「医療×ITベンチャーサミット」リポート(3)
医療・ヘルスケア分野を支える、多様なITベンチャー
成長分野として注目される医療・ヘルスケア市場。参入するITベンチャーは医療技術の集合知の形成、健診データを用いる自己管理の促進、医療セキュリティのハッカソン実施などユニークな事業を展開している。
2014年1月に神戸市で開催された「医療×ITベンチャーサミット」では、医療・ヘルスケア分野で新しい製品・サービスを提供するベンチャー企業6社が自社の取り組みを発表した。「医療産業都市・神戸市から、医療ITベンチャーの振興を提言」「未来を変える医療ITは“患者共感”型が主流に」に続き、同イベントの講演内容をリポートする。
世界中の医師の集合知の形成を目指す「e-casebook.com」
ハート・オーガナイゼーションは、2013年10月から「e-casebook.com」を展開している。e-casebook.comはインターネットを介して症例の検査画像などを共有し、専門医間で症例について議論する場を提供するコミュニティーサイトだ。
同社の代表取締役を務める菅原俊子氏は、製薬会社でマーケティングに従事した経験を持つ。1999年に心臓病のカテーテル治療方法をライブ中継する研究会の事務局業務を受託したことを皮切りに、各種ライブ研究会や医学学術集会などの活動を支援してきた。菅原氏は「医師の話を間近で聞いたり、医療の現場を数多く見ていく中、医療技術の専門性が向上して高度化・細分化される一方で、医療技術や新しい医療機器の習得方法は時間的・地理的な制約があり、非効率かつ限定的な部分もあった」と指摘する。そこで「医療の世界にもインターネットコミュニティーによる情報交換の仕組みを持ち込めないかと考えてe-casebook.comを立ち上げた」と説明する。
e-casebook.comは現在、循環器や心臓外科、放射線科における症例研究などが中心だ。菅原氏は「e-casebook.comにおける最終的な目的は“世界中の医師の経験を集積し、集合知を作成・共有することで私たちが受ける医療の質を高める”ことにある」と説明する。また、「医師ひとり1人が取り組んできた試行錯誤や失敗事例なども含めた情報を共有できれば、医療技術の発展に寄与したり、将来的に医療技術の格差を改善できるのではという思いが込められている」という。
e-casebook.comは画面の左側が症例ビュワー、右側がコミュニケーション機能という構成。専門ビュワーが必要となる画像情報をWebブラウザに表示でき、画像へのコメント付与や矢印、描画などの追記も可能だ。菅原氏によると「どの画像について議論しているかを番号で示したり、1症例の画像群の画像閲覧数を記録したりすることで、より議論を活性化する仕組みを取り入れている」という(特許出願中)。
また、参加者が画像のどの箇所を見ているかを集積してヒストグラムを表示したり、特定の医師がどの箇所を見ているかを共有することも可能だ(特許出願中)。さらに、画面下部には症例に関する詳細な情報を表示したり、どの医療機器を選択したかなどのメタデータを蓄積している。将来的にはこれらのデータを分析することも視野に入れている。
菅原氏は「2016年には1万7000人のコミュニティーを形成するなど、将来的にはグローバルなネットワークを構築したい」と意気込む。現在は医療技術の教育向け案件の引き合いが多いが、医療機器メーカーにおけるトレーニングコースにも活用されつつあるという。また、専用ビュワーがなくても画像情報を共有できるため、中核病院と診療所との病診連携にも役立てられるよう発展させたいと説明する。
100万人の健診データと照らし合わせ、自分の健康状態を同年代と比較できる「wellcan」
ウエルネスデータは、2013年1月から健康ポータルWebサイト「wellcan」を展開している。wellcanは、ウエルネスデータが独自に構築した病気データベースと日本医療データセンターから提供される100万人の健康診断データを照らし合わせて、ユーザーの健康状態を同年代の傾向と比較したり、将来の健康リスクを把握したりできる機能を提供する。
ウエルネスデータの代表取締役 星野栄輔氏は、日本医療データセンターなどに勤務した後、2012年にウエルネスデータを設立した。「健康診断を単に会社で受けさせられるものと捉えるのではなく、自分の健康状態をチェックできる有効な情報源として見直してもらいたかった」とwellcanの開発経緯を説明する。
wellcanでは、ユーザーが健康診断の結果を入力することで、各健診項目の同性別、同年代の自分の健康状態(位置)を可視化できる「健診値と病気の同年代分析コンテンツ」を利用できる。星野氏によると、特に30~40歳代の利用者が将来的な健康リスクについて早めに気付くことに役立つという。「誰もが寿命を迎えるまで元気に過ごしたいと願うが、実際にそうした生活を送れるのは10%ほど。また、多くの30~40歳代の人々が“自分はまだ大丈夫”と考えているが、早期治療を始めないとQOL(Quality of Life)の低下はすぐに進む」(同氏)
また、ある健診項目の結果が自分と同位置の人がかかりやすい病気のリスクも把握できる。例えば、HbA1c値から糖尿病リスクを判断して表示する。生活習慣病になる前に早期治療を行うことで医療費の抑制にもつながるという。
ウエルネスデータは2014年1月、wellcanの法人向けサービス「健康ナビゲーター」を提供開始した。健康ナビゲーターは「健診データと病気の同年代分析」などの基本機能に、人間ドックやフィットネス事業者向けに特化した機能を組み合わせて提供する。
人間ドック向けでは、受診者に次回予約の忘れ防止や受診メモ、健診データの分析、病気検索、病院検索などの機能を提供する。フィットネス事業者向けには、トレーナーがフィットネス会員の健診結果と体組計データを組み合わせるカウンセリング機能などを提供する。星野氏は「服薬指導や食事、運動指導などを手掛ける企業や組織との連携も視野に入れている」と今後の展開を述べる。
「医療Hackathon」で新しい医療アプリケーションの創出を
1995年に創業したEyes, JAPANは“Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.(優れたテクノロジーは魔法と区別がつかない)”をコンセプトに掲げるベンチャー企業だ。同社のCEO(最高経営責任者)を務める山寺 純氏は「ITは物事を解決するショートカットになり得る」と語る。同社は、産学官と連携したR&D(研究開発)を中心に事業を展開。その1つとして、医療アプリケーションの開発プロジェクトに取り組んでいる。
山寺氏は、2009年に最新の医療系ITサービスを発表する国際年次カンファレンス「Health 2.0」に参加したことを契機に、2010年に福島県で「Health 2.0 Fukushima Chapter」を立ち上げた。2012年には日本では初となる「医療Hackathon」を開催した。
Hackathonとは、ソフトウェア開発者(プログラマー)やグラフィックデザイナー、UI設計者、プロジェクトマネジャーなどが集中的に共同作業を行うイベント。2012年の医療Hackathonでは「Codethon(プログラム)」「Designthon(デザイン)」「Ideathon(アイデア)」の3競技に7カ国から社会人や学生、研究者などが参加。「スマートフォンなどを使った新しい医療アプリケーション/サービス」「オープンソースを活用した医療アプリケーション」などをテーマに、アイデアの立案から約24時間でのプロトタイプ開発、プレゼンテーションを実施した。このイベントでは5つのアイデアが事業化している。
その後、2013年3月には経済産業省 東北経済産業局 平成24年度地域新成長産業創出促進事業の支援を受け、「Medical × Security Hackathon 2013」を、東日本大震災からの復興支援を目的として福島県のアルツ磐梯スキー場で開催。新しい医療アプリケーション/サービスの創出、提案、開発などを競う「Medical Hackathon」と、医療機器やソフトウェアの脆弱性調査、侵入テストなどを競う「Security Hackathon」の2競技を実施した。
2013年大会のMedical Hackathon優勝チームは、2013年10月に米国で開催された世界大会「Health 2.0 San Francisco 2013 Developer Challenge」に参戦。WHO(世界保健機関)や世界銀行のデータを可視化するという課題に挑戦し、見事に優勝を飾っている。
また、「医療機器もテロの対象になり得る。2013年のSecurity Hackathonでは、わずか20分で医療機器の脆弱性を発見できた」(山寺氏)など、医療機器のセキュリティ対策への課題を指摘した。
| 医療機器・ソフトウェア | 脆弱性の種類 |
|---|---|
| OsiriX Imaging Software | Webサービスにおけるクロスサイトスクリプティング(XSS)の脆弱性 Webサービスにおけるクロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF))の脆弱性 DICOMライブラリ実装およびツールキットにおけるXMLインジェクションの脆弱性 DICOM ライブラリ実装およびツールキットにおけるXML外部エンティティ処理(XXE)の脆弱性 |
| 日医標準レセプトソフト ORCA | 複数の処理部分におけるSQLインジェクションの脆弱性 |
| ConQuest DICOM Software | Webサービスにおけるクロスサイトスクリプティング(XSS)の脆弱性 Webサービスにおけるサーバサイドリクエストフォージェリ(SSRF)の脆弱性 Webサービスにおけるスタックバッファ・オーバーフローの脆弱性 WebサービスにおけるSQLインジェクションの脆弱性 |
Eyes, JAPANは2014年2月27、28日に「Health 2.0 Fukushima Chapter/Medical × Security Hackathon 2014」を実施した。TechTargetジャパンではその模様を後日リポートする予定だ。
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