商用化に向けて課題の整理が進む
「Google Glass」が医療現場で使われるまであと1年
ウェアラブルデバイスに対する関心が高まる中、商用のGoogle Glass向け医療アプリが登場するのは2014年末かそれ以降になる見通しだという。商用化を妨げる課題が幾つか存在するからだ。
米Googleが開発中のメガネ型ウェアラブル端末「Google Glass」は、医療分野の強力なプラットフォームになる可能性がある。Google Glassを使えば、医療提供者は患者データに迅速にアクセスしたり、他の臨床医とビデオ会議をしたり、他にも多くの作業を行える。ただし、技術的な課題や法規制の問題があるため、業界で広く使われるようになるのはまだ何年も先かもしれない。
世界的電機メーカー、オランダのPhilipsの医療事業部門であるPhilips Healthcareは2013年10月、米Accentureと提携し、Android端末向けの既存の患者データ監視アプリをGoogle Glass用に移植する計画であることを明らかにした。
この機能的医療アプリはまだ規制プロセスをクリアしておらず、デモンストレーションプロジェクトの一部と見なされており、市場への投入はまだ当分なさそうだ。だが、Philips Healthcareで患者ケアおよび臨床情報事業担当最高マーケティング責任者を務めるトニー・ジョーンズ氏によれば、このプロジェクトは「Google Glassアプリによって、医師がデバイスの存在を気にせず、患者に集中できるようになる可能性」を示しているという。
治療時のビデオ撮影は可能?
「病院では多くの場合、フィードバックはモニター機器から発せられる。モニターが理想的な場所に置かれていれば素晴らしいが、現実にはそういうことはめったにない」と、ジョーンズ氏は語る。
だがジョーンズ氏によれば、Google GlassもPhilipsの医療アプリもまだ医療現場で広く採用されるレベルには達していないという。何しろ、Google Glassはまだ音声コマンドではアプリを制御できない。いずれはそうなる予定だが、今のところ音声コマンドでできるのはアプリの起動までだ。このことがGoogle Glassアプリの機能性を制限している。
だが、問題はこれだけではない。ジョーンズ氏によれば、開発者やエンドユーザーはアプリの動作についてもっとよく考える必要があるという。同氏は例として、アラートの通知方法を挙げる。監視アプリにとってアラートは極めて重要な役割の1つだが、ジョーンズ氏によれば、Google Glassの環境において「ユーザーに気付いてもらえるアラート」と「ユーザーの集中を削ぐアラート」の差は紙一重という。
セキュリティも懸念事項の1つだ。医療分野のビッグデータを扱う米Health FidelityのCEOで、認定外科医でもあるダン・リスキン医学博士によれば、医療現場でGoogle Glassを使用する際に念頭に置くべき基本事項は、医療現場でスマートフォンやタブレットを用いる場合とほぼ同じだという。デバイスのセキュリティ度合いは、そのデバイスが接続しているネットワークと同じであり、それ以上でも以下でもない。従って、院内ネットワークのセキュリティが強固であれば、デバイスへのデータストリーミングについて過剰な心配は不要という。
だがGoogle Glassについて語られている活用法には、治療時のビデオ撮影が含まれているケースが少なくない。リスキン氏によれば、治療中の処置を録画することに関して、患者は今後、「プライバシーを妥協してまで行う価値があるかどうか」の判断を迫られることになるという。中には、医師による処置を客観的に記録することに大きな価値を見いだす患者もいるかもしれない。だが、撮影した動画が外部に流出するリスクがメリットを上回ると考える向きもいるはずだ。「潜在的メリットと潜在的リスクのどちらが大きいのか? まずはこの点が問題になる」と、リスキン氏は語る。
米調査会社IDC Health Insightsの副社長、リン・ダンブラック氏は、医療機関がGoogle Glassを採用する上で障害となり得るもう1つの問題点として、相互運用性を挙げる。何しろ、EHR(電子カルテ)のベンダー各社は「Meaningful Use」(医療ITの有意義な利用)の要件を満たすことにかかりきりだ。「EHRシステムのベンダー各社は必ずしも、全ての新しいモバイルデバイスとの相互運用性の確保には取り組んでいない。このことは、医療現場におけるGoogle Glassの導入を遅らせる要因になるだろう」と、ダンブラック氏は指摘する。
ダンブラック氏によれば、モバイルアプリとウェアラブルデバイスに対する関心は確かに高い。だが、商用のGoogle Glass向け医療アプリが登場するのは2014年末かそれ以降になる見通しという。
「Google Glass対応のアプリは医師のモバイル性を大いに高めるはずだ。ただし商用化されるのは、まだかなり先だろう」と、ダンブラック氏は語る。
法規制の面でも道は険しい
前出Health Fidelityのリスキン氏によれば、Google Glass向け医療アプリの開発は向こう数年をかけて進められる見通し。ただし、法規制の面で不確実な点があるため、開発者にとってはデバイスの合法的な用途を正しく見極めるのが難しくなりそうだ。法規制面での不確実さには、医療用モバイルアプリの規制を今後もFDA(米食品医薬品局)が続けるのか、あるいはONC(米調整官室)のような別の機関が引き継ぐのかがまだ不透明であるという事実も影響している。
「向こう数年は、開拓時代の米国西部地方のような状況になるのではなかろうか。われわれにとって唯一の防御策は、信頼できる企業が自ら監視役を務めることだ。監視役がいないのは問題だ」と、リスキン氏は語る。
こうした困難はあるが、医療機関はGoogle Glassがどのように医師の役に立つかに関心を抱いている。前出Philips Healthcareのジョーンズ氏によれば、同社がデモンストレーションプロジェクトを発表した後、複数のプロバイダーから問い合わせがあり、Google Glassの使用法や完成版のアプリがいつ頃入手できそうかなどを尋ねてきたという。「業界全体に広く提供できるGoogle Glassアプリを完成させるには、まだ恐らくあと数年はかかる。だが、このプロジェクトをきっかけに人々がGoogle Glass向け医療アプリについて話すようになったのは、状況が進展しつつあることの証だ」と、ジョーンズ氏は語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー