従業員は大切なお客さま
モバイル化でも答えが見えない「会社の用意するアプリが使いにくい問題」
企業がモバイル化を成功させるためには外せない要件が従業員のコミットである。彼らの声を反映させなければ、もはやIT部門に勝ち目はないのだ。
コンシューマライゼーションの時代において、企業がモバイル化を成功させるためには条件がある。それは、IT部門が従業員の生産性向上をサポートし、従業員のデータに責任を持つことだ。これらのテーマは、2014年7月下旬に開催された「BriForum」でも詳しく取り上げられた。
ITのコンシューマライゼーションは、エンドユーザーである従業員に権力を与えている。職場のモバイルポリシーに従業員の声を反映しなければ、IT部門は勝ち目のない勝負に挑むことになる。
これは2014年7月下旬に米ボストンで開催された「BriForum 2014」の幾つかのセッションに参加した筆者の所感だ。このイベントでは、モバイルの偏在性が語られ、変化する状況に対応する最適な方法について専門家が秘策を共有した。
米CompTIAが最近実施したアンケートによると、正式なモバイルポリシーを施行している企業は約30%にすぎない。ベストプラクティスを共有している企業は21%、一切のポリシーを策定していない企業は10%にも上る。
ただし、企業がモバイルポリシーを施行していても従業員のことを十分に考えていない可能性がある。そのような場合、企業は望んでいる結果を得ることができない。そう語るのは、このイベントで講演したブライアン・カッツ氏だ。同氏は、米ニュージャーシーの大手製薬会社でモバイルイノベーション部門のトップを務めている。
「ユーザー不在のポリシーを作成したところで、ユーザーがポリシーに目を通すことはないだろう」(カッツ氏)
カッツ氏のセッションでは、複数の参加者から次のような発言があった。「モバイルポリシーは、IT、セキュリティ、法務、コンプライアンスを扱うチームが作成することが多い。モバイルデバイスのユーザーがポリシーの作成に参加しないことは、企業が犯してはならない最大のミスである」
「企業が抱える最大の資産は従業員だ。従業員がポリシーの作成に参加することで従業員の同意を得られれば、従業員は最大の支援者となる」とカッツ氏は指摘する。
「従業員にデバイスを渡して、その管理方法を習得しただけでは、企業をモバイル化することはできない」(カッツ氏)
従業員は、生産性を維持するためにモバイルデバイスでもアプリケーションにアクセスする必要がある。また、モバイルデバイスでも、デスクトップ版のアプリケーションと同じ操作性が提供されることを望んでいる。
米サンフランシスコにあるデータの監視と分析を行うSplunkでソリューションアーキテクトを務めるジェイソン・コンガー氏はモバイルアプリケーションに関するセッションで次のように話した。「この願望がイライラを引き起こすのは、モバイルアプリケーションの主な入力デバイスが指だからだ。ボタンが小さすぎて、適切なボタンを押せないことが少なからずある」
企業は従業員の操作性を第一に考慮し、カッツ氏がいうところの「会社から使うことを義務付けられている低品質なアプリケーション」を避けなければならない。
「アプリを開発して1000人の従業員のデバイスに導入したとしよう。導入から1日たったときに従業員が誰1人アプリを起動しなければ、従業員が使いたくないと思っていることの意思表示に他ならない。アプリがどれだけ優れていても関係ない」とカッツ氏はいう。
従業員とデータの採取、漏えい
IT部門と従業員の関係は、企業のデータに関連する問題を長年にわたって引き起こしている。データの漏えいは、形を変えながら長年発生している問題だ。最初はフロッピードライブやzipドライブが原因だったが、今はメールや「Dropbox」などのコンシューマーアプリケーションが原因となっている。IT部門は、データ漏えい防止のためにデータの暗号化やセキュリティ確保に取り組んできた。その手段として、サーバベースのコンピューティングや仮想デスクトップインフラが導入された。
この対策により問題は深刻化した。そう語るのは、あるセッションで講演したデイビット・スタフォード氏だ。同氏は、米VMwareでエンドユーザーコンピューティングの製品管理部門のディレクターを務めている。
「ITシステムはアル・カポーネ(イタリア系アメリカ人のギャングで1930年代にシカゴで最大の犯罪組織を築いた)の金庫室のようになっている」(スタフォード氏)
IT部門はデータベースを保護してデバイスを暗号化するために、あらゆる手段を講じている。そのため、ITシステムには従業員によるデータ採取を引き起こすものは残されていない。現在IT部門が抱えている問題は、データが外部に出て行くことを制限することではない。従業員がデータを元に戻すように働きかけることだとスタフォード氏は語る。
「従業員は統制されたロボットではない。実際にメリットがある作業を行うためのツールの使い方を知っている人間だ。使いやすくて役に立つものを使う」(スタフォード氏)
従業員は、普遍的で恒久的で分かりやすいデータにアクセスすることを望んでいる。「IT部門は2要素認証や仮想プライベートネットワークを導入することで上級幹部社員から称賛を得られるかもしれない。だが、その一方で、IT部門が認可したシステムから従業員をさらに遠ざけている可能性もある。このようなシステムは、従業員がデータやアプリケーションに簡単にアクセスしたり、いつでもアクセスしたりするのに役立たないからだ」とスタフォード氏は指摘する。
IT部門が、この問題を解決するシンプルな方法はない。まず、従業員が最優先されるべきコンシューマーであることを認識する必要がある。このことを認識すれば、IT部門は、一方的に指示を押し付けるのではなく、従業員と共生関係を築く機会を持つことができるだろう。
「従業員には『あなたは、私たちのお客さまなので、ぜひ私どものサービスをご利用ください。このサービスをご利用いただいた場合に得られる価値を説明しましょう』というスタンスで接するのがよいだろう」(スタフォード氏)
ソーシャルエンタープライズツールを使用すると、従業員はコラボレーションコミュニティーで質問を投稿したり、コンテンツを作成したりできるようになる。従業員が退職した後も企業の知的資産は保護される。
データ採取に関する問題には、さまざまな解決方法がある。だが、データを暗号化する必要があることに変わりはない。10年前はデータの暗号化に巨大なプロセッサと仮想マシンが必要だった。その頃と比べれば簡単に暗号化できるようになったとカッツ氏は振り返る。今必要なのは適切なバランスを取ることだ。
「私たちはコントロールできないベクトルについて考えることに多くの時間を費やしている。具体的には、従業員のセキュアなチャネルを実現する方法とそれを実際にどうやって実現するかについてだ。セキュリティについて考えることには多くの時間を費やしている。だが、従業員の操作性について考えることにはあまり時間をかけていないのが実情だ」(カッツ氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
[Dropbox Japan株式会社] ランサムウェア対策で見直したい「復旧できるファイル基盤」とは? -
製品資料
[Dropbox Japan株式会社] さよならファイルサーバー クラウドストレージへの移行はこう進める -
比較資料
[セコムトラストシステムズ株式会社] 「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 過去にRPA導入をあきらめた企業こそ知っておきたい 失敗しない自動化導入術 -
製品資料
[株式会社キーエンス] 自分ひとりでデスクワークを効率化 「AI&ナビ搭載RPA」で実践する業務自動化
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
4
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
5
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
6
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
9
「有線LAN環境」に関するアンケート
-
10
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
3
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
8
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
9
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー