視認性が良くなり、さらに売れることも期待できる。事例のスーパーマーケットでは、売れている商品のフェースを倍にしたことで、売り上げを15~20%上昇させることができた。
(3)売り場面積の改善
第3は参考としてとらえてほしいが、売り場面積問題である。スーパーマーケットにおける商品ごとの売り上げは、売り場面積に比例するといわれている。売り上げを上げたい、だから売り場面積を増やしたい。ならばどうするか。通常は新規店舗の出店により、売り上げを増やす。しかし、前述の視点で考えてみると、売り場面積の拡大は死に筋商品を排除することで実現できるといえる。在庫の実績にPOSデータの売れ行きを重ね合わせる、例えば売り上げABC分析の指標を単品在庫情報に重ね合わせた場合、C商品の在庫は3分の1以上になる。C商品の売上構成比は累計で5%未満であるから、これをカットしてもっと売れるA商品をより多く導入できたならば、売り場面積が増えたことと同様の結果をもたらすことになる。
また、死に筋商品が減ることは、資金効率の上昇にもつながる。小売業のような現金商売では、販売資金の現金回収期間が支払勘定の支払期間より短いので、回転差資金が発生する。例えば、ある商品の商品在庫日数が20日で、支払勘定の支払期間が45日だった場合、25日分の商品販売金額が常に手元に残ることになる。在庫日数を適正化することで、資本効率、作業効率、売場効率を最適化し、かつ顧客満足度を向上させることができるのだ。
顧客ID付きPOSデータのインパクト
ここまでは、「誰か」という視点を持たないPOSデータとほかの情報との組み合わせによる改善方法について述べてきた。最後に今後のPOSデータの活用として、顧客提供価値を上げる方法を考えてみることにしよう。
小売業のミッションは、「消費者(顧客)の購買の代理人になること」といえる。現在国内では年間数万アイテム以上の新商品が発売されている。1つの小売業者がそれらすべてを消費者に届けることは不可能である。そこで、小売業者が数ある商品の中からアソートして品ぞろえを行い、消費者が必要なものを、欲しい価格で、欲しい量で、さらに欲しいタイミングで提供しているわけである。
故に小売業者の競争力の源泉は、「いかに消費者の望む商品を品ぞろえできるか」という商品のアソートメント力にあるといえる。だからこそ、小売業者は消費者の望むもの、欲しいもの、そして自社での購買満足度について知らなければならない。それを知るための方法は、スキャンパネル調査やグループインタビューなどいろいろあるが、どれも限定的かつ一時的である。ここに顧客ID付きPOSデータを使うことで、全体的かつ永続的な調査が可能になる。
例えば、ある2種類の商品がそれぞれ100個ずつ売れたとする。1つの商品は、100人が1個ずつ1回限り購入する。もう1つは、10人が10回購入した。どちらの商品がポテンシャルを持つかは言うまでもない。リピーターの付いた後者、つまりロイヤルティーの高い商品こそがポテンシャルを持つといえる。
ロイヤルティーの高い商品はリピート率で分かる。ではロイヤルティーの高い商品の中で、自店のロイヤルティーに貢献しているものはどれだろうか。言い換えれば、どういった商品が自店に消費者を引き寄せる源泉になっているのか。顧客ID付きPOSデータは、売れる商品のデータから顧客が来店する理由を明らかにすることができる「強力な道具」になり得る。
この分析には幾つかの有用な方法があるが、有効なフレームワークを提示しておきたい。それは消費者行動のフレームワークである。
消費者行動のフレームワークと顧客ID付きPOSデータ
消費者の購買行動は、関与と判断力により決定される。それは下図のような構造を持ち、「関与」と「判断力」のマトリクスで構成されている。
関与とは、消費者が該当する商品やカテゴリーに対して、興味や情報を多く持つ場合に高くなる。例えば、普段の食生活ではコストを第1に考えて食材を探す主婦も、子どもの誕生パーティでは普段買わないような商品を購入する。この場合の主婦は「高関与」であるといえる。逆に「低関与」とは、あまり興味を持たない状況を指す。例えば、食器洗剤などの日用品については低関与であることが多い。
もう一方の軸である判断力だが、これは消費者が該当商品やカテゴリーに対する知識量や判断力が高いか低いかにより判別される。それぞれ4象限について事例で考えてみる。
1.高関与・高判断である場合
料理好きでレシピや食材に詳しい。自ら商品を探索する。コストをいとわない。
2.高関与・低判断である場合
料理好きだがレシピや食材には詳しくない。他人に聞く。コストをいとわない。
3.低関与・高判断である場合
料理には興味がないが、レシピや食材はよく知っている。コストを考える。
4.低関与・低判断である場合
料理に興味がなく、レシピや食材もあまり知らない。何でもよい。コストのみ。
店頭には多数の商品が陳列されているが、消費者視点で見た場合に、それぞれの顧客に対応するような商品が存在する。低関与商品とは一般的にコモディティー化の進んだ商品で、品質の下限を超えていればブランドなどに影響されず、価格のみが支配権を持つ商品のことである。例えば特売で販売されているティッシュペーパーは、品質の下限をクリアしている。つまりある程度聞いたことがあるブランドであれば、価格のみが購入のポイントになってしまう。しかし、同一カテゴリーの商品でも顧客の関与が変化すれば、対応するポジションも変化すると考えられる。2月から3月にかけての花粉症の患者であれば、ティシュペーパーはコストに関係なく柔らかく肌触りの良いものを選択することだろう。
この事実を販売者側である小売店の立場で考えると、低関与の商品に関しては来店理由が価格のみである場合が多いので、顧客ID付きのPOSデータは必要ない。活用の方法としては、価格弾性値などを計算し、周辺の競争状況をチェックして、品切れをしないように低価格で周知・販売するのみである
注力すべきは、高関与商品であり、それらの商品を購入している顧客の顧客ID付きPOSデータを分析することで、高関与商品がどのカテゴリーで購入されているのか、また、カテゴリー間での不買状況などチェックすることで、顧客が自店に来店する理由、または離れていく理由が分かる。
POSデータを有効活用するための3つのキーワード
これまで述べてきたように、POSデータはその出現当初から多くの期待を集めてきたが、なかなか有効活用を進めることができなかった情報である。しかし、有効に活用できれば、売場のみならず、企業経営、最終的には持続的な顧客価値の提供といった戦略に結び付けることができる。POSデータは単にPOSで販売しているだけでは有効に活用することはできない。有効活用のためのキーワードを3つ上げて、本稿の結びとしたい。道は平たんではないが、その先には豊かな成果が待っていることだろう。
POSデータ有効活用のためのキーワード
1.POSデータの正確性
すべての商品を単品でスキャンすること。
2.情報管理全体の精密化
POS以外の仕入・在庫などの情報についても単品化する。さらに顧客IDを付加したPOS情報を蓄積する。
3.活用する主体の意識レベル
売上高だけではなく、企業経営レベルにまで目を向けてPOSデータの有効活用を考えること。
滝口 勉
富士通株式会社 流通ビジネス本部 小売ビジネス推進統括部長 兼
富士通フロンテック株式会社 流通事業本部 主席部長
日本NCRでリテールビジネスセールスを経験し富士通に移籍。約30年にわたり、小売業向けのシステムコンサルティング、商品・事業企画、グローバルリテールビジネスなどに従事 。日本小売業協会IT戦略研究会、流通システム開発センターなどでの委員なども務める。
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