ローソンの都内2店舗が試験サービスを運用中
症状に合った最適な市販薬が分かるアプリ「ANZOO」で薬選びが変わる
ドラッグストアやコンビニで市販の風邪薬を購入する場合、どうやって薬を選んでいるだろうか。アレルギーや持病に合わせて副作用がより少ない薬を教えてくれる支援サービスの試験運用が始まっている。
「くしゃみや鼻水、咳が止まらない。のどの痛みや熱も出てきた。でも、医師に診察してもらう時間も取れない」――そんなときに便利なのが、近くの薬局やドラッグストアなどで購入できる市販の風邪薬だ。
医師の処方せんがなくても購入可能なこうした市販の医薬品は、カウンター越しに購入できることから「OTC(Over The Counter)医薬品」とも呼ばれる。最近では、販売資格を持つ薬剤師や登録販売者がいるコンビニエンスストアでも購入可能だ。自分自身で健康管理を行い、軽い病気の症状緩和などにも自分で対処する「セルフメディケーション」時代といわれる今、OTC医薬品を利用する機会はさらに増えることだろう。
もし、あなたが風邪をひいて市販の風邪薬を購入する場合、どうやって薬を選んでいるだろうか。
「どんな薬も使用方法を誤れば、毒にもなり得る。日本のOTC医薬品は数種類から10種類程度の成分を含む配合剤が多く、不必要な成分を取り入れることで思わぬ副作用を招くこともある」。医療分野のシステム開発などを手掛けるCDSystemの代表取締役社長 陳 惠一氏は、OTC医薬品の使用に関するリスクを説明する。
米国の医療機関に14年間勤務した経験を持つ陳氏は「日本の患者は広告などでよく知っているブランド製品を選ぶ傾向にあり、アレルギーや持病などによって服用できない成分が含まれていることを理解している患者は少ない」と、日本のOTC医薬品の取り扱いや販売体制などに漠然とした違和感を覚えていたという。
2005年に日本に帰国した後、陳氏は抗ヒスタミンが配合された総合感冒薬を服用している男性に有害事象が発生していることを報告する。「抗ヒスタミンは、多くの総合感冒薬に含まれている。薬学部の授業では『前立腺肥大症を持つ患者は抗ヒスタミンの服用を避けるべき』だと習う。しかし、成分ごとの慎重投与/禁忌などを全て記憶することは不可能に近く、対面販売の場で患者の症状や既往歴などに応じた商品を瞬時に提案することは容易ではない」と指摘する。
薬剤師や登録販売員が患者の状況を理解し、商品に含まれる薬効成分と照合して最適な薬を提供することで回避できる副作用もある。こうした事実を基に、患者が安心して薬を購入できることを目的として、CDSystemが開発したアプリが「ANZOO(アンズー)」だ。ANZOOは、簡単なチェック項目によって利用者ごとに最適な医薬品を提案する(画像1)。既に東京都内のローソン2店舗が2013年10月から販売サービスの試験運用を開始している。ANZOOを活用することでOTC医薬品の選び方はどう変わるのだろうか。
300種類以上の薬効成分を評価し、最適な薬を提案
ANZOOでは、質問項目の回答内容から症状や既往歴などの情報を取得し、独自のデータベースと照合して患者に合ったOTC医薬品を選択して提案する。また、患者自ら操作することで薬剤師の対応時間を減らすなどの負担軽減にも役立てられるという。
ANZOOのデータベースは、日本医薬情報センター(JAPIC)の医療用医薬品添付文書情報データや米国食品医薬品局(FDA)の「OTC drug monograph」などを基に薬効成分を評価し、CDSystemが成分の表記の揺らぎなどを修正した上で、薬効分類などを付与して蓄積している。
CDSystemの副社長 南野充則氏は「薬効成分の評価内容は、薬剤師や医師がチームを組んで検証している。日米間で効能の評価が異なる場合でも、常に最新のエビデンスを基に評価できる点が強み。300種類以上の薬効成分を評価するアルゴリズムを用いている」と語る。
通常のOTC医薬品の提供フローでは、薬剤師が患者の基本情報や症状をヒアリングし、その内容を評価した上で治療方針を選択する(トリアージ)。場合によっては、医師への受診を勧奨することもある。その後、服薬に関する説明やフォローアップなどを適宜実施する(図1)。
提供フローに従いANZOOはどう活用されているのか。ここからは、実際の利用手順を踏まえながら見ていこう。
私の症状に合った風邪薬を教えてください!
利用制限を設定
ANZOOでは利用に関する同意を得る前に、幼児(6歳未満)や妊婦・授乳婦、虚弱な高齢者、重篤な疾患がある人などへの利用制限を設けている(画像2)。
4種類の薬が選べる
タブレット端末を用いて、表示項目をタップすることで質問に回答する。選択できる薬は「風邪薬(総合感冒薬)」「頭痛薬」「生理痛薬」「便秘薬」の4種類(2013年12月時点)。最も登録薬数・利用数が多いのが風邪薬だ(画像3)。
ガイドラインに従い、受診勧奨を行うことも
「症状が3日以上続いている」「熱が39度以上ある」「心臓病を患っている」など、受診勧奨のガイドラインに沿って、利用者に医療機関への受診を勧める内容を表示する(画像4)。
患者情報を基に成分の振り分けを行う
患者情報入力画面では、年齢や性別、アレルギー禁忌などの患者情報を入力。10種類の持病(基礎疾患)や飲酒の有無などを選択する(画像5)。「この入力内容を基に服用してはいけない成分を排除する」(陳氏)
風邪薬における症状選択を見てみよう。風邪薬では「熱」「のど」「鼻」の3つの症状を選択する(画像6)。
選択内容を基にその患者の症状改善に有効な成分、特に必要がない成分などをデータベースで照合して、薬の優先順位を付ける。その結果として、より最適だと思われる上位の薬から一覧で表示する。例えば、「熱」「のど」の症状があると選択した場合は、以下のリストが表示される(画像7)。症状の改善に有効な成分が色付きで表示され、特に必要のない成分はグレーで表示される。
また、禁忌や慎重投与など副作用のリスクがある成分については、注意を促すマークが表示される。その成分をタップすると、具体的な理由が表示される(画像8)。
ANZOOを使うと「患者がよく購入していたり、普段見慣れていたりする薬が出てこないこともある。しかし、成分ベースで評価した患者にとって“本当に最適”な薬を提案している」(陳氏)。また、検索結果の一覧には薬の参考価格や内容量も表示され、価格の低い順に並べ替えることもできる。さらに条件を変更してすぐに再検索でき、画面右上には該当する薬の割合が表示されるなどの工夫が凝らされている。
「実際の症状に合わせて選択しながら、自分の症状に合う成分が含まれる薬を安全に選べる。また、イラストで分かりやすく成分を解説するため、患者がOTC医薬品に対する知識を少しずつ得ることで、より安全に使用することが可能になる」(南野氏)。
さらに各商品の右側に表示される「商品説明」をタップすると、その商品の添付文書が表示される(画像9)。購入する前に読むことで商品の内容をあらためて確認できる。いざ服用しようとしたときに、添付文書を読んで実は服用してはいけないことが分かった、ということも防げるという。
実際の現場では、購入した医薬品を渡す際には「熱があるので水分を補給しましょう」というフォローアップを行うことがある。ANZOOでは、同一店舗内にそうした関連商品がある場合、検索結果画面の下に「併せて買いたい商品」として、経口補水液や食品などを表示することも可能だ(画像10)。
「きちんとした指導やフォローアップを実施することが難しい場合もある。ANZOOを活用することで、導入店舗内の業務の標準化や治療支援の平準化、提供サービスの向上も期待できる」(陳氏)
患者参加型医療の実現にITを最大限活用してほしい
現在、ANZOOはiOS端末に対応しており、無線LAN環境があれば利用できる。OTC医薬品を取り扱うローソン湯島駅前店と、販売と保険調剤を行うローソンホーム薬局西蒲田の2店舗で試験運用を行い、そのフィードバックやアンケートを基に改良を重ねている。目薬、花粉症など順次対象商品を広げる予定だ。また、薬剤師や登録販売者向けのより専門的なサービスを検討中で、患者個人の利用履歴の管理やPHR(Personal Health Record)などシステム連携の拡張を視野に入れているという。
2013年1月に設立されたCDSystemは、米国の医療ITシステムの考え方の1つである「CDSS(Clinical Decision Support System)」から命名している。同社CTOを東京大学大学院情報理工学系研究科に在籍する小林尚生氏が務めるなど、東京大学大学院のメンバーがシステムを開発している。社員数は7人と少数だが、弁護士や公認会計士、病院の薬剤部長など多職種なメンバーが事業をサポートしている。
陳氏は「米国ではITを活用して医療全体の合理化を進め、業務の効率化や医療の質の向上、医療費の適正化などにつなげている。日本の現状を批判しているわけではなく、ITを活用することで日本の医療が抱える課題の解決を支援していきたい」と語る。
また、「医療分野のIT化メリットは、患者参加型の医療提供が実現できること。患者が積極的に治療方針決定に参加し、それに従って治療を受けるアドヒアランスを向上させるためには、患者自身が薬の効能を理解して服用できる環境を作ることが重要だ。その実現のためにANZOOを最大限に活用してもらいたい」と説明する。
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