川崎市全域で試験サービスを開始
ソニー、FeliCaを利用した「電子お薬手帳サービス」で普及を後押し
ソニーは2013年秋、「電子お薬手帳」の試験サービスを神奈川県川崎市で開始する。同社が開発した個人情報とデータを分離してクラウドに蓄積する技術でセキュリティを担保しながら、FeliCaの採用で利便性を高めている。
調剤薬局や医療機関で調剤された薬の情報を管理する「お薬手帳」。処方された薬の名称や用量、用法などの情報や服薬履歴を一元管理することで、薬物アレルギーや副作用の防止、重複投与チェックなどに役立てることができる。
東日本大震災の現場では常用していた薬の名前などを覚えていなかった被災者に対しても、お薬手帳が適切な医薬品の配給に有効だった。また、2012年4月から「薬学管理料(薬剤服用歴管理指導料)」にお薬手帳の費用が含まれたことなどから原則として全ての患者に発行されている。しかし、紙媒体のお薬手帳では薬局に持参するのを忘れたり、発行された調剤情報のラベルシールを貼り忘れるなど、継続的な履歴管理が難しいと指摘されている。
お薬手帳の普及を促進するべく、ソニーは現在、非接触型IC技術「FeliCa」を採用した電子お薬手帳サービスの開発を進めている。2013年秋には、神奈川県川崎市全域で試験サービスを開始する予定だ。
FeliCaカードを使った手軽な電子お薬手帳サービス
ソニーが開発したのは、
- 個人情報に配慮しながらデータをクラウドに蓄積するシステム
- FeliCaカードを使った電子お薬手帳サービス
- 患者向けスマートフォン用アプリケーション
などだ。
電子お薬手帳サービスの利用者は、FeliCaチップが埋め込まれた専用カードを保有する。調剤薬局で専用読み取り端末にカードをかざすだけで、調剤履歴の閲覧や調剤情報の記録などができる。
また、薬局側は調剤レセプトコンピュータ(レセコン)に入力した処方・調剤情報データを患者に代わり専用のクラウドサーバに記録する。このクラウドサーバは、調剤システム処方インタフェース共有仕様「NSIPS」に対応するレセコンと連動する。
クラウドに蓄積された情報は、薬剤師が持つタブレットでも参照可能。薬剤師用タブレットでは、画面の右側に今回の調剤薬、左側に過去の調剤薬の履歴情報が表示される。
また、各薬剤の詳細情報や副作用一覧、過去の薬と対応付け、初めて処方した薬のチェック事項などを表示できる。各種情報を示しながら、患者への服薬指導に活用できる。
患者向けスマートフォンでセルフメディケーションを支援
ソニーは患者向けのスマートフォン用アプリケーションを開発。Android/iOS端末で利用できる。このアプリでは、患者自らが電子お薬手帳の情報をいつでも参照できる。薬の一覧や詳細情報、ジェネリック医薬品などを表示する。また、飲み忘れを防ぐため、服薬アラートを設定できる。服薬後に副作用が出た場合、「副作用ボタン」をクリックするとその内容を記録できるメモ機能を備えている。メモの内容は薬局でカードをタッチすることで薬剤師と共有できる。
ソニーのビジネスデザイン&イノベーションラボラトリ 福士岳歩氏は「患者と薬剤師を結ぶ“リスクコミュニケーション”を実現する。また、患者の家族の服薬管理も可能で、子どもや離れて暮らす両親などの情報も共有できる。患者とその家族、薬剤師をつなぐ“セルフメディケーション”を実現する」と導入メリットを説明する。
個人情報に配慮した情報蓄積システムの仕組みとは?
クラウドのデータ保管に対しては、福士氏は「クラウドを利用した一般的なサービスでは、患者の個人情報とデータをペアで保存する構造を取る。外部からのサイバー攻撃に備えて暗号化を施すことはできるが、内部の不正利用に課題が残る」と指摘する。
ソニーが開発した情報蓄積システムでは、患者氏名などの個人情報、調剤データを分離する仕組みでセキュリティリスクを低減している。個人情報はFeliCaカードで管理し、調剤データのみをクラウドサーバに保存する。各データは暗号化し、共通IDを割り当てて管理する。読み取り端末にカードをかざすと共通IDによる照合を経て、クラウドのデータを取得し、暗号化された文字列を解読することで個人情報と調剤データを組み合わせて表示する。「紛失した場合や不正使用をされた場合でも、カードを持参する際に対面式の認証を行っているため、データの漏えいを防ぐことができる」(福士氏)
お薬手帳の普及に貢献
ソニーは2011年11月から川崎市宮前区の医師会、薬剤師会の協力の下、同地区の調剤薬局20施設でサービスを提供する実証実験を行っている。その監修を務めた五十嵐 中氏(東京大学大学院薬学系研究科 医薬政策学 特任助教)によると、現在までの利用者は約1000人に上るという。
自身も薬剤師の資格を持つ五十嵐氏は、「この実証実験以外にも“どうしたら薬剤師がもっと患者の役に立てるか”をテーマにしたプロジェクトに取り組んでいるが、1000人ほどの参加が得られているケースはまれ。患者にとって分かりやすいメリットがある証だといえる。地域医療のゲートキーパーとしての薬剤師と、患者との架け橋になることを支援できるサービスだ」とコメントしている。また「お薬手帳の利用率は、乳幼児、子どもや高齢者などは高いが、生産年齢といわれる15~64歳の世代は低い状況。スマートフォンやICカードを利用したお薬手帳は、そうした世代にも利用してもらいやすい」と分析する。
統計データ利用への応用も視野に
ソニー 執行役 EVPの鈴木智行氏は「クラウドのデータ保管における情報漏えいリスクを排除できる画期的な方法。サービス提供者は煩雑な個人情報の管理から解放され、患者は個人情報の利用に関する不安を解消できる。また、個人情報のない統計データ利用にも応用できる」と説明する。
ソニーは川崎市での試験サービスを通して、完成度を高めて事業化を目指す。今後はお薬手帳以外のサービスへの展開も視野に入れている。具体的には、自治体や製薬会社、研究機関などが同意を得た患者のデータのみを利用してインフルエンザなどの感染症の流行情報、服薬で発生する可能性がある有害事象の早期発見などへの応用を検討している。「患者に有用な情報をフィードバックできるサービスを目指す」(鈴木氏)
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